002:集会所の性悪女
< 罠師ですけど戦います!! >
第一章:罠師よ、常識を壊し続けろ!!
002:集会所の性悪女
集会所の中はいつもと変わらず多くの冒険所や生徒たちで賑わっていた。場所によって様々らしいのだが、俺が利用するここアスピド支部の集会所は簡単な飲食が可能な場所であるため、室内に設置されたテーブルでは毎日クエストを終えた冒険者たちが様々な談笑を繰り広げているのだ。
そんな賑やかなテーブルを抜け受付へと向かうと、俺が来るのが分かっていたのであろう、青のポニーテールに整った綺麗な顔立ち、小悪魔を思わせる少しだけキリッとした目つきが特徴的な女性、ナリイ・アルミラージがどこか得体の知れない怖さが感じられる笑みを浮かべ、カウンターに両肘をついていた。
集会所の制服であるウェイトレスを思わせる服装も彼女が身に付けるとまるで似合っていないというか、なんだか不気味なものがある。
おぉ笑ってるよ、怖ぇなぁぁ・・・
カウンターを目の前にして足を止める。賑やかな周りとは対照的に俺とナリィさんの間には冷ややかな沈黙が流れていた。
少しだけ視線を横にずらし周りに目をやると、いつも止めに入ってくれる他の受付嬢たちは俺と目が合わないように顔を背けているような気がする。
あれ?雰囲気おかしくない?
もしかして俺が単位不足ってこと他の人達にも伝わっているんじゃないか・・・
「 いらっしゃい、ハント・トリックスター君 」
「 ・・・どうも、ナリィさん 」
俺の名を呼ばれると同時にゆっくりとした動作で彼女の前まで足を動かす、まるで死刑囚にでもなったかのような気分だ。ナリィさんは相変わらず不気味な笑みを浮かべ続けている。
「 とりあえず座りなよ 」
黙って出された指示に従い、俺はカウンターの前に設置されている椅子へと腰掛けた。それを見てナリィさんは一つの書類を取り出す。そしてそれを俺が見やすいように目の前へと置いた。
「 えぇっと、とりあえずあなたにはこのクエストをやってもらうわ 」
あっ、もう俺に拒否権はないんですね。
溜息を隠しつつ目の前に置かれた書類に目を通す。
えっと・・・“緊急救出”クエスト?
「 え?・・・救出? 」
「 そうよ、君には“ソリテュードの森”で行方不明になった四人の生徒たちの救出を行ってもらうわ 」
「 ソっ、ソリテュードの森ぃぃぃ!!! 」
おもわず悲痛の叫びが漏れる。
ソリテュードの森とはこの学園の生徒も立ち入ることができるダンジョンの一つだが、決して罠師が“一人”で訪れるような場所ではない。なぜならそこにいる魔物は、学園の三年生、つまり“卒業間近”でなおかつ“戦闘職”の生徒がパーティを組んで倒すような奴らばかりなのだ。
そんなところに“非戦闘職”の罠師が“一人”で行けるわけが無い。
・・・あぁ、きっと誰か俺以外にもこのクエスト受けるやつがいるんだな、ハハハ、そうだよな、さすがに俺一人ってことは・・・
「 このクエストを君“一人”で受けてもらうわ 」
「 なっ、なんですとぉぉぉぉぉ!!! 」
自分でもビックリするほどの裏声が集会所の賑わいを打ち消す。しかし、それもすぐに新たな談笑によって掻き消された。
こればっかりは、シャ、シャレにならん!!!?
「 じょっ、冗談じゃない!!無理無理、ゼッタイに無理!!一人であの森に行くなんて自殺行為ですって!!! 」
「 大丈夫よ!!!君には才能があるから!!! 」
「 そんな才能開花してないですよぉぉぉぉ!!開花せずに枯れ果ててますよぉぉぉぉ!!!! 」
頭の中が“無理”という言葉たちで埋め尽くされていく。俺は思いつく限りの言葉をひたすらに吐き出し続ける。しかし、それを聞いてもなおナリィさんはニッコリとしたままで、その表情を一切変えない。
どどど、どうにかしてナリィさんの意思を曲げないと
「 こんなのゼッタイにま・・・ 」
「 いい加減黙ろうか?君? 」
頭にカチャという音と共に冷たい鉄の感触。そしてナリィさんの笑みは相変わらず怖い。
ナリィさん、自慢の“銃”まで取り出してる・・・これは“今すぐ”死ぬか“これから”死ぬかのどちからということなのかよぉぉぉ・・・
どうあがいてもナリィさんの意思が変わらないという事実と、いい加減彼女の機嫌が悪くなってきたという恐怖が全身の力が抜いていく。
周りの受付嬢たちは皆俺へと同情の目を向けており、それがまた心に沁みる。
「 とりあえず、最期まで話を聞きなさい。まず最初から説明するから 」
そういって彼女は一つ溜息をつき俺の額に突きつけた銃をしまうと、一杯の水を差し出してきた。
こんな状況なんだ、どうせ出すなら酒出せ、酒!!!俺未成年だけど・・・
混乱している精神を深呼吸で落ち着かせる。
「 まず、君の“単位不足”の問題なんだけど、こればっかりはどうしようもないわ、私のほうでも計算してみたんだけど、普通に授業受けていても間に合うような時間は残されてない。だからこの“緊急”クエストが必要なのよ 」
確かにナリィさんの言うとおり、今から授業を受けていてもどうしようもない。それは俺も計算したことだ。しかし、“緊急”クエストなんて聞いたことがないぞ・・・
