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罠師ですけど戦います!!  作者: Saban
第一章: 罠師よ、常識を壊し続けろ!!
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007: パズルが導き出す答え・・・


第一章:罠師よ、常識を壊し続けろ!!


007: パズルが導き出す答え・・・



森林の隙間を縫うようにして差し込む陽光に照らされながらも歩を進める。


何も考えてはいけない。


俺は今までの思考を全て放棄し、ただ目の前を進むナリィさんの後に続いていた。


意思とは関係なく勝手に展開されていく思考を抑え、その答えに辿り着くことを必死に阻止する。


そうしなくては導き出された解答は“彼女”を殺すことになるかもしれない・・・


薄らと見えてしまった絶望に対する恐怖が顔に出ないように、わざとらしく疲れたといった顔をしてみせるが、それも上手くいっていないのであろう、前を歩くナリィさんは頻繁に振り返っては、俺のことを心配しているといった目を向けてくる。


・・・別のことでも考えて、今の思考を紛らわそう


ふと足元にあったはずのひかる道標がなくなっているとこに気がつき、その疑問を脳裏に浮かべてみせる。


そして、重い口を開きナリィさんへと言葉を向けた。


「 あの・・・さっきまであった地面の道標ってどうなったんですか?“視えなくなった”みたいなんですが・・・ 」


「 あぁ、あれはね暗い場所でだけ光を放つ蛍光式の標なんだよ。だから朝になった今は視えないようになってるんだ。けど大丈夫だよ、ここまで進めたら目的地までは簡単に到着できるから 」


それを耳に「へぇ」と素っ気無い返答を返す。


暗闇に反応して、朝には“視えない”道標か・・・ん?・・これって・・・


彼女の言葉が欠片となり、それが今だ脳裏でゆっくりと組み立てられようとしている答えという名のパズルにカチッという音をたててはめ込まれる。

思考が俺の意思を無視して更なる展開を始めた。


「 !!!! 」


その脅威は俺たちのすぐ近くにいて“それ”こそが、かつてこの森にいた民族の命を“奪った”のだ。 彼らは決して“餓死”によって絶滅したわけじゃない。ある一匹の“魔物”によって滅ぼされた・・・

その魔物を特定する欠片、それは・・・


闇に光る標


“何故か”魔力がなくなってしまっていた三本のアイテム


この森が持つただ一つの“矛盾”


そして、滅んだ民族達の死体・・・


ゆっくりと組み合っていたはずのパズルが高速で答えを求め、かみ合っていく。


駄目だ!!考えるな、俺!!!


頭を片手で押さえ、殴りつけるように痛みという刺激を与える。

しかし、どうにかして思考を別のものに摩り替えても、放棄しようとしても、頭の中にあるパズルは、その姿を確実に完成形へと近づけていく。


本当は・・・俺はもう“わかっていた”んだ。


パズルが完成する以前に、行方不明となった生徒たちがどんな魔物に襲われ、“捕らわれている”のかを・・・


しかし、俺の仮説が正しいのなら生徒達を捕らえている魔物は・・・


「 ねぇ、ハント君 」


不意に目の前を行くナリィさんが脚を止める。そして背を俺に向けたまま彼女はゆっくりと言葉を続けた。


「 ハント君・・・もう、行方不明になった子たちのこと、ナニカわかってるんだよね? 」


「 !? 」


それを最後に少しの沈黙が俺たちの間に流れた。

互いに想い、考え、口を閉ざす。そんな数秒間の沈黙は何時間にも感じられる。


ナリィさんはもう俺がナニカに感づいていることに気づいていたのだ。

彼女との付き合いはそれなりに長いので、もしかしてとは思っていたが、問い掛けられた言葉に俺は沈黙を持って答を返した。


それ以上の答えが俺の口からは出すことが出来なかったのだ。


そんな俺の様子を感じてか、彼女はゆっくりとこちらへと振り返るとどこか哀しい、しかし優しさの溢れた笑みを浮かべた。


「 ハント君・・・君はもう学園に帰りなさい 」


「 ・・・え? 」


彼女の対応に自分の耳を疑う。

そして耳に入った彼女の言葉によって、先ほどまで脳内を埋め尽くしていたパズルはその姿を消し、そこを空虚なものへと変わってしまった。

彼女は笑顔をそのままに言葉を続ける。


「 君はよくやったわ・・・ホントはね、緊急クエストと平行して“討伐”クエストも受注しててそれが“ハードウルフの撃破”だったのよ。だから君のクエストはもう達成。帰って、報酬を受け取ってそれでおしまい 」


