016:誓いを胸に
今日から四日間は確実に連日投稿します。
五日目は進行状況によります(汗)
第一章:罠師よ、常識を壊し続けろ!!
016:誓いを胸に
「 もぉ、機嫌直して下さいよ・・・一発も当たらなかったからいいじゃないですか?・・・ 」
「 そういう問題じゃないのよ!!!ホンっっっトに怖かったんだからね!!! 」
「 まっ、まぁまぁ、落ち着いて 」
今にも俺へ飛びかかろうとしているナリィさんをカリンがなだめる。
先ほどのオーバーリザードの群れをなんとか討伐し、一応周りの安全は確保したのだが・・・頬が痛い。
まさか、群れを倒すと同時にナリィさんからハードウルフの一撃並みに重いビンタをくらうとは思わなかった・・・いや、ほんとに意識が一瞬飛んでしまう程の一撃だった・・・
しかし、頬を擦りながらも、俺の心は少しの焦りを感じていた。
「 ・・・これで、最後か・・・ 」
荷物の中から持ってきていた予備のトラップカードを腰のカードケースへと移す。
もう、予備のカードは残っていない。つまり、今俺が装備しているトラップカードが無くなれば、付加攻撃も合成トラップも使用することができないということだ。
学園に帰ればそれは自室に保管しているが、取りに戻る訳にもいかない。
俺の仕草を見てナリィさんも少し苦い顔をしている。
彼女は俺の戦い方が“消耗戦”であることを十分に理解してくれている。だからこそ、ナリィさんなりに色々と考えてくれているのだろう。
とにかく、手持ちのカードが尽きる前に後輩たちを救出しないと・・・
焦る心を押し留め短剣を鞘に戻し、カリンへと言葉を向ける。
「 なぁ、カリン。他の三人はどこに・・・っな!!! 」
「 なっ何!!? 」
瞬間、一帯を襲う激しい揺れ。同時にそれを感じたカリンが咄嗟に鞘から折れたままの刀を取り出し、震えながらもそれを構える、しかし、その顔には恐怖以外の一切の感情が浮かんでいない。
俺の本能が目の前の洞窟から発せられる禍々しい雰囲気を察知した。
これは・・・ヤバイ!!
まるで見えない巨大な手に締め付けられたかのような錯覚が脳裏を走り、全身から溢れる汗が止まらなくなる。
身体が勝手に震えている。これはオーバーリザードが発していたモノとは根本的に違う。
生きていることさえ拒絶されているかのような・・・奥から発せられているその禍々しいモノは、まるで今すぐに俺たちの命を差し出せといっているかのようであった。
横目でナリィさんを見ると、彼女も目の前から視線を外せないようで、その顔に多量の汗を伝わせている。
「 アレが来る・・・二人は逃げて!!私が時間を稼ぎます!! 」
叫びを上げカリンが俺たちの目の前へと移動する。
それを見て、ほぼ同時といっていいタイミングで、身体にかかる重圧をそのままに俺とナリィさんは深くため息をついてみせる。
そしてカリンの肩に手を置き、彼女を無理やり下がらせた。
「 そういう言葉は最低でも俺より強くなってからいえ・・・ 」
「 なんの為に私たちが来たと思ってるの?・・・それからハント君。君の役割は別よ 」
そういってナリィさんは身に着けていたポーチを俺へと放り投げた。
「 わっ!!なにしてるんですか!! 」
投げられたポーチをなんとかキャッチする。すると彼女は優しい笑みを浮かべる。
「 時間稼ぎは私の仕事。君はカリンちゃんと一緒に他の三人を救出して。カリンちゃん、三人がいる場所、わかるわよね 」
「 ・・・たぶん・・でも危険な場所なんです 」
ナリィさんの問いにカリンは恐る恐る答える。そしてその回答を耳に彼女は微笑を浮かべた。
「 ということよ、ハント君。こっちも危ないし、あっちも危ない。だから救出のほうはお願い・・・・信じてるわ 」
そういい彼女は俺たちから視線をはずし、姿が見えないにも関わらず禍々しい雰囲気を放っている前方の洞窟へと手にしている銃を構えた。
「 約束して、必ず、生かし生きて帰るって!! 」
「 ・・・そっちが先にしてくれるなら、こっちも約束します 」
彼女は俺の返しに首を少しこちらへと傾けると、「生意気な」と小さく呟き綺麗な笑みを浮かべる。そして視線を前方へと戻し大きく息を吸い込むと、決意を固めたのか「よし」と気合の叫びを上げた。
「 約束する!!私は死なないわ!!!だからっ!! 」
「 約束します!!!俺は死なないし、後輩たちも絶対に死なせない!!! 」
互いにそこまで言って背を向ける。もう、信じるしかない。
俺たちは死なない。その誓いを胸に・・・
「 「 また生きて!!遭いましょう 」 」
誓いを叫びに変え、互いに駆けだす。
すぐに背後からは激しい戦闘の声が発せられるが、俺は・・・ナリィさんを信じる!!
背に彼女の闘志を感じながら、俺はカリンの先導に従い暗い洞窟へと駆け出した・・・




