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罠師ですけど戦います!!  作者: Saban
第一章: 罠師よ、常識を壊し続けろ!!
20/23

020: 罠師 VS 喰人花 (1)

勤務している会社がブラックになってしまった為、投稿スピードがかなり低減しちゃいましたが、ゆっくりにでも進めて生きたいと思います

第一章:罠師よ、常識を壊し続けろ!!


020: 罠師 VS 喰人花 (1)



人質を用いたトラップはいくつかある。

その中でもよくあるものが、人質をギリギリの所で生かし、悲鳴を上げさせ、仲間に救いを求めさせるという罠だ。叫ばせる人質の周りに違ったトラップを仕掛けたり、助けに来た敵を包囲し一網打尽にしたりとやり方は様々だが・・・おそらくS級危険種が仕掛けたトラップはこれに類するものだろう。


ただ、ヤツにとって誤算だったのは人質が“悲鳴をあげない”というところであった。カリンが解放された後彼女たちは生きるためにどうやってか魔力以外の力を使って結界を張り、加えて他の者を巻き込まないために声を押し殺していたのだ。だからこそ助けを呼ぶための叫びがあがることも、恐怖によって発せられる悲鳴が轟くこともない。

つまり、このトラップは未完成だったんだ。故に俺は冷静な対処をすることができた。


「 もう全部バレバレだぜ・・・・トラップマスター相手にこの程度の罠しか用意しないなんてな・・・そろそろ始めますよ、エリカさん 」


「 言われなくても、とっくに準備はできてるわ 」


互いにアイコンタクトをとり、手を重ねる。そして・・・


「 「 クロスライン 」 」


互いに発動したラインを結びつかせ、思考、意思の共有を行う。

そしてそれが合わさったのを確認して、手を離す。


こうして他人とラインを繋ぐのは初めてのことであったが、この救出作戦を達成するためには互いが常に思考を合わせ、行動する必要がある。


ナリィさんから受け取ったポーチから四つあるマジックウォーターの内、一つを取り出しそれをエリカさんへと渡す。

彼女はそれを黙って受け取り、淡々と魔力を回復した。そして、溜まった息を吐き出し、瞼を閉じ集中力を高め始める。


繋がれたラインによってエリカさんの思考が脳裏に浮かび、彼女の“妹を助けたい”という強い思いが俺へと流れ込んでくる。そして俺も目を閉じ、集中力を高める。


不意に彼女がまるで独り言をいっているかのように静かに口を開いた。


「 ・・・ハント、ホントにいいのね?正直な話、勝算はあんまりないわよ 」


「 俺は・・・死にません。死なせるつもりもありません。誓い、約束しましたから 」


「 ・・・そうね、あんたと繋がっている今ならその強い気持ち、わかるわ 」


そこまで言って少しの躊躇いと共に彼女は「なら」という話を繋げる。


「 引き止めるなんて無粋ね・・・頑張りなさい・・・・私もあんたを“信じてあげるわ”・・・後、ここに来るまでに色々見つけてね、私たちが相手とする魔物の名前くらいは分かったわ・・・ヤツの名は“フォレスト”。植物タイプのS危険種“フォレストフォークロア”よ 」


「 フォレストフォークロア・・・長い名前っすね 」


そこまで言って互いに口を閉ざし再び集中力を高め始める。

拳に力を込め、胸中で今だ消えない恐怖、不安を押し殺す。

俺はナリィさんに、エリカさんに信じてもらった、俺自身の実力を信じる。


「 待ってろよ・・・今、助ける・・・エリカさん!!! 」


「 いくわよ!!! “スキル”自動人形(オートマター) 」


俺の合図に合わせてエリカさんは式が刻み込まれた両手を前方へと寝かすと、その十本の指から多量の魔法糸を発動、それを用い目の前に広がる庭園の様々な箇所へ約二十体の糸によって作られた人形を創りだした。

そしてそれらは血花の隙間を縫うようにして地に足を付けると、人間さながらの動きで周辺を駆け出す。


「 ・・・来た!!! 」


瞬間、一帯を埋め尽くしている血花が舞い散り、その根元で眠る人骨の下に“潜んでいた”魔法吸収能力を有する蔦がそれぞれに姿を現す。そしてそれはエリカさんが創りだした人形へとその矛先を向けると、至るところで瞬く間にそれらへと伸び始めた。それによって、今だ庭園で逃げ回っているかのように駆け続けている人形も数体を残し、その殆どが蔦によって拘束されてしまう。


やはり、血花を隠れ蓑にしていたか・・・けど予想通りだ!!


