006: 謎は深まり、絶望へと導く・・・
第一章:罠師よ、常識を壊し続けろ!!
006: 謎は深まり、絶望へと導く・・・
「 ほら、もうちょっとで目印でてくるから頑張って 」
「 目印ってなんですか・・・それにもうちょっとって、さっきもいいましたよね? 」
少し明るくはなってきているが今だ薄暗い森林の中をナリィさんのガイドで進んでいく。
先ほどの戦闘含め昨日から一睡もしていない俺の疲労は最早ピークに達しようとしていた。そんな今の体力で崖を上ることは無理だと判断したナリィさんが、なにやら休憩できる場所があるので案内してくれるというのだ。
しかし、歩き始めて二十分は経ったか・・・たった二十分かもしれないが、今の俺にとっては数十時間歩き続けたかのように感じられる。
一体何時になったら到着するんだよ・・・
「 あっ、あったよ目印!! 」
「 え?そんなのどこにあるんですか? 」
ナリィさんの声に反応し彼女が指差している方へ目を凝らす。
一見何もないように見えるんだけど・・・
「 ほらこれ、この灯かって見える跡があるでしょ? 」
その言葉を聞き、今度は地面のほうを集中的に探ってみる。すると、確かにひかる跡のようなものがあった。
その跡は森の奥へと続いており、薄らとだがまるで道標のように見える。
「 これは、なんなんですか? 」
「 これはかなり前にこの森に棲んでいた民族達が残した道標だよ 」
ソリテュードの森に民族が住んでいたなんて聞いたことがない。
しかし、その跡が残っているというのならそういうことなのだろう・・・・けど、ナニカ引っかかる気がする。
「 その民族ってのは今はいないんですか? 」
「 うん。その民族は文献にも載るほど当時は魔法を使った狩りがとても優秀で、この周辺では彼らに敵うモノはいなかったぐらいだったんだ。けど、詳しくは載ってないんだけど、確か他のモノが発見したときにはその民族の殆どがまるでミイラみたいにやつれた遺体となって発見されたんだって、きっと狩りが上手くいかなくなって食糧難にでもなったのね 」
そんな馬鹿な話ってあるか?
文献に少しは記されているっていうことは少なくとも百年以上前の話だ。
確かにその当時は魔法がまだまだ発見途中だったとはいえ、狩りがうまくいかなくなったのなら森を出るなり、餓死を免れる方法なんていくらでもあるはずだ。
彼らが滅んだ原因は・・・本当に餓死とかそういうものなのか・・・?
思考を巡らしながらもナリィさんの後に続く。
もしかしたら、今引っかかっているナニカと行方不明となった四人とはどこかで繋がっているかもしれない。
頭が熱をもってしんどいがそんなことなど気にしていられないな・・・
「 あの、ナリィさん。いくつか聞きたいことがあるんですが・・・ 」
俺の問いに彼女は脚を止め、首をかしげた。
足元で薄らと光を放つ道標は、彼女の綺麗な顔立ちを美しく照らしており、何気ない仕草に一瞬ドキッと胸がときめいたが、それを押しトドメ言葉を続ける。
「 ナリィさんが持ってきてくれた荷物なんですが、中身が漁られていたりしてなかったですか? 」
「 何言ってるのよ。君が荷物の所にだけ“ちゃんと”魔よけアイテム設置してたんじゃない 」
その一本が先ほど俺も確認した魔力がまだ残っていたアイテムなのだろう。
なんでその一本だけ魔力が残ってたんだ・・・?
謎は解決されないままだが、さらに質問を続ける。
「 その魔よけアイテムってどこに設置してたんですか?四本全部、教えて下さい。 」
「 は?なんでそんなこと? 」
俺の頭がおかしくなったんじゃないかと心配してくる彼女に「いいから」と強く促す。
ナリィさんは首をかしげたまま返答を口にした。
「 ・・・えっと君が野営地としてた場所を中心に、そこを囲うようにして三角形に設置してたってとこかな 」
「 そう・・・ですよね 」
何も不思議なことはない。
俺だって野営地を囲うように設置したのは覚えている。場所もナリィさんがいったとおりだで、何も・・・不思議なことはないよな・・・
いや・・・一つだけ気になることはある・・・・
「 最後に一つだけ・・・アイテムはどんな場所に、どうやって設置してました? 」
「 はぁ?そんなこと聞いてどうするの?・・・まぁいいけど 」
そういって彼女はアイテムが設置していた場所を細かく教えてくれた。
一つ目は大木の下に広がった草原の地面に突き刺して設置。
二つ目は俺が野営地で起こした焚き火の傍にあった木に突き刺し設置
三つ目、辺り一帯が見渡せるゴツゴツとした岩地に岩を避けて地面に。
そして四つ目。
森の中心地付近にある湖の傍。
ナリィさんが教えてくれたアイテムの設置場所は俺が覚えているものと完全に一致した。ということは“誰か”が無闇にアイテムを操作したという線は薄い。
もしこの森に俺とナリィさん以外の“誰か”がいたのなら、その“誰か”がナニカの目的で魔よけアイテムを解除したということも考えられたのだが、そうじゃないみたいだ。
なら、なぜアイテムは解除されていたのだろうか?
いや、ここは発想を変えてみよう。
“解除”されていたのではなく、何故内部に貯蔵していた魔力が“無くなった”のか・・・
頭の中の情報を一つ一つ整理していく。
魔力が無くなるなんて普通はあり得ない。それこそアイテムが壊れてたぐらいしか思いつかないんだけど・・・
「 にしても、ハント君ってやっぱり凄いよ。私の見込みどおりだったわ。君がトラップカードを作ったときからもしかしたらこんな日が来るんじゃないかって思ってたんだ 」
そういいながら満面の笑みを浮かべるナリィさんを目に、こちらも自然と笑みがこぼれる。
身体は疲労で今にも潰れそうだが、心は温かなモノで一杯だった。
こんな気持は初めてだ・・・ん?
「 ・・・トラップカード・・ 」
ナリィさんの言葉から、もう一つの“可能性”が脳裏を横切る。
さらにその可能性は先ほど彼女に教えてもらっても解決することができなかった、謎の答えを導き出そうとしている。
そうだ、俺は知ってる・・・知ってるぞ!!
魔力が無くなるという事態が発生する、もう一つの可能性・・・
腰のカードケースからカードを取り出し、それを目の前に持ってくる。
頭の中のピースが一つだけ合わさったような気がした。
「 けど・・・これだけじゃ、まだ・・・いや、ちょっと待てよ、もしこの仮説が正しいならかなりやばいんじゃないか?・・・ 」
「 え?なに言ってるの、ハント君? 」
冷や汗が全身から溢れてくる。
いや・・まだそうと決まったわけじゃない・・・けど!!?
俺の心情とは裏腹に辺り一帯には明るい陽光が差し込もうとしていた。