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罠師ですけど戦います!!  作者: Saban
第一章: 罠師よ、常識を壊し続けろ!!
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008:集う力はどんな結末を導くのか・・・

第一章:罠師よ、常識を壊し続けろ!!


008:集う力はどんな結末を導くのか・・・


「 ・・・さん・・私・・の・・・を、この子に・・移植・・・ 」


「 しか・・それは・・・・のか? 」


声が聞こえた。しかし、目の前に広がるのは暗闇だけで、それ以外の光景が俺の目には映っていない。


不意に全身を襲う強烈な痛み。

まるで心臓になにか刃物のようなものが突き刺さっているような、体験したことのない感覚。そしてそれに伴う苦痛は想像を絶するもので、それは何度と無く脳裏を駆け回る。


身体に力が入らない。

それどころか言葉を発することも、指一本動かすことさえできない。


暗闇の中で無限とも思える程に巡っている苦痛と、時折かすかに聞こえる何者かの声だけが俺が感じる唯一のものであった。


どうなってるんだ!!痛い、誰か、誰か助けてくれよ!!!!


しかし、何を思おうと暗闇は何も答えてはくれない。


「 ・・・ント君・・・・大・丈夫・・・・私が・・・・から 」


再び耳に入る言葉。しかし、駆け巡る苦痛が邪魔で、上手く聞き取ることができない。


俺は・・・死ぬのか?

このまま何も分からない暗闇の中で、俺は・・・


「 死なないよ 」


「 え? 」


瞬間、暗闇が一転した光へと変わっていく。


そして目の前には見知った顔の女性・・・


「 貴方は死なない・・・私が・・私の××が貴方を守っているから・・だから 」


光に包まれた世界で、身体を取り戻した俺はその頬に一筋の涙を流した。

身体を襲っていた痛みももうない。あるのはただ、もう一度再会できたという喜びだけ。


「 生きて・・ハント君 」


「 待って、待ってくれ!!××さん!!! 」


光は次第に強くなり、彼女の姿を溶け込ませていく。


俺はただ消え去ろうとしている彼女へと必死に手を伸ばした・・・



・・・・・

「 っは!!痛っ!! 」


意識が戻ると同時に上半身を勢いよく起こす。すると頭上にはなにやら巨大な大木のようなものがあったようで、それに頭突きを繰り出した俺は、頭を抑え鈍い痛みに悶えた。


「 いってて・・・あれは・・夢だったのか・・・あっ!! 」


半ば寝ぼけていた意識が目覚めると同時に、慌てて周囲を見渡す。


目の前にはおそらくナリィさんが熾してくれたのだろう、パチパチと火花をおこしている焚き火があった。

俺が先ほど頭を打った大木はどうやら何本かのそれが組み合わさっているようで、それらは焚き火の真上で、交差するような形をしているあたり、どうやら自然にできたものではないようだ。

その証拠に大木の至る所には魔法式なのだろうか、なにやら文字のようなものが掘り込まれている。


その焚き火の奥には俺が落下した場所とは違う、しかしその延長線上にあるのであろう崖壁。それ以外には先ほど同様に森へと繋がる道と、茂った草花や風によって靡く木々が広がっていた。


魔物がよってこないのは、焚き火を囲うようにして設置されている四本のオウルポールのおかげなのだろう。


そこまで確認し、俺は焚き火の傍まで近づき、それを呆けたように見つめる。


「 ・・・ナリィさん、一人で行っちまったのかな・・・ 」


魔物に襲われないように設置された魔よけアイテム、そして焚き火の傍には荷物が固められている。これを見るに、彼女は俺を安全な場所まで移動させ“一人”で探索に向かったと取れる。