「 かかった!!エリカさん、今です!!! 」


蔦の注意が人形へと向けられているのを確認し、叫びをあげる。


そしてその合図を耳にエリカさんは脳裏に詠唱式を浮かべ、それを口にした。同時に彼女を囲う周囲の空気が激しく震えだす。


「 “ 燄燄に滅ぜずんば炎炎を若何せん・・この言霊をもって劫火から産まれし業火を渦中集いて操り眼前へ現れし愚考なる罪人に裁きの灼熱を与えん・・・業火の(なみ)よ全てを塵とし焼き尽くせ ” 」


詠唱によって彼女の眼前に展開された魔法式が渦を創りだし高速で回転を始める。そしてそれが創りだしていた(なみ)は一秒としない内に強烈な熱を発し、炎の姿へと変換された。


彼女が発動していようとしている火属性“上級詠唱魔法”。

それは数ある上級魔法の中でも習得が困難とされている魔法、それによって創りだされる破壊力は、一度の発動でA級危険種の群れを塵と変える程と言われ、多くの魔法職を目指す者達がそれを身に付けようと必死に修行を励んでいるという・・・


『 ファイアーボルテックス 』


発動キーを口にすると同時に、目の前で待機していた炎の渦が前進を開始、一帯に広がっている血花を塵へと返していく。


魔法吸収能力を持つ蔦は、今だ人形によって足止めされており、その炎の渦という高濃度魔法体を吸収する暇などない。そして展開、放出された炎を宿す魔法式は数秒としない内に眼前へ広がっていた妖艶で禍々しいその花畑を、塵だけが積もる荒野にも似た光景へと創りかえていく。


これで前に進める・・・ここからは俺の仕事だ!!


五感強化(ウェイクセンス)を発動し荒野と化したそこを駆ける。そしてその後ろを多量の魔力を消費した為に、先ほど以上に息を荒げているエリカさんが続く。


“俺が”目標としている地点は庭園奥部。

周辺一帯で唯一血花が咲いていない、いや“刈り取られた”かのように開いたそこには、ぽっかりと空いた落とし穴を連想させる小さな穴が一つ。一見ではその穴の中は広い空洞となっているように思える。

そこはこの狂った庭園内部で唯一人間が生きられる可能性を持つ場所、おそらく捕まっている生徒たちはこの中にいる・・・・


「 って、普通なら考えるよな!! セット ジャンプトラップ 」


目標となる地点が近づくと同時に、強制跳躍のトラップを発動し、穴の真上に位置する天井へと手を添える。そして手の平にひんやりとした岩壁の感触を感じ、左手に宿る記憶の目次(インデックス)を発動した。


「 スライド +(“ライン”) ウォール +(“ライン) ジャンプ 」


ラインを通じて三つのトラップが合わさり、新たなトラップが生まれる。同時に腰へと装着しているカードケース、左腕の記憶の目次(インデックス)、そして俺の脳が高速処理を開始、熱を発しだす。


『ライトニングレイ』を含め、“二つ以上”のトラップを合成した合成トラップ第二段階セカンド・クリエイションを発動した場合、三つ目の式を処理するために自らの脳を使用する必要がある。故に発動には術者の脳にもそれなりの負荷がかかってしまうのだ。


ちなみにここに至るまでの経験から推測するに、俺が一日に『ライトニングレイ』を発動できる回数は40といったところだろう。最も、この数字は『ライトニングレイ』“のみ”を使用した場合の数であるため、今俺が行おうとしているそれとは違った、新たなトラップなどの使用できる回数は不明だ。


どちらにもいえることは、一日に使用できる合成トラップ第二段階セカンド・クリエイションの発動限界数を超えてしまった場合、俺の脳は処理の際に生じる過負荷によって“焼き切れる”といったところだ。


