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罠師ですけど戦います!!  作者: Saban
第一章: 罠師よ、常識を壊し続けろ!!
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004:常識を壊したその先に・・・


004:常識を壊したその先に・・・



身体がギシギシと痛い。

けどその感覚があるってことはまだ生きてるってことだよな・・・


「 いてて・・・どうやら上手くいったみたいだな 」


頭についた土を払いつつ、腰のベルトに着けておいたポーチから人体の治癒力を一時的に高める“ライフドロップ”という飴状の回復アイテムを取り出し、それを口へと放り込む。そして、地面に空いた大穴の中ということもあって、少し息苦しいところがあるが、ゆっくりと深呼吸を繰り返し、激しい鼓動を繰り返す心臓を落ち着かせた。


なんとなくだが、ナリィさんが言おうとしていたことを理解した気がした。


「 あとは実際に試してみるだけなんだけどな・・・ 」


身体の痛みが引いていくのを確認し、再びゆっくりと深呼吸を繰り返す、そして


「 マジックスレッド 」


式の発動と同時に手の平から無数の魔法糸が発生し、それを崖に取り付いた蔦へと伸ばす。

これは本来“ワイヤートラップ”を仕掛けるために憶えた魔法だ。

しかし、伸びた魔法糸は蔦へと取り付いたかと思うと、それはまるで消失するかのように消え去る。

この魔法にそんな効果はないはずだが・・・


「 ん?どういうことだ? 」


疑問を残しつつも再び魔法糸を伸ばす。今度は大穴の周囲にそれを巻き付けた。

先ほどとは違い、今回は確かにそれが巻きついたという感覚が魔法糸から伝わってくる。


「 よし、これならいけるな 」


念のため魔法糸がちゃんと巻き付いているのを再度確認し、それを伝って地面へと昇っていく。

そして問題なく地面へと脚をつけ、周辺を見渡す。

背後には先程俺が落下した崖があり、一面は植物のない岩地とその奥には真っ暗な森林が広がっていた。


「 ・・・やばいな、ここって上級危険種がいるっている崖下だったよな・・・っ!? 」


武器の扱い方なんてろくに知らないが、急いで持ってきた短剣を適当に構える。

奥の森林からナニカがゆっくりと現れたのだ。


「 さっそくお出ましかよ・・・まぁ100メートル以上落下している物体なんて気になって様子見に来るよな 」

ゆっくりとだが確実に近づいてくるそれは四体の魔物であった。


俺みたいな素人でも知ってる上位危険種の魔物。

それは先ほど俺を追いかけてきたウルフマンよりも危険度が高い個体、B級上位危険種“ハードウルフ”と呼ばれるものであった。

ウルフマンよりも剛毛な体毛はあらゆる衝撃を緩和し、さらに膨れ上がったそれぞれの筋肉によって駆使される剣は恐ろしいものがある。


それが四体・・・はは、でもやるしかないよな・・・


身体は震えている。

逃げようにも、本気で追いかけてくる上位危険種を撒く自信なんてないし、そもそも背後が崖壁である以上退路なんてないのだ。

つまり、生き残るためには戦うしかない・・・


先程崖からの落下から生還したことを応用して、仮説として戦い方はなんとなく理解したが、それが目の前の魔物に通じるのかは不明だ。

そもそもその方法を用いた戦い方は戦闘といえるのか?


胸の中が不安で埋め尽くされる。けど、やるしかない!!


「 ・・・死にたくはないからな!! 」


真っ直ぐに目の前の魔物を睨みつける。


ナリィさんが教えてくれた“自分の常識を壊し続けろ”というアドバイス。


俺の中にある常識。それは“罠師”はあらかじめ罠を設置していないと“戦えない”というもの、そして罠師が使用するトラップ、魔法の類は戦闘という場面では“決して”役に立たないというもの。


その“常識”を打ち壊す。俺ならそれができるはずだ!!

不恰好に構えた短剣を強く握り締め、脳裏に俺が使える魔法の中で戦闘に使用できる“かも”しれないものを浮かべ、その発動式を口にする。

罠師だって・・・戦えるんだ!!!


「 ウェイクセンス 」


言葉と共に俺の五感が強化され、目の前の景色が別のものへと変換される。本来これは相手の罠師によって仕掛けられたトラップを見抜き解除するための“五感強化魔法”だが、これなら戦闘でも使えるはずだ。


式の発動と共に、一体のハードウルフが先ほどのウルフマンよりも高速で俺との間合いを詰めてくる。その移動音を強化された“耳”が聴きとり、高速の動きをこれも強化された“目”で捉える。