そういって彼女は再び俺に背を向ける。そしてまるで呟くように「ごめんね」と口にした。


彼女の言葉が空虚となってしまった俺の脳内で何度も再生され、思考がその意味を理解しようとゆっくりと巡っている。


その思考は時間をかけて少しずつ彼女の言葉を俺へと実感として認知させた。

その実感は自らが思考を放棄していたというその“行動”の意味を、俺へと理解させ、それは自然と身体を震えさせる。


「 ・・・俺は 」


自然と握り締めていた拳に力が篭る。


俺は辿り着こうとしていた思考を放棄した。

つまりそれは行方不明となった生徒たちと、“彼女”の命を天秤にかけ、その結果“彼女”の命を優先し、生徒たちの命を“あきらめた”ということ・・・


俺は生徒たちを見殺しに・・・違う・・俺は・・・俺は!!


「 ・・・バイバイ、ハント君 」


そう哀しみの篭った言葉を残し、彼女は歩みを始める。

同時に彼女と過ごした二年と少しの思い出が脳裏に浮かび、溢れる。

今“彼女”を一人で行かせてしまったら、俺はもうナリィさんに会うことはできないかもしれない・・・


俺は・・“彼女”をナリィさんを失いたくはない!!


「 ・・・ま・・待って!!待ってくれよ、ナリィさん!! 」


必死になってナリィさんの背に言葉をかける。そして彼女の足が止まったのを視て言葉を続ける。


「 ・・・どうやって・・どうやって見つける気なんですか・・・・大規模な捜索でも見つからなかったんですよ・・・それなのに 」


違う・・俺はこんなことを言いたいわけじゃない!!俺が言いたいのはこんなことじゃないんだ・・・

心情とは全く別の言葉を口にする俺に対し、彼女は背を向けたままに言葉を返す。


「 それでも“今”の君と一緒に捜すよりはマシじゃないかな?・・・ごめんね、私から声を掛けておいてこんなこと言える立場じゃないのは分かってるけど・・・・これ以上目の前の脅威に怯え続ける君を連れて捜索をすることはできないわ。ナニに気づいてしまったのかは分からない、けどそれに立ち向かいもせず、怯え、“思考を放棄”した君は・・・私が知ってるハント・トリックスターじゃ・・・ない・・・ 」


胸を締め付けられたかのような痛みが心にはしる。

そして彼女は再び足を動かし始める。その背には強い決意のようなものが感じられた。


「 私の知っているハント・トリックスターはそんなに・・・弱くない!!! 」


俺は彼女の心に応えることができなかった。それが悔しくて、哀しい。


けど・・・違う・・・そうじゃない・・・そうじゃないんだよ!!!


その瞬間、頭の中で何かが音を立てて弾けたような気がした・・・


「 マジックスレッド!! セット!!スパイダー・ライトニングショック!! 」


「 ・・・・ 」


思考を追い越して身体が動く・・・

こんなこと初めての経験だった。気が付くと俺はナリィさんが一歩たりとも動くことができないように、彼女の周囲に“捕獲用”ワイヤートラップを設置していた。


スパイダートラップ。これは触れたものを式によって高速で発動された魔法糸によって捕獲するトラップだ。

彼女の動きを止めるために設置したトラップはこれに加え電撃トラップによって、ナリィさんが周囲を囲うトラップカードを付加させた魔法糸の一本にでも触れれば、すぐさま拘束+電撃によって一時的に活動を停止させるといったものなのだ。


「 ・・・どういうつもり? 」


「 !!? 」


彼女は背をそのままに言葉を紡ぐ。

同時にまるで極寒の寒冷地で行動が取れなくなってしまったかのような、凍え、そしてもう助からないという恐怖、絶望に似た感覚が全身を襲い、自然と呼吸が荒くなってくる。


自分が今までどうやって呼吸をしていたのかさえ分からなくなりそうになる。

噴き出る汗も止まらない。


けど、彼女を先に進ませるわけにはいかない!!


