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罠師ですけど戦います!!  作者: Saban
第一章: 罠師よ、常識を壊し続けろ!!
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009:紐解かれる一つの謎

第一章:罠師よ、常識を壊し続けろ!!


009:紐解かれる一つの謎


「 最初に違和感を感じたのは、実は集会所を出た後にエリカさんからこの森の生態を聞いたときからだったんです 」


脳裏に数十時間前の光景を浮かべる。

そして同時にその時のエリカさんとの会話を思い出す。


「 この森は別つようにしてある崖によって魔物の危険種レベルが違う。加えてそのどちらも“夜行性”という特徴を持っている。これって“この森に限って”おかしいと思いませんか? 」


俺の問いに目の前で真剣に話しを聞いていた二人は首を横にふり、分からないといった顔つきを浮かべる。


俺はそれに答えるように話を続けた。


「 魔物の多くは人と同様に、昼に活動し、夜に眠るといったサイクルを持っているものが多い。けどこの森にいる魔物のほぼ全てが夜行性。ある特定の種だけならまだしもその殆どなんて“ありえない”。つまりこれは、この森にいる魔物が“なんらかの理由”で昼に活動することができなかったということの証明になります 」


今だ分からないといった顔つきを浮かべるエリカさんに、もっと分かりやすく話せるように思考を凝らしてみる。


「 例えば、砂漠地帯のダンジョンで考えてみましょう。砂漠地帯のダンジョンは昼には灼熱。夜には寒冷と、昼と夜とで気候が一転しています。そしてそこにいる魔物たちはその環境に適応するように、昼活動するモノは熱の耐性を身に付け、夜活動するモノは寒冷の耐性を身に付けます。そうすることで、魔物たちはそれぞれのサイクルを作り出すんです 」


そう、全ての魔物はそのダンジョンに適応するかのように進化を繰り返し、そして新たな種として誕生を繰り返す。それなのに、この森では“何もない”にも関わらず、その殆どの種が“夜行性”という特徴を持っていた。


この森にいる魔物たちは砂漠地帯のダンジョンに生息する、昼の暑さに適応することができなかった為に、夜に活動することを選んだ“夜行性”の魔物とは、特徴こそ同じでもその進化の“理由”が明らかに違う。


俺の解説に「なるほど」と相槌を打つエリカさんを見て、本題にきって出る。

問題はここからなんだ・・・


「 俺、思ったんです。もしかして、崖下にいた魔物も元は同じ崖上にいたんじゃないかなって。でもその崖上にはそれらを遥かに凌ぐ強力な“朝に活動する”魔物がいた、だからそれに及ばないでも力のある魔物たちは捕食されるのを恐れて、命からがら崖を下りその強力な魔物が活動しない“夜”に活動するようになったのではないかって・・・ 」


「 ・・・ちょっと待って 」


俺の話を遮るようにナリィさんが納得のいかないといった顔つきで言葉を発する。


「 それだけで推測するのはどうかと思う・・・だってその説を通すなら崖上で今だ存在してる“ウルフマン”みたいな魔物はどうなるの?もし、君の言うとおり危険な魔物がいたのなら、今頃崖上にいる生き物はその魔物だけになってるんじゃない? 」


ナリィさんの言葉にエリカさんが「成る程」と呆けたように呟く。


俺はそんな彼女を放っておいて、ナリィさんに言葉を返す。


「 全くもってその通りです。確かにこの仮説を通すならまだまだ問題点が山積みです。だから、ちょっとだけ思考を切り替えて考えてみたんです 」


「 思考を切り替える? 」


長話になりそうなので、焚き火の前へと腰を下ろし二人にもそれを促す。


そして俺の指示に従って二人が腰を下ろしたのを見て再び思考を吐き出す。


「 そうです、例えば問題となっているその強力な魔物は既になにかしらの方法で撃退された・・とか 」


「 撃退って、誰がやったのよ 」


ようやく話についてこられたのかエリカさんが食いつくように質問を投げかけてくる。


「 そうですね・・・かつてこの森にいた民族っていうのはどうですか?彼らはこの森に“夜に光る標”を残した。これって、俺の仮説ででた魔物の“朝に活動する”という特徴に対しての策だと思いませんか? 」


俺の仮説では、この民族は強力な魔物と対峙していた。


故にそれが活動しない“夜”に動いていた・・・ただこれはまだ上手くパズルが完成していない問題でもある。


「 でも、もしあんたのいう推測が正しいならなんで民族は滅んだってのよ。それに魔物はそいつらが撃退したんでしょ?なら行方不明となった生徒達とは関係ないんじゃないの? 」


