021: 罠師 VS 喰人花 (2)
第一章:罠師よ、常識を壊し続けろ!!
021: 罠師 VS 喰人花 (2)
壁に取り付いたまま、短剣を構える。
どうやら俺の推測通り、今や荒野のように多くの塵だけが一帯を彩ったそこにあった洞窟は罠であった。
ヤツは洞窟内部に身を潜め、第一の罠、血花を隠れ蓑にした蔦をかいくぐり、人質を助けるためにそこへ辿り着いた得物をエサにしようとしていたのだろう。
つまりここには予め罠が二重に仕掛けられていた。故に本物の人質はそことは違ったなにも特徴もない場所へと隠していたと推測できる。
最もそれらが発する“音”までは止めることができなかったようで、俺はそれを偵察の際に強化した聴覚を駆使し聴き取ることに成功、後輩たちの場所を特定できたのだ。
先ほどまで血花を燃やし尽くしていた炎の嵐は今やその姿を消失させており、かわりに周りに咲き狂っていた血花を全て塵へと返していた。
塵が積もった地面へと目を向けると、そこでは先ほどまで人形の相手をしていた蔦が無数に蠢いており、とても着地できるような状況ではない。
「 ってことは、このまま空中で戦わないといけないってことか・・・キツイな 」
言葉を吐き終えると、溜息をつく暇もなくジャンプトラップを発動し再び天井へと跳躍を開始する、すると俺がいた場所を高速を纏った巨大な、触手にも似た蔦たちが襲った。先ほどまで取り付いていた壁は瞬く間に伸びてきたそれによって崩壊を始める。
そんな光景を横目に、強制跳躍によって天井へと辿り着くと同時に、その岩壁へと手に平を天井に沿え、再び『バーリオルタワー』を発動、照準を喰人花へと向け術を放つ準備を完了する。
「 ほらよ、召し上がれ!!! 」
皮肉を口にしながらも術を放出、それは天井から轟音と多量の砂埃を発し、岩壁から巨大な長方形の柱を繰り抜き、高速で喰人花への飛翔を開始した。
フォレストフォークロアの持つ巨大な八本の蔦よりも一回り大きな柱が、空気の層を破りながらも、重力の加護によってその速度を上げていく、しかし・・・
「 ・・・おいおい、遠慮しなくてもいいんだぜ? 」
俺の一撃に対してすぐに行動を起こしたそれを目に、思わず顔が引きずってしまう。
喰人花は蠢かせている七本の触手をまるでドリルのように交差させると、それを高速で回転させ、飛翔していた岩柱へと伸ばし、瞬時に砕き壊したのだ。
巨大な触手たちによって無残にも砕かれた、かつて柱であったそれを目に思わず恐怖が脳裏を掠める。しかし、すぐさま思考を切り替える。
怯む暇なんてない、柱を壊した蔦はすぐに標的を俺へと変更し伸びてきているのだ。
スライドトラップを発動、急いで今の場所から移動し、触手の直撃を回避する。
次の策を考えないと・・・
焦りを抑え、集中力を高める。すると、頭の中でいくつもの形を作り出しているパズルが一つの“技”を提示してくる。
それは『ライトニングレイ』を創りだした時に、それと同時に生み出され、しかし発動の際にかかる危険が大きすぎるが故に行わなかったものであった。
「 ・・・けど、これなら。この技を上手く“放つ”ことができれば 」
迷っている暇などなく、決意を固める。
魔法糸を壁に巻きつけ、地面への落下している全身にブレーキをかけながらも、カードケーからライトニングショックトラップの式が記入されているカードを一枚取り出す。加えてそれを手にしたまま、眼前に短剣を構えた。
「 入力 ライトニングショック 」
発動キーを口にすると共に手にしていたカードが一つの光を発し、そこに記入されていた式の“改竄”を完了する。
そして、記憶の目次を展開・・・
「 ライトニングショック + スライド + ジャンプ 」
これまで通り『ライトニングレイ』の式を完成させ、それを構えた短剣に付加するが、まだ放射しない。
