003:性悪女のアドバイス
< 罠師ですけど戦います!! >
第一章:罠師よ、常識を壊し続けろ!!
003:性悪女のアドバイス
「 ・・・はぁ 」
溜息と共に目の前に地図を広げ、現在地と自分が森に入ってからどこを通ってきたのかを確認する。
ソリテュードの森に入って早数時間が経った。
どうにか俺は生きています。
当初は森に入ると同時に魔物に囲まれるのではないかと不安だったが、どうやら集会所の外で他の受付嬢が教えてくれたことは正しかったらしい。
この森は確かに危険なダンジョンなのだが、そこにいる魔物の多くは夜行性で、加えてこのダンジョンにいる上級危険種に指定された魔物は、森を別つようにしてある崖の下に巣を構えているらしい。
つまり陽のある内に森を探索し、夜は野営地に魔よけのアイテムさえ設置しておけば俺のような罠師でも十分このクエストを行えるということだ。
先ほど俺自らで調査した結果、行方不明となった四人の生徒が崖を下った痕跡もないため、おそらくこの方法で十分な情報が得られるだろう。
「 そろそろ、野営の準備しとこうかな 」
陽が傾いてきたので背負っているリュックを下ろし、中から魔よけアイテム“オウルポール”という四本の棒状のそれを取り出す。そしていくつか焚き火用の枯れ木を集め終わるとそれを野営地の周辺へと設置した。
その後火をおこし準備を終えると今度は集会所へと報告をするために“マジックボイス”と呼ばれるアイテムを起動させた。
「 あ、あ、聞こえますか 」
「 はいはい、聞こえるわよ。で?どうだった探索の結果は? 」
起動させて直ぐにナリィさんの声が耳に入り少しだけ安堵の息が漏れる。
どうやら彼女も大分落ち着いたらしい、集会所を去る時みたいに奇声発しながら反応してきたらどうしようかと思ったが、杞憂だったか・・・
「 あんまりよくないですね、これといって手がかりもない状況ですし・・・ 」
「 そう・・・クエストの期間は三日間だからできれば明日中にナニカをつかめたらいいんだけど・・・ 」
アイテム越しにナリィさんが溜息をついているのを聞いて、こっちも溜息が漏れる。
それから、今日一日どこを廻って何を見つけたのか、起こったことを全て報告し終わる頃にはあたりはすっかり闇に包まれていた。
「 それじゃぁそろそろ切るね、ハント君気をつけてね 」
「 ちょっとまってください!! 」
アイテムの発動が解かれるよりも先に俺は彼女を遮った。折角の機会だから聞きたいことがあったのだ。
「 あの、折角だから聞きたいことがあるんですけど・・・ 」
「 なによ改まって? 」
「 あの・・・なんでナリィさんは俺に討伐クエストばっかり勧めてくるんですか?俺戦闘なんてできないし、そんな才能だってないのに 」
ずっと疑問に思っていたことだった。
いつも彼女は「君は才能がある」といってくるのだが、剣を扱うにせよ槍を使うにせよそんな才能がないということは俺が一番知っているのだ。
「 ふふ、そんなことないわよ。私から見れば君は才能の宝庫よ。ただその使い方がわかってないだけ・・・そうね、一つだけアドバイスをあげるわ 」
溜まったつばをゴクリと飲みこむ。
俺が強くなるためのアドバイスってなんなんだろうか?
「 いい?強くなりたいなら君の“常識を壊し続けなさい” 」
「 ・・・俺の常識を壊すって?どういうことですか? 」
「 それは自分で考えなさい。まぁ簡単にいうなら一つのやり方に縛られず君の発想力を最大限に使用できた時、君はどこまでも強くなれる。保障するわ、それじゃあおやすみ 」
その言葉を残してナリィさんはアイテムを解除した。同時に耳に入る音が焚き火と森から発せられるモノのみとなる。
常識を壊す・・・それって一体どういうことなのだろうか・・・
◇
・・・ちょっと待て、冗談だろ?