しかし、それを恐れていては後輩たちを助けることはできない。

熱を発する脳によって、新たに浮かび上がった魔法式を、手を添えた岩壁へと付加する。そして・・・


合成トラップ第二段階セカンド・クリエイション 『  バーリオルタワー 』


発動キーを口にすると同時に付加が施された岩壁から急激に生えた巨大な柱が、足元へと高速で放たれる。そして続けざまにもう一度それを発動し、計二つの岩柱を穴に向かって放つ。


付加を施した壁から岩柱を創りだすウォールトラップの創製速度をスライドトラップにより加速、さらにジャンプトラップによってそれを切り離し高速跳躍を付加、更なる高速を纏わし解き放つ、それが俺が発動した『バーリオルタワー』。


それによって放たれた二つの巨大飛翔体は、二秒とかからず地面へと命中すると視界全てを包み込む多量の粉塵と、地を割る轟音を発し、地震ともとれる大きな揺らぎを一帯におこした。


魔法糸を天井の一部に巻きつけ、警戒を強めつつも降下を始める。眼前には咳き込む程に舞い上がった土ぼこりだけが広がっていた。


「 !!!? 」


不意に強化された聴覚が不穏な音を察知し、危機を知らせる本能に従って魔法糸を解除、スライドトラップを使用し降下中の身体をその場から急いで移動させる。すると足元で今だ視界を遮っている粉塵を割き、巨人の腕を連想させる、横幅6メートル以上は悠にあるであろう太さを持つ蔦が先ほど俺がいた場所へと高速で伸びてきた。


新しい魔法糸を伸ばし、近くの壁に取り付き、空を貫いたその蔦へと注意を向ける。

そしてそれは標的を貫けなかったことを察すると、ゆっくりと粉塵の中へと戻っていった。


冷や汗が流れ、自然と呼吸が荒くなる。


収まりつつある粉塵の中から現れたそれは、先ほど俺を貫こうと伸びた巨大な腕を思わせる蔦を八本携え、更にそれに巻きつくようにして細い数百の蔦が触手の如く蠢いていた。


姿を現した“フォレストフォークロア”と呼ばれるそれは全長が十五メートルはあるであろう巨大な向日葵を模した姿をしていた。ただそれは、太陽の陽を糧に美しく咲き誇るようなものではない。

その全身には見た者の恐怖を駆り立てる、無数の牙が生えた禍々しい口のようなものが何十とあり、更にそこから発せられる腐った卵を思わせる腐乱臭はそれが姿を現すと同時に瞬く間に一帯を支配していく。


距離があるにも関わらずそのキツイ臭いは俺にも届いており、思わず苦悶を浮かべてしまう。


そしてそれはまるで蛸のように、生えている触手を“足”として地面へと伸ばすと、それを使って肉体を百八十度回転させ俺を捜そうと一帯の観察を始めた。


ありがたいことに、俺の先制攻撃は確かな威力を持っていたらしく、触手の中でも特に巨大な八本のそれの内一本がダラリと垂れていることから、効果があったのだと見て取れた。

打撃による攻撃は確かな効果を表してくれるようだな・・・・


< ハント!!三人を見つけたわ、これから救出と治療を開始するわよ!!! >


「 よし!!あとは頼みましたよ、エリカさん!!! 」

不意にラインを通じてエリカさんの思考が伝達されると同時に、予め偵察の際に設置しておいたウォールトラップを発動、俺からかなり離れた場所にある、エリカさん、そして三人の後輩がいるであろうそこの四方を巨大な防壁によって隔離する。


どうやら俺が偵察の際に聴き取った三つの吐息は“本物”のものであったようだ。

これでしばらくの間、防壁によってエリカさんたちが喰人花に襲われることはない。


「 ・・・ここからは俺の仕事だな 」


口にすると同時に喰人花が全身に持つ口の奥から巨大な眼球を発現させると、数十のそれを全て俺へと向けてくる。

全身が巨大な殺気のようなものによって震えているが、それを感じながらも微笑を浮かべてみせる。

さぁ・・・戦いの始まりだ・・・・


俺はゆっくりと鞘から短剣を取り出し、それを喰人花へと構えた・・・




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