「 “緊急”クエストってのは学園が“直接”集会所に申請した依頼のことで、まぁ基本的には余程のことがないかぎり出てこないんだけど、それを達成した生徒には特別にそのクエストに応じた“単位”が与えられることになってるの。今回の場合だとクエスト達成と同時に“救助”と“探索”の単位を手に入れることができるわ・・・ 」
「 ちょっ、ちょっと待った!! 」
慌ててナリィさんの言葉を遮る。
そして先ほど少しだけ目に入った書類の内容を改めて確認する。
「 このクエストは既に四日前行われて、結局行方不明の四人は見つからなかったって書いてあるんですが・・・ 」
「 えぇ、そうよ。だから君にこのクエストを勧めたの。 」
ナリィさんが俺の手から書類を取り、それを少しだけ見直す。そして何かを確認し終わり、再び俺へと笑みを浮かべた。
「 別に“今回は”無理に戦えっていってるわけじゃないの、私が期待してるのは君の発想と推理力よ 」
“今回は”という言葉が気になるが、あえて突っ込ないことにする。
ナリィさんは話を続ける。
「 四日前に行われた大規模の捜索では何も見つからなかった。いえ、彼女たちが魔物と戦った痕跡などは見つかったけど、当の本人たちは結局行方不明のまま。結果彼女たちは既に捕食されたと確定されたけど、私はそうは思えない。だから君の力を借りたいのよ。オリジナルの魔道具を自ら開発しトラップマスターの称号を取得した、ハント・トリックスターの力を 」
「 ・・・オリジナルの魔道具って、この“トラップカード”のこと? 」
ベルトに取り付けたカードケースから手の平台の札を取り出す。これは俺が称号を手に入れるために作り出した“トラップカード”と命名した魔道具だ。
細かい作り方を説明していると面倒になってくるので、とりあえずこのカードの機能を説明すると、このカードには魔力、魔法式を同時にストックできる能力がある。
通常魔法式とは魔力が与えられることで初めて魔法、あるいは技として発動する。そして、魔力とは体内、正確にいうなら心臓内部にあるといわれる“核”により生成されているといわれており、それは基本的には体内から体外へと排出されると同時に消滅してしまう。
つまり、魔法式とは魔力が与えられている時のみ発動し続け、魔力なしで発動し続けるということは一般的にはありえないのだ。
対して俺が開発したトラップカードの素材には“耐魔力”の能力を持つ魔物の一部を使用しているため、このカードには注入された魔力を継続的に保持する機能がある。
それによってカードに魔法式を記入。魔法を維持することが可能となったのだ。
最も複雑な魔法式はストックできないという欠点もあるのだが・・・
「 そうよ、オリジナルの魔道具を開発するなんてことプロの冒険者でもそうそうできることじゃないわ、君はそれをその若さで達成した。君は気づいてないけど、私の見立てではこの学園の生徒内でも君程に発想力とそれを可能とするための方法を見つける推理力を持つものはいないわ。だからそれをもって彼女たちの所在を見つけて欲しいのよハント君 」
そこまでいって彼女はなにやらカウンターの中から大きな革袋を取り出すとその中身を並べ始めた。
その中には俺のような冒険者見習いが手を出せないような高価な回復薬や、アイテム屋でも見たことが無いようなものまである。
「 一応緊急クエストだから支給品は高価よ。とりあえず、これ全部もってっていいからよろしくね 」
そういって可愛らしく敬礼をしてくるナリィさんだが。
見間違いかな、武器が一つもないような気がするんだが・・・ん~おかしいなぁぁ・・・
「 あの・・・ナリィさん?ぶ、武器が無いようなんですが・・・ 」
「 あぁ、そうか!!ごめんごめん。はい、これね 」
そういって彼女は取り出したのは一本の短剣。
ん?短剣?それも一本?俺、非戦闘員だったよね・・・ん?ナリィさん笑ってる・・・
「 あの・・・ナリィさん? 」
「 さっさといってこい 」
再び“カチャ”という金属音と額に冷たい感触。
成る程、つまり俺に死ねということですね?わかります・・・
「 短剣一本で俺にどうしろっていうんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ 」
「 あぁもう!!仕方が無いからもう一本あげるわよ!!さっさと行ってきなさい!!! 」
そういってナリィさんがもう一本の短剣を取り出す。
いや、数あればいいって問題じゃない!!!
「 というか短剣渡されても俺こんなの使ったことないし、どうせならもっと素人でも使えるような強い武器くれぇぇ!!!いやください!!お願いしますぅぅぅ!!! 」
「 うるさい、うるさい!!!それならこれでも持ってきなさい!!! 」
再びカウンターに載せられる手の平台の近接戦闘用武器。
ん?というか武器かこれ、これどうみても・・・
「 果物ナイフだよこれぇぇぇ!!! 」
「 ナイフはナイフでしょうが!!!さっさと行って来いつってんの!!! 」
「 これもってどこ行けって言うんだよぉぉぉ!!!果物屋か!!!俺をパシリに使いたいのか!!何を買ってきましょうかぁぁぁぁ!!! 」
その後、俺は混乱したまま小一時間ほどナリィさんと言い合いを繰り返し、最終的には彼女が乱射し始めた銃弾から逃げるようにして泣きながらダンジョンへとむかったのであった・・・