身体能力が向上しているわけではので、目の前の光景に対して反応は遅れるが俺の目には向かってくるそれの動きがハッキリと映っていた。


「 よし!見える、いけぇぇ!! 」


覚悟を込めた叫びをあげる。

そしてハードウルフが向かってくる速度に合わせてそれが俺へと剣を振り下ろすよりも先にこっちの短剣を突き出す。


ガキンという鈍い音が響き、腕に走る重い衝撃。やってきたハードウルフの動きが止まる。

しかし、そこには余裕のようなものが感じられた。


「 ・・くそっ、あんま刺さんないぞ・・・うぉ!! 」


タイミングも十分に突き出した短剣は、しかしその先端しかハードウルフには刺さっておらず、それは俺が行った攻撃が無意味であったことを悟ると同時に、何事もなかったかのように手にしていた剣を振り下ろしてくる。


“ただ”の短剣じゃだめなのか・・・

身体が先程以上に震え始めるが、恐怖によって身体が完全に支配されるよりも先に次の策を脳裏へと巡らせる。


強化した目は俺へと向かって空気の層を貫き向かってくる剣をしっかりと見据えている。


こんな一撃くらったら俺は一発で死ぬ・・・こんな時は・・・

集中力を高め、今の状況を打開する手段、方法を浮かべる。


数年前に実験室で憶えた魔法なら・・・使えるか?

迷っている暇などなく、俺は魔法の発動キーを口にした。


「 ネメア 」


発動キーを口にすると共に、今度は上級硬化魔法の式が全身を駆け巡った。そしてそれは俺へと振り下ろされた剣を弾き返し、手にしていたハードウルフを大きく怯ませた。


衝撃までは完全に緩和させることができず、剣が命中した肩に少しの痛みは残るが、どうやら上手くいったようだ。

まさか実験が失敗した時に備えて憶えたはずの硬化魔法がこんな時に使えるとはな・・・


休む間もなく更なる思考を走らせる。

たぶん敵が怯んでいる今が攻撃のチャンス。

しかし、俺の腕力ではいくら突き刺しても致命傷は与えられない・・・なら!!


「 セット、スライドトラップ 」


瞬間、腰のカードケースから、予めスライドトラップの魔法式が記入されたトラップカードが飛び出し、それは俺の言葉に答えるように手中の短剣へと付加される。


「 いけぇぇぇ!! 」


スライドトラップ、足場となる場所に設置し、それを踏んだものを強制的に指定した方向へと高速移動させるといったトラップ。

それを短剣に付加させた。つまり・・・


叫びと共に、付加を施した短剣をハードウルフへと突き出す。するとそれは俺の想像を遥かに超えた速度を纏い、視認するのが難しい程の軌跡を描き出した。


まるで腕を無理やり引っこ抜かれたかのような鈍い痛みこそしたが、その一撃は瞬時にして目の前の魔物へとふかぶかと突き刺さり、俺の目の前で赤の噴水を作り出す。


ハードウルフの空気を振るわせる雄叫びが空へと放たれた。


これならいけるか!!?


「 うぉぉぉぉぉ!!! 」


突き刺さった短剣に力を込め、少しでもハードウルフへと与えるダメージを増やそうと試みる。

ナリィさんはトラップカードを用いた戦闘方法を思いつけということをいいたかったのだと、俺は理解した。

先ほどの落下も咄嗟に、衝撃緩和+捕獲能力を持ったフォールトラップを記入したカードを使用することによってどうにか一命を取り留めたのだ。


このトラップカードを上手く使えれば、俺も一冒険者として闘える・・・かもしれない。


「 どうだ!!って!! 」


力を込めていた短剣が何かに掴まれたかのような感覚。

慌てて手にしたそれの切っ先へと視線を移す。


「 嘘だろ!!なんて回復力してんだよ!! 」


恐怖と驚愕が再び全身を駆け巡る。


短剣が突き刺さったそこから噴出していた赤のそれはまるで冷えた溶岩のように固まっており、それは俺が手にする武器の自由を奪っていたのだ。

同時にそれが突き刺さった瞬間こそ雄叫びを放っていたハードウルフも、今となっては先ほどとまるで変わりなく、その強靭腕力を持って手にしている剣を俺へと振り下ろそうとしていた。


まさか上位危険種というものがここまでの回復力を持っているとは思いもしなかった。

急いで刺さった短剣を引き抜こうとするが、強固な赤の膜によって捉えられたそれは俺の筋力ではビクともしない。


「 刺さっただけじゃダメなのかよ!!クソっ!!セット、スライドトラップ 」


一旦短剣を諦め、急遽足元に設置したトラップでハードウルフとの距離をとり、振り下ろされる剣を回避する。


先ほど同様に硬化魔法で凌ぐことも考えたのだが、それは“上級”硬化魔法というだけあって使用するには多量の魔量を使用するのだ。出来ることなら使用回数は控えたい。


「 どうする、武器が取られちまった・・・ 」


戦う手段がなくなったことによって込みあがる恐怖心を高めた集中力によって押し留める。そして腰のカードケースへと視線を移す。


トラップカードを用いた戦闘方法を思いついたまではよかった。しかし、これは基本的には“付加”の魔法を用いた戦闘となんら変わりがない。

つまりその対象となる武器がなくなった今、俺は再び闘うための手段を失ったということ・・・いや、そんなことはない!!