エリカさんが必死に頭を動かしているのだろう、完全には理解しきれていないといった難しい顔つきで食いついてくる。


予想通りの反論だが、ナリィさんが問い掛けてくるものだと思っていたのでちょっと面をくらってしまう。


エリカさん・・・もうちょっとバカだと・・・


「 ちょっと、あんた私が話しにもついて来れない馬鹿だといいたいの!!! 」


「 まっ、まぁまぁ、怒るのはハント君の話を全部聞いてからにしてよね 」


今にも飛び掛ろうとしている彼女をナリィさんがなだめる。


しまった、今は俺の思考が読まれているんだった・・・


ナリィさんが止めてくれたので、今だイラつきこそしている彼女だが、どうにか殴られるのは回避できたようだ。


いつもはナリィさんの暴走を、エリカさんが止めてくれているだけあって、なんだか新鮮なものを感じる。


「 いっとくけど、話が全部終わったら、覚悟しときなさいよ・・・ 」


前言撤回、俺無事じゃないかも・・・


しかし、話を続けないともっと酷いことになりそうなので、一つ咳払いをして再び口を開く。


「 確かに民族がその魔物を撃退したというなら彼らは“生きている”だろうし、生徒達とは全く関係ない・・・けど、“もし”その魔物がまだ“生きている”というなら? 」


「 !? 」


その言葉に二人の顔つきが驚愕を浮かべる。

話を続ける。


「 恐らく俺の見立てではその魔物は今だ“生きています”これはなんの確証もないただの思いつきですが、多分民族たちは魔物に傷を負わせた、或いは行動をとれなくした段階まで追い詰めて滅んだんだと思います・・・ 」


そこまでいって俺はこれから“二人”がその魔物に敵わないというその理由を口にするため、大きく深呼吸をしてみせる。


それを見て二人はごくりと音を立てつばを飲み込んだ。


「 俺は・・・正直ナリィさん、そしてエリカさんが揃ってもその魔物には敵わないんじゃないかと思ってます・・・・俺はナリィさんの実力の一部を目の当たりにしたし、そのナリィさんお墨付きの実力だというエリカさんが弱いとも思ってません、ただ・・・“相性が悪すぎる”んです 」


「 ・・・相性? 」


二人は疑問を口にする。


強力な魔力をもって、それを高火力+高出力で放出できるナリィさん。そしてそれに匹敵する支援魔法を使うらしいエリカさん。


確かにその二人が揃うなら、大抵の相手はイチコロだろう・・・けど


「 俺の推測が正しいなら、相手は“対魔力能力アンチ・マジックアビリティー”。その中でも“S級危険種以上の魔物”だけが持つ“魔力吸収能力(マジック・ドレイン)”を有している可能性があります 」


「 ・・・魔法吸収能力(マジック・ドレイン) 」


ナリィさんがまるで何かを思い出すかのように呟く、エリカさんは俺が魔物の能力を口にすると同時に自らの手の平を見つめ、恐らく自分にできる魔法などを考えているのであろう難しい顔をしていた。


対魔法能力アンチ・マジックアビリティー


これを有している魔物は最低でもA級危険種以上で、その能力も様々だ。


単純に魔力を内部に通し難い外皮を持つといった魔物もいれば、特定の“属性魔法”だけを無効化できるものなどもいる。


しかし、俺が見つけたその答えはそれらを遥かに凌ぐ力を持っている。


魔法吸収能力(マジック・ドレイン)


“S級危険種”以上の魔物のみが持っているその能力は文字通り、触れた“モノ”の魔力を吸収する力だ。

しかし、それが本当に恐ろしいのは、吸収した魔力を糧として“無制限”に成長を繰り返すといった特性にある。


一つの種が進化を行うには長い年月とそれに見合った環境下が必要となるが、魔法吸収能力(マジック・ドレイン)を持つ魔物はそれを必要としない。


ただ吸収できる魔力さえあれば、その魔物はどんなに強靭にも、巨大にもなる。

故に“S級危険種”。


そしてそれこそが、二人を戦わせることができない理由だった。


いくら彼女たちが強くても、その力は魔力に依存したモノで、自らの魔力を圧縮しそれを弾頭として放出する術も、強力な支援魔法でさえも、それらを吸収されるのであれば全くの意味をもたない。いや、それらを成長の糧とされるのであれば、最早マイナスの効果しか得られないだろう。


「 何故?何故君はその答えに行き着いたの? 」


ナリィさんが真剣な顔をそのままに言葉を発する。


俺はその答えに辿り着いた経緯を脳裏に浮かべた。


「 気づけたのはナリィさんのおかげなんです。ナリィさんが持ってきてくれた荷物、その中のオウルポールがあったから特定することができました。 」


焚き火を中心としてそれぞれに設置されているそれを見て、思い出すかのように言葉を発する。


「 魔力を動力源として使用するこのアイテム。けど、その中の三本は“魔力が切れた”状態だった・・・通常こんな事態はアイテムが壊れているか、第三者の手によって行われない限りあり得ません。魔よけの効果が聞かない魔物に破壊されたのなら説明もつく、けど、もって来てくれたこれらには全く損傷がなかった。その証拠に今もその効果を発揮していますしね 」