まるで感情が麻痺しているかのように、もはや悔しいという思いも、失うという恐怖も俺には感じられなかった。


あるのはただ、全ての思考を停止させる喪失感のようなものだけで、最早何をするにも呆けたようになってしまう。


結局、俺はナリィさんを止めることができなかった。


強い決意も圧倒的な力の前には無力だった。分かってはいたことだったが、それこそが俺の中にあった、彼女を助けたいという思いを圧し折ったのも事実。


唯一の支えを失った俺にはもう何も残っていなかった。


「 ・・・これからどうしようか・・・・ 」


膝を丸め、頭の中を空っぽにしたままただ目の前の火だけを眺める。


俺がどれだけの間意識を失っていたのかは分からないが、今や身体の痛みも、全身に圧し掛かっていた疲労も完全に回復していた。


しかし、いくら身体が万全でもそれを動かす精神が弱っている今、何をするにもやはり憂鬱と感じてしまう。故に、ただ吸い込まれるように焚き火を見つめ続けた。


それが何分なのか、何時間なのか続いた後、森の奥から発せられた“声”のようなものに反応し、そちらへと視線を向ける。


その声の主はこちらへと段々近づいているようで、次第に判明がしづらかったそれもはっきりとした言葉として耳に入るようになってきた。


「 あのねぇ、このまま何も見つけられないまま撤収なんてことになったら私ホントに怒るからね!!ただでさえ溜まってる仕事を後輩に頼んでここまで来てるんだから!! 」


「 だから何回も何回も言われなくても分かってるってば!! 」


「 何よその態度!!無理して手伝いに来てる私に対してその態度ってないんじゃない!! 」


「 あぁもううるさいなぁ!!ちょっとだけでも黙ることできないの? 」


「 なっ、なんですってぇぇぇ!! 」


近づいてくる“二人”の女性はなにやら口喧嘩をしているようで、まだここまで来るには距離があるものの、正直うるさい。


「 ちょっと、貴方そこに直りなさいよ!! 」

「 はいはい、分かりましたよ~ 」


あっ、立ち止まった。

先ほどまで口喧嘩をしていた二人が今度は立ち止まって、指を刺しあうなどして喧嘩を続ける。

何時になったらあの二人はこっちに来るんだ?


「 はぁ・・・ウェイクセンス 」


溜息を吐くと共に、五感強化魔法を発動する。

強化された聴覚は先ほど以上に耳障りな口喧嘩を聞き取るが、それを気にせず互いに罵声を浴びせあっている二人の姿を強化された視界でハッキリと捉えた。


視界に映った二人の女性。それは共に見知った顔であった。


片方は探索に向かったと思っていたナリィさん、そしてもう片方は・・・


「 なんで・・“エリカ”さんがこんなところにいるんだ?・・・ 」


今だ口喧嘩を繰り返しているー茶のツインテールに、ナリィさんのそれよりはどこか優しさのようなものを感じさせる鋭い目つき。衣服はやはりナリィさんと同じウェートレスを思わせるものを身に付けているその女性―『エリカ・メリュジーヌ』は俺がこの森に来る前に、ここの危険性について教えてくれた受付嬢だ。


ナリィさん以外の受付嬢の中では普段から割りと交流のある人で、彼女とはナリィさん同様にそこそこ長い付き合いだ。


そんな彼女が何故こんな所にいる?


浮かび上がった疑問によって、呆けていた思考は再び活気を取り戻そうとしていた。


「 っあ!!ナリィ!!ハントもう起きてるわよ 」

「 え!?ホント!! 」


不意にこちらへと視線を向けたエリカさんが目を見開いて俺の方へと指を刺してくる。そしてそれに反応するようにナリィさんはこちらへと身体を向けると、再び目で追うのがやっとという速度でこちらへと駆け出してきた。


同時に意識を失う前の光景が鮮明に浮かび上がり、俺は頭を上げることができなかった。


「 ・・・ハント君 」

目の前でその脚を止めたナリィさんに対して、思わず後ずさりしてしまう。


彼女に合わせる顔なんてない・・・


俺は、彼女に刃を向けたのだ。

どんな理由があろうと、例え圧倒的な実力差の前にナリィさんに傷一つ与えていなかったのだとしても、その事実に変わりは無い。


「 ・・・・ 」


「 あのね、ハント君・・・私、昔から物事を一つの方向でしか考えることができなくて・・・だから君が私のことを思って、引き止めてくれていたなんて気づきもしなかった・・・ 」


ナリィさんが片膝をつき、目線を俺へと合わせる。

彼女は言葉を続けた。


「 君は自分のことよりも先に、私の身を案じてくれていた、それなのに私・・・・君が傷つくようなことを色々と言ってしまって・・・・本当にごめんなさい 」


そういって彼女は頭をふかぶかと下げる。

俺はそんなナリィさんに対して、相変わらず何も言葉を返すことができないでいた。


別に彼女のことを嫌っているわけでも、怒りを表しているわけでもない。ただ、何を言おうと、俺がやったことはナリィさんの命と行方不明の生徒たちの命を天秤にかけたということに違いはないのだ。


