015:突入!!S級危険種の巣窟(3)
< 罠師ですけど戦います!! >
第一章:罠師よ、常識を壊し続けろ!!
015:突入!!S級危険種の巣窟(3)
「 大丈夫か?助けにきたぞ 」
短剣をそのままに今だ唖然としている女生徒へと歩み寄る。
その女生徒が身に付けている学園指定のスカートや上着は至る箇所に砂や泥による汚れや破けなどが目立ち、ボロボロであった。
普段ならキリッとした綺麗な顔つき顔なのであろうそれも、今や少しやつれており、腰まで伸びた黒髪もボサボサである辺り、彼女がどれだけ苦労を乗り越えてきたのかが見て取れる。
女生徒の目の前まで来て、俺はベルトに取り付けたポーチから支給品のレアアイテム“アイビスエッグ”と呼ばれる卵状のそれを取り出し、押し付けるように彼女の手に握らせた。
「 ちょっと待っててくれよ。まだ敵がいるみたいだ 」
「 ・・・え? 」
女生徒は不思議そうな顔をしているが、五感強化によって研ぎ澄まされた俺の感覚がすぐそこまで近づいてきている魔物の存在を察知する。
彼女を背に隠すようにして短剣を構える。
そして目の前に現れた魔物たち、それはまるで人の形をした大岩であった。
身長はだいたい二メートル程で、しかし全身を覆い隠している無数の岩たちがその存在をより際立てている。両拳には特に大きな岩を纏わせており、それによる一撃がどれだけ強力であるのかが簡単に見て取れた。
あんなの一撃でもくらってしまうと、一巻の終わりだろう。
周囲を見渡す。洞窟内部というだけあって高さはあるものの横幅が少し狭く感じてしまう。最もそれは、俺が今まで草原でしか戦ったことがないから感じることなのだろう、洞窟の横幅は十人くらい並んでもまだ少し余裕があるぐらいだ。
増援が来たら面倒だ、手早く目の前の岩の魔物を倒さないと・・・
「 そんな・・・あれはB級上位危険種“ロックゴーレム”。斬撃耐性を持つ魔物です・・・撒いたと思ってたのに・・ 」
女生徒が恐怖の篭った声を口にする。しかし、すぐに何かを決意したのか彼女は片足を引きずりながらも俺の隣へとやってきた。
先ほど渡した“アイビスエッグ”はもう使用したのだろう、先ほどよりも顔色はマシになったが、それでもボロボロであることに違いはない。
ラインを伸ばし思考を読むよりも先に彼女の力強い眼が俺へと向けられる。
「 ・・・私の名はカリン、カリン・アーティザン 」
言葉と共にカリンと名乗る彼女は腰に下げていた鞘から折れた刀を抜き取り、その無くなった矛先を目の前の魔物たちへ向ける。
「 貴方は見た所、格闘職ではない。それなら二人でヤツらを倒したほうがまだ時間がかからないはず、私の刀は折れているが、それでもいないよりはマシです。救援がきてくれたのなら、早く皆を助けにいかないと!! 」
「 ・・・いっとくけど、俺まともな魔法使えないし、戦闘用のスキルとか一切憶えてないぞ? 」
「 ・・・は? 」
俺の言葉にカリンは先ほどの力強い眼を疑問の篭ったものへと変える。そして「だって」と呟きに似た声を漏らした。
まぁ、さっきの突進技みたら、魔法かスキル使っていたって思うか・・・
「 まぁ、ここは俺に任せろよ。俺一応お前の“先輩”って立場なんだし 」
カリンは情報によれば、学園の一年生だ。それに対して俺は三年。
後輩を助けるのは当然だよな・・
彼女は俺を引きとめようとしてくるが、それを気にせず先ほどよりも近づいてきている魔物へと向き直る。“ロックゴーレム”というだけあって、移動速度は遅いようだ。
「 さぁ・・いくか!! 」
気合を込めて叫びを上げる。そして二体のロックゴーレムへと駆けだした。
相手が斬撃耐性を持っているなら短剣を基点とした戦闘はできない。それなら・・・
「 速攻で決めるぞ!! “スキル”『記憶の目次』 」
左手の式を展開する。そして左目に表示された式とカードケースに収納されているカード。二つの欠片を瞬時に脳裏で組み合わせ、新たな“答え”として完成させる。
「 セット、ウォールトラップ 」
発動キーと共にカードケースから飛び出した一枚のトラップカードが輝きを放ち、俺の目の前へと配置される。そしてそれに左腕を向けラインの魔法を発動する。
ウォールトラップ、これは式を書き込んだ“地面”に作用し、そこから瞬時に防御壁となる巨大な岩壁を発生させるという能力を持っている。
基本的に都市の防衛に用いられるトラップなのだが、そんな大規模な式はそのままトラップカードに使用できないことから、俺が持つそのトラップは本来のものよりも能力がかなり低減されている。