そこまで言って、それに続くようにナリィさんが口を開く。


「 確かに、アイテムが壊されても無く、第三者が手を出したという可能性もないという状況で“魔力がなくなる”という状態に陥った場合、残った可能性は魔力が“吸収”されたというものしかない・・・か。これならアイテムに損傷がないのにも納得がいく・・・けど、ならなんで四本ある内の一本だけは魔力が残っていたの? 」


彼女の言葉にエリカさんは疑問を浮かべている。


彼女は俺が気を失ってからここに来たのだから当然といえばそうだろう。

俺はその問いに対して返答を口にする。


「 それは、相手が・・・“植物タイプ”の魔物だからですよ 」


再び二人が驚愕の顔をしてみせる。

俺は話を続けた。


「 四本のオウルポール。内三本は設置場所に共通点があったんです 」


頭に浮かぶ魔よけアイテムの設置場所。


大木の下に広がった草原の地面

俺が野営地で起こした焚き火の傍にあった木

辺り一帯が見渡せるゴツゴツとした岩地

森の中心地付近にある湖の傍。


俺が魔物のタイプを判明したことによってこの謎が解けたのだろう、ナリィさんはハッとした顔をすると、その答えを俺へと告げた。


「 そうか、四本の内、三本は“地面”に設置していた。つまり地面に張った“根”によって魔力が吸収されたのね。一本だけは“木”に突き刺していたからそれを免れた・・・ 」


「 そうです、地面に突き刺したアイテム“だけ”魔力がなくなっていたこと、夜に光る標、俺が仮説から読み取った“朝に活動する”という魔物の特徴、そして民族たちが“枯れた”状態の死体で見つかったことなど、それらを組み合わせると見えてくるその魔物。俺はそれを“S級危険種” 魔法吸収能力を有した植物タイプだと推測しました 」


それこそが俺が導き出した一つの答えだった。


魔力は「医療学園(カラドリオス)」では“第二の血液”と呼ばれる程に人体と親密な関係にあるらしく、魔力が全て奪われたモノはナリィさんから聞いた民族たちみたいに、まるでミイラのように全身の水分が奪われたかのような姿となって死に至ると、昔本で読んだことがある。


「 けど・・・分かっているのはまだこのことだけなんです・・・・魔物の特性、能力こそ判明したものの、その場所までは今だ解明してません。一つだけ分かっていることはその“S級危険種”は“崖上”の何処かにいるということぐらいです 」


そこまで言って再びこの場に沈黙が訪れる。


皆それぞれに思考を凝らし、口を閉ざしていた。


俺が“崖上”と言った理由。それは崖から落下した後の出来事から判明できた。


自分で仕掛けたフォールトラップから脱出しようと、マジックスレッドを伸ばした時に掴んだ蔦のようなもの、恐らくそれは俺が特定した魔物の“根”に当たる場所だったのだろう、だからこそ、俺が発した魔法糸は意思とは関係なく消失した。

そして、その後に行った激しい戦闘。


しかし、その際に俺たちは一度たりとも魔力を吸収されていない。このことから、魔物の魔力吸収範囲は崖壁の一部と特定したのだ。


焚き火から発せられるパチパチという音だけが一帯に響き渡り、それ以外の音が全て消失したかのような錯覚を感じる。


そんな中最初に口を開いたのは、ナリィさんであった。


「 成る程ね・・・確かに魔法吸収能力を持つ魔物相手に私たちじゃ役不足に思えても仕方ないかな・・・けど、ハント君、私たちを舐めちゃいけないよ?それぐらいの逆境何回でも乗り越えてここにいるんだから!!ねっ、エリカ 」


彼女の言葉に思考を凝らしていたエリカさんはハッと我に変える。そしてナリィさんの言葉に答えるために無理にでもいつもの強気を演じて見せた。


「 あっ、当たり前でしょ!!?これでも私たち“S級危険種”は五体程討伐してるんだか!!相手が魔法吸収能力をもっていようとどうってことないわ!! 」


「 まぁ、エリカはいつも後方支援ばっかりで、前線で戦ってたのは“私”なんだけでね 」


「 うっ、うるさいわね!!ナリィがむちゃくちゃな動きするから、いっっっつも!!私が苦労してるんだからね!!! 」


「 むちゃくちゃって、これでも私考えて戦ってるんですけど!!? 」

「 あれが考えて動いてるっていうなら、あなた余程頭が足りてないのね!! 」

「 なっ、なによその言い方!!! 」

「 あら?気に障ったかしら? 」


再び目の前で口喧嘩が始まり、聞くに堪えない言葉が飛び交っていく。


それは見えるようになった絶望に対して気持を切り替えるためなのか、今だ罵声を発している二人だが、その様子は先ほどここに来る前に行っていたそれとはなにか違うものが感じられた・・・・



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