結局俺は、四つの命を見殺しにしたんだ・・・


「 ・・・あぁもう!! 」


不意にナリィさんの背後で黙って俺たちの様子を見ていたエリカさんが苛立ちの声を上げる。同時に襟元を掴まれ無理やりに身体を起こされた。


そしてエリカさんは俺の顔とナリィさんの顔を交互に睨みつけると、力強い眼を現す。


「 あんた達私の“妹”を舐めるのも大概にしなさい!! 」


「 え?・・・妹? 」

「 ・・・・エリカ 」


俺はエリカさんの発した言葉の意味が分からなくて、ナリィさんへと視線を向ける。すると彼女は哀しみの篭った顔で小さく言葉を発した。


「 行方不明となった四人の生徒たちの中にはエリカの妹がいるのよ 」


「 ・・・そんな 」


血の気が引いていくかのような感覚。

俺が天秤にかけていた命は知人の妹であって・・・それなのに俺は・・・


「 だから、その顔はやめなさいっていってるのよ!! 」

「 いででで 」


エリカさんが苛立ちをそのままに俺の頬を力いっぱいにつねってくる。

そしてそのままに言葉を続けた。


「 私の妹はね、今もまだ生きてるわ。その内いつもと変わらない馬鹿面できっと帰ってくる。じゃなけりゃ私が直々に迎えに行ってやるわよ・・・だから 」


そこまでいってエリカさんは言葉をとめた。そして顔を下へと向け、地面に一滴の雫を零すと同時に「そんな顔しないで」と呟くように言葉を発した。


彼女は顔を伏せたままで、しかしその肩は小刻みに震えている。


自然と拳に力が篭る。

どうにかして助けたいという思いが内から溢れるが、その思いを俺はどうすることもできない。それがどうしようもなく悔しい・・・


噛み締めていた歯がギリっと音を発したような気がした。


「 エリカ・・・後は任せて 」


そういってナリィさんは今だ襟元を掴んでいる彼女を俺から引き離す。そしてエリカさんと入れ替わるように今度は彼女が俺へと力強い眼差しを向けてきた。


「 ハント君。エリカは私がここに呼んだの。彼女は支援魔法を得意としているし、戦闘に関しても十分な実力を持ってるわ。何よりエリカと私が組んだらどんな相手でもイチコロよ 」


彼女はいつもと変わらない笑みを浮かべ俺の肩に手を置くと、その思いをぶつけてくる。


「 だからハント君、私たちを信じて欲しいの。私たちはゼッタイに死なないし、死なせない!!行方不明の子達を連れて生きて帰ってくる。約束するわ 」


そんな彼女の言葉に続こうと、エリカさんは目に浮かんでいたそれを片手で拭うと、先ほど同様に強気な表情を浮かべた。


「 だからさっさとあんたが見つけた答えを私たちに教えなさい。私はさっさとこんなクエスト片付けて帰りたいの 」


そういって顔を背ける彼女。まぁ分かってはいたが、エリカさんは属に言う“ツンデレ”というヤツである。


そんな彼女の対応をみて、ナリィさんは俺の耳元で囁くように言葉を発する。


「 分かってると思うけど、エリカはあぁ見えてかなり心配してるんだよ。さっき私と二人で探索してる時だって今にも泣き出しそうな顔してたもの 」


「 ちょっと!!聞こえてるわよ!!!私が泣く?冗談でしょ、というかあんたは早く情報を教えるの!! 」


そういって彼女は俺の胸元を何回も小突いてくる。


しかし、果たして二人に俺が辿り着いた一つの答えを教えてもいいのだろうか?


おそらくナリィさんは、俺を少しでも安心させるためということと、危険視している魔物に十分注意してくれたからこそ、集会所からエリカさんを呼んできたのだろう。


けど・・それでもまだ、言っては悪いが役不足だ・・・


「 ちょっと!!私たちじゃ役不足ってどういうことよ!! 」


「 え!?なんで俺の考えが・・・ 」


俺が“役不足”だと考えると同時にエリカさんが再び襟元を掴んでくる。


どういうことだ?なんで俺の考えが読まれてるんだよ・・・


動揺が顔に出てしまう。そんな疑問を浮かべている俺に対してナリィさんは少しだけ申し訳なさそうな顔を浮かべ「ごめんね」と言葉を発した。


「 “ライン”の魔法を予め使ってたのよ 」


「 “ライン”って・・・そんな初級魔法に、相手の考えが読めるなんて力は無いはず・・・ 」


「 あのね、“ライン”が“初級魔法”って思ってる段階であんたはまだまだ未熟ってことなのよ 」


言葉と共に再びエリカさんが胸元を小突く。


ライン。これは学園に入学してすぐに学ぶ “初級魔法”だ。


基本的に“チーム戦”などで使用する魔法で、自分から発した魔法糸と似た形状の魔法体を同様にラインを発動している味方のそれと結びつけることで、互いの思考を高速で伝達させることが可能となり、連携攻撃により一層の深みができるといった能力を持っている。


しかし、故にこの魔法は連携攻撃が必要とされない場面や、ソロのクエストでは無意味となってしまい、今では習いこそするが実際に使用している生徒なんていないんと思う。


思考に耽っていると今度はナリィさんが俺の頭をコツッと一つ小突いてきた。


「 教えてあげたでしょ?“常識を常に壊し続けろ”ってね。互いの思考を連結させる魔法なら、それを更に追及することで相手が何も対策を行っていない、或るはこちらがラインを繋げていることに気づいかれてない場合に限り、簡単な思考なら読むことも可能となるのよ。まぁ上級冒険者がこっそりと使ってる “裏技”ってところかしらね 」


「 そうそう、上級冒険者が交渉なんかの場面で毎回毎回使ってくるのよね。だからそんなヤツが来たときには私かナリィのどっちかが思考を読まれない対策をしなくちゃならないから、ほんと面倒で・・・ってそんなことより、は・や・く!!情報教えなさい!! 」


エリカさんに言われて、話の本題を思い出す。


もう、全てを話すしかないだろう。


どうやってはぐらかしても思考が読まれてるなら意味がないし、話すことを拒んでも今のエリカさんが食い下がるとは思えない。


「 わかってるじゃない 」


再び思考が読まれたのだろう、エリカさんがドヤ顔を浮かべる。


俺は溜息を漏らし、頭の中で完成していた一つのパズルを手に取った・・・



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