ナリィさんの言葉を浮かべる。

“常識を壊し続ける”つまりそれは“無理”だと思わないということ。


全てを決め付け、もうどうしようもないと考えないこと。


深呼吸を繰り返す。

目の前のハードウルフが再び俺との距離を詰めてくるが、気にしない。

俺の武器は短剣だけじゃない・・俺にできることを考えろ・・・


「 ・・・俺にできることを 」


言葉と共に俺が使える魔法、スキルその全てを再び紐解いていく。

同時に頭の中で未完成だったパズルが次々と解けていくかのような感覚。


襲い掛かる危機は隠れていた戦闘本能のようなものを刺激し、それが俺へと新しい戦い方を教えてくれているような気がする。


脳裏に浮かぶ新たな戦闘方法、技。

それを試してみたいという高揚感のようなものが湧き上がる。


こんな危機的な状況だというのに俺の自然と口元はにやけていた。


「 へへっ・・・ちょっと試したいことができたから、付き合ってもらうぜ!!! 」


言葉と共に硬化魔法“ネメア”を発動し、今度はこちらから迫り来るハードウルフへと走る。

拳の届く距離。

当然のようにハードウルフは剣を放つが、強化された五感でその動きを読み、寸前のところでかわしていく。

しかし、元々戦闘に関して素人である俺がその全てをかわせる訳も無く、時折突き出され、または振り下ろされる剣を通して全身にかかる衝撃は確実なダメージを蓄積していく。


けど、ここで怯むわけにはいかない!!


「 セット、マグネットトラップ!!! 」


言葉と共に俺の手中へと放たれたそのカードを、隙をみてハードウルフへと突き刺さった短剣へと押し当てる。するとそのカードは浸透するかのように柄の中へと消えていく。


「 よし、設置完了!!次は!!!ぐっ!! 」


降りかかる剣が肩へと圧し掛かり鈍い衝撃が身体を襲う。

ハードウルフと距離を詰めてから、五感強化+ネメアによって身体硬化を施しているから今だ生きていることができているが、それが無ければもうすでに四回は死んでる。


何度と無く叩きつけられた剣によって作られた打撲痕が目立ち始めてきたが、それでも引くわけにはいかない。


「 マジックスレッド!! 」


両手から放った数百の魔法糸でハードウルフの四肢を拘束する。更にその拘束が簡単に解けないように近くの岩や木にもそれを巻きつける。

これなら上位危険種相手でも数秒くらいなら拘束できるはずだ。


「 よしっ! セット、ジャンプトラップ 」


足元に、それを踏んだ対象物を天高く跳ばすトラップを発動し、身体を高速で空へと浮かべる。


そしてジャンプトラップの最高点となる高さまで身体が浮いたと同時に新たな発動キーを口にする。

「 セット、マグネット!!グラビティートラップ 」


瞬間、身体にかかる強烈な重力。

グラビティートラップは対象物にかかる重力を一時的に操作し、相手の動きを封じるトラップだ。

それを自分にかけることで空から堕ちる時にかかる重力をさらに強め、加えてハードウルフに先程設置したマグネットトラップ。

マグネット+とマグネット-の二つを仕掛けることで対象物を引き合わせ、または反発させるこのトラップをハードウルフの胴、そして俺の足先にセットし、引き合わせることで落下速度をさらに速める。


身体にかかる重力が全身の骨を軋ませているような感覚。


「 うぉぉぉぉぉ!!! 」


叫びをあげ、全身にかかる硬化魔法へ更なる魔力を注ぎ、その付加の効果を上昇させる。

そして・・・


「 くらえぇぇぇ!!! 」


叫びと共に、俺の脚がハードウルフへと命中すると同時にその地一体を多量の砂埃が支配した。

瞬間身体を襲う強烈な衝撃、しかし確かな感触を感じる。

地面には巨大なクレーターが発生しており、俺が行った攻撃の威力を物語っていた。


硬化をかけた身体を蹴りという形で高速でぶつける、一見自殺じみた一撃。


しかしその威力は絶大だったようで、先ほどまで俺へと攻撃を繰り返していた足元にあるその“死体”は、今や上半身と下半身とで真っ二つとなっており、一面には鼻につく嫌な臭いを放つ赤のそれを四散している。


攻撃を受けすぎたせいだろう、身体に目立つ打撲痕は全身に悲鳴をあげさせている。しかし、それも上位危険種を倒したこと、トラップが戦闘でも使用できたということからくる高揚感のようなもので掻き消されつつあった。


「 やった・・・けど、後三体もいるんだよな 」


足元の死体から短剣を抜き取る、そしてそれをまた不恰好に構える。

そしてゆっくりと内に溜まった息を吐き出した。


「 まっ、がんばりますかね・・・まだまだ試したいことはあるんだし・・・ 」


身体は悲鳴を上げ、ガタもきている。

しかし、そんな状態でもなお、俺の口元はにやけているのであった・・・




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