ナリィさんとの連絡を終え、数時間経った頃、俺は木の陰で息を潜めながら冷や汗を流していた。
訳がわからない。ちゃんと魔よけのアイテムは設置したはずだ。
アイテム自体も魔力をエネルギー源として作動するもので、棒状のそれを地面に突き刺し設置を終える前にきちんと魔力を補充しておいたので、解除されるはずもない。
なら何故目の前ではB級危険種の魔物“ウルフマン”が群れとなって活動しているのだろうか?
狼と人間を足したかのような容姿、その手にはボロボロの剣が握られているおり、そのさまに、流れる汗が止まらない。
とにかくこの場から逃げなければ危ない。
一体だけでも俺にとっては恐怖の対象なのに、それが数十匹もいるのだ。
このまま戦闘になれば、俺は確実に死ぬ。
目の前で動くそれを慎重に観察しながら荷物の元へと近づく。
しかし・・・
「 やばっ!! 」
不意に背後から掛けられた獣の咆哮に俺は急いで荷物のもとへと走った。
最早俺は魔物たちに囲まれていたのだ。
こうなれば息を潜めていても意味がない。
俺が走り出すと同時に目の前のそれらは得物を瞬時に見定めこちらへと向かってくる。
「 くそっ!! 」
荷物の回収が不可能と踏み、その付近に置いておいた短剣だけを手にその場から離れる。
とにかく戦うすべだけはもっておかなければ。
真っ暗な景色が流れるように、走りつづける。
脚と肺が痛い。もともと走りこみなどしていない身体なのだ、すぐに体力は尽きていく。
しかし、足を止めれば追いかけてくる魔物に殺される。
そうでなくとも背後の魔物との距離は段々と縮まってきているのだ。
「 はぁ、はぁ、はぁ・・・ぐっ!! 」
不意に背に一迅の風を感じ、慌てて目の前に飛び込む。するとどうやら勘が当たったらしい、いつの間にか直ぐ傍まで近づいていたウルフマンが振り下ろした剣は、俺の背には命中せずにそのまま地面へと叩きつけられた。
「 くそっ!!シャレにならんぞこれ!! 」
再び走りを始める。最早体力は尽きている状態だ。
どうにかしないと・・・
『 強くなりたいなら君の“常識を壊し続けなさい” 』
ナリィさんのアドバイスが脳裏を横切る。しかしその答えは思いつかない。
俺の常識ってなんだ!!それを壊すってなんなんだよ!!
「 なんなんだよ!!おわっ!!? 」
バランスを崩し目の前に倒れこむ。同時に気が付くと足場が傾斜となっていたのか倒れた勢いを殺すことができず、俺の意思とは関係なく身体が地面を転がっていった。
打撲によるものだろう全身が痛い。いやそれよりも傾斜?・・・ま、まずい!!
「 おいおい、冗談だろぉぉぉ!! 」
叫ぶと同時に全身に感じる風。
傾斜の先は崖となっていたのだ。俺の身体が勢いよく空へと投げ出される。
「 うぉぉぉぉぉお!!! 」
生命の危機。高さ100メートル以上あるこの崖から地面に叩きつけられれば確実に死ぬ。
全身の毛穴が開いたかのような感覚。心臓が今まで体験したことがないくらいに激しく動いている。
思考が恐怖で埋め尽くされる。
駄目だ!!恐怖に飲まれちゃ駄目だ!!!
歯を噛み締め、脳裏を埋め尽くす恐怖という思考を別のモノへと書き換える。
思いつけ、生き抜く術を!!!思いつけ!!!俺が学んだことを無駄にするな!!!
湧き上がる感情を高速で浮かべる思考で押しつぶす。
俺にできることはトラップを設置することだ、トラップを設置するにはそれを記入することができる物体とそれを・・・
「 えぇい面倒だ!!! 」
過程なんてどうでもいい!!!俺には・・・トラップカードが・・・
瞬間、脳裏を駆け巡る一筋の思考。
それはまるで全ての鍵であったかのように、今まで俺の中で閉ざされていた扉を次々と開いていく。
「 ・・・そうか・・・そういうことだったのか!!! 」
わかった、今ナリィさんが言おうとしていたことがわかった気がした。なら・・・
地面が近づいている。もう迷っている時間なんてない。
一か八かだ!!!
「 セット!!フォール・トラップ!!! 」
言葉を言い終わると同時に俺の身体は地面へと“落ちていった”・・・