その思いが、今にも恐怖や絶望によって崩壊しそうになっている心を強く支えていた。


「 どういうつもりなのかと聞いているの!!! 」


「 うわぁっ!! 」


彼女が叫びを上げると同時に、ナリィさんは多量の魔力を放出し始める。

その魔力量は常人のものと比べるにはあまりにも愚かで、まるで目の前で突然嵐が発生したかのように渦巻く魔力は、そこから発生する風圧によって俺を、そして周囲に設置していた魔法糸を吹き飛ばしていく。


設置していたトラップはその魔力に飲み込まれ、または吹き飛ばされ、その効果を発揮しないままに消失してしまった。


これが・・・ナリィさんの魔力・・・・こんなの・・・・・


目の当たりにした力の差に、全身が先ほど以上に震えだす。


例えば、常人の持つ魔力量を水の入ったバケツ一つとして考えてみる。

俺は小さい頃からそれが常人よりは非常に高かったため魔力量は、大人が二人程は入ってもまだ余裕があるような大きめの浴槽といったところだろうか・・・


周りよりも突発した魔力量。それがトラップ術以外で俺が自慢できることの一つでもあった。故にハードウルフとの戦闘でも何度となく“ネメア”という上級硬化魔法を使用することができたのだ。

もし、何も鍛錬を行っていない常人がネメアを使用するなら、良くて二回発動するのが限界といったところだろう。


そんな俺の魔力量に対して、彼女のそれを例えるなら・・・


巨大な湖・・・


それも公園の中心にあって、そこにいる鳩に遊びに来ている子供たちが餌を上げているような小ぢんまりとした湖ではない。


見渡してもそのはてが目視では確認することが出来ない程に広大で、加えてその水深も人が立っていられるような浅さはない。そんな巨大すぎる湖こそ、彼女の魔力。


俺如きが敵うはずがなかった・・・


例え浴槽を何百と用意してその中に湖の水を入れ続けたとしても、その湖には何の変化も無く、ただ変わることの無い水量に絶望するだけ・・・


そんな枯れることのない魔力を放出し続ける彼女は、しかしその力の嵐を発した状態を維持したまま立ち尽くしている。

まるで俺が次に何かをしてくるのを待っているかのように・・・


「 ・・・・こんなの敵うわけない・・・・けど!!先に行かせるわけには行かないんだよ!!! 」


叫びを上げ内で溢れ続ける絶望を、彼女を助けたいという強い信念によって押し留める。

鞘から短剣を取り出す。

震える手に力を込め、真っ直ぐに目の前で今だ巻き上がっている嵐の目で、俺へと背を向けたままの彼女を睨みつけた。


例え魔力量に圧倒的な差があったとしても・・・


例え勝てる見込みのない戦いと知っていたとしても・・・


ここで引くわけにはいかない!!


俺は知っている・・・いくら彼女が強大な力を持っていようと関係ない・・・


ナリィさんが戦おうとしている魔物はそういう存在なのだ・・・“相性”が悪すぎる・・・


ここで俺が引けば、彼女は“死ぬ”・・・


「 俺はもう・・・誰も失いたくないんだよ!!! セット スライド!! 」


「 ・・・・ハント君 」


付加を携えた短剣を構え、魔力の嵐へと駆ける。

辺り一面は彼女の魔力によって支配されているかのように、蠢き続けていた。


「 うぉぉぉぉぉぉ!!! 」


叫びをあげ、絶望を押し留め続けるために気合を高める。


そして次の瞬間・・・一つの銃声によって森は再び沈黙を思い出す。


俺の意識は何が起こったのかわからないままに、暗い闇へと溶け込んでいった・・・



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