何故なら、俺が今まさに発動しようとしているそれはこれまでに放ってきた『ライトニングレイ』ではないからだ。
先ほどの入力によって、際限なく電力を吸収し始めた短剣を手にしたまま、間髪いれず襲い来る触手たちを回避していく。
ライトニングショックトラップは様々な魔法罠の中でも扱いが危険とされる罠の一つとされている。なぜなら、設置の際にそのトラップの魔法式の一部に書き入れる“安全装置用の式”の記入にミスがあれば、電力を吸収し続ける魔法式によって際限なく電力が集められ、それの暴発によって大惨事が起きる可能性があるからだ。
過去に、吸収された電力の暴発によって、それぞれに上級の冒険者五・六人で編成されていた三つのパーティーが、一瞬にして感電死したなどという前例もある。
そんな危険なトラップに使用されている安全措置の式を、俺は入力によって“あえて”外したのだ。
付加を施された短剣の刀身から蓄積された電力の放電が始まる。
けど、もう少し・・・まだ足りない・・・
ギリギリまで短剣に宿る電力を高める。もし、その限界点を見誤れば貯蓄された電力に耐え切れず刀身は崩壊、それによって暴発された高電力によって俺は感電死するだろう。
触手の回避を続けながらも短剣に対する警戒を強める・・・ただの『ライトニングレイ』では残る七本の触手にダメージを与えることすらできない。これしかないんだ!!
額には不安と恐怖から汗が流れ続けている。
瞬間、刀身の一部が音を発し、小さなひびを創りだす。
「 今だ!! 」
短剣を構え直す。そして喰人花の本体目掛けそれを勢い良く振り下ろした。
瞬間、左目に宿る記憶の目次が、ギリギリまで電力が貯蓄されたことによって進化した“新たな魔法”の発動キーを告げる。
勢いに任せてその“一撃”の名を叫ぶ。
『 ライトニングボルト 』
叫びと共に振り下ろされた刀身から放出される大自然の猛威。
それは決して属性魔法のような、魔力が自然の力を模して再現されたものではない。放射された高電力体はただの生物であるのならナニモノも耐えることのできない、抗うことのできない威力を宿していた。
眩い程の光を発するそれの進路を阻む全ての触手たちが瞬時に燃え尽きて行く。
「 くっ、眩しい 」
あまりの閃光に目を細めてしまう。
そして、再び目をはっきりと開けた時、目の前にいるそれは先ほどのような姿を維持していなかった。
「 ・・・・くそっ!! 」
目の前のそれの姿を目に、湧き上がってきた苛立ちが口に出てしまう。
今だその姿を残していたそれは、焼け落ちた四本の巨大な触手、そしてそれに取り付いていた細い蔦たちは全て塵となっており、加えて本体の“一部”も焼け焦げ消失していた。
しかし、それはすぐさま今だ健在している三本の触手を従え、再び残った口の奥から発せれる禍々しい瞳を俺へと向けてくる。
「 しまった・・・外したか!! 」
自分のミスに苛立ちを隠せない。おそらく、普段から魔法を発している、放出系の技能に長けた魔道師などの職の者ならこんな局面での一撃を外すことなどなかっただろう。
思わず、短剣を握る手が震えてしまう。すると、限界を達してしまったのか、高電力体を発したその刀身はボロボロと崩壊してしまった。
冷や汗が先ほど以上の勢いで流れ続ける。
これでは、短剣を基点とした技を使用することはできない。魔法吸収能力を持つ相手に素手で挑むなど不可能だ・・・
「 こうなったら・・・やっぱり“アレ”を使うしかない・・・けど 」
腰のカードケースへと視線を向ける。しかしそれはまだこの戦いにおける“切り札”の設置が完了していないためになんの変化もない。
焦りを浮かべながらも喰人花へと視線を向けると、再びそれが伸ばした触手が俺へと襲い掛かろうと蠢いていた・・・




