019: 誓いと約束を力に変えて・・・
第一章:罠師よ、常識を壊し続けろ!!
019: 誓いと約束を力に変えて・・・
そうして早五分が経った・・・
こんなにも300秒を短く感じたことはなかっただろう。
色々と考えた。どうすれば、後輩たちを効率よく助けられるのか・・・そして、どうやったらエリカさんに殺されずにこの場を乗り切るのか・・・・
その結果、俺が彼女にいったことは三つ、たった三つの単純かつシンプルな言葉だった・・・
一つ、“俺が”超・がんばる
二つ、エリカさんはここで待機して指示を待つ。
三つ、付いて来られたら、かえって足手まとい・・・・
・・・うん、三つ目を言った途端に当然殴られたよ・・・それも五発程顔面に両拳のストレートを・・・マジで痛い・・・
しかし、エリカさんも俺がいった言葉の意味を理解してくれたのだろう。「憶えてなさい」といって身を引いてくれた。
というか、身を引いてくれるなら殴るなよな・・・
そういうこともあり、俺は今一帯の血花を観察するように庭園と化しているそこの天井へとマジックスレッドを伸ばし、宙からの偵察を行っていた。
先ほど実証したのだが、どうやら今現在真下で禍々しく咲き狂っている血花はどうやらS危険種の一部ではないらしい。試しに少し魔力による干渉を行ってみたのだが、何も反応を示さなかったのだから、確かだろう。
おそらく、この花はS級危険種が吸い尽くした人の死体に残った血液を元に繁殖したのだ。
こんなにも狂った光景に慣れていない為か、今だ気持の悪いものを強く感じるが、それを押し留め集中力を高める。
「 ・・・それにしても 」
呟きと共に天井の中央部で、雄雄しささえ感じられる程に実っている果実へと近づく。
まるで高さ五メートルはある大岩のようなそれは、しかし心臓のように大きく脈立っており、その度に強い光を発している。それは撒きついた蔦も同様であった。
「 なんだか・・・“心臓”みたいだな。これがS級危険種に関係のあるものってのは推測できるけど、一体なんなんだこれ? 」
思考を凝らしてみる。
俺がやるべきことはこの狂った庭園のどこかに捕まっているであろう後輩たちを助けることだ。さっきまで行っていた偵察によって、その場所も助けるための手はずも整えた。後はエリカさんの強力の元、それを実行するだけ。
けど、目の前の果実。
これの正体が確定しないことには迂闊に行動することはできない。
ただでさえ、敵の|陣地“テリトリー”の中にいるのだ。不確定要素は一つたりともあってはならない・・・失敗は死を意味するのだから・・・
「 しょうがない・・・確かめるにはこの方法が一番手っ取り早いか 」
ゴクリと唾を飲み込み、果実へと手を伸ばす。
もし、これが本当にS級危険種の一部であるなら、触れた瞬間に体内の魔力を吸い取られるだろう。けど、もしそうじゃないなら・・S級危険種の一部でないというのなら、心配なく救出作戦を実行に移せる。
震える手をゆっくりと果実へと近づける。もしこれを触れたことによって想像以上の魔力を吸収されてしまった場合、今発動している魔法糸は消え去り、俺は天井から血花へと落下し・・・死ぬ・・・
後少し動かせば手が届くといった所で動きを止め、何度か深呼吸を行い鼓動を落ち着かせる。そして、意を決して果実へと手を添えた・・・
「 ッッッ!!!? 」
触れたと同時に咄嗟に手を離す。
違う!!・・“吸われた”のではなく“与えられた”!!?
頭の中が予想外の情報によって混乱している。
「 落ち着け・・・落ち着け、俺 」
離した手を胸へとあて、再び呼吸を整える。
そして先ほどの現象をもう一度整理しようと思考を働かせる。
「 どういうことだ・・・アレは確かに“魔力”だった・・・・触れた瞬間に “奪われた”んじゃなくて“与えられた”・・・・もしかして、これって・・・ 」
強大な・・・魔力の塊?
それこそが俺の辿り着いた答だった。
S級危険種が吸い取った魔力の集合体・・・いや、しかしこれは本来ならありえないことだ。
トラップカードを創る時に調べた資料によると、魔法吸収能力を持つ魔物には他の個体にはない“魔力貯蔵器官”があるらしい。なら吸収された魔力はそこに保管されるはずなのだ。
こんなにむき出しの状態で放置されているなんて・・・“ありえない”・・・もし、あるとするのなら、それは・・・・
「 ・・・・まさか、“常識を壊し続ける”道を選んだのが俺だけじゃないなんてな 」
皮肉めいた言葉が漏れる。
正直なところ、すぐにでも逃げ出したいほどの恐怖が俺の中で渦巻き続けている。けど、もう少しなんだ、もう少しで全員を助けることができる・・・・今が正念場なんだ!!
「 やってやる・・・やるしかない!!!! 」
胸に誓った熱い想いを、約束という生きる誓いを力に変え、俺はエリカさんの元へと急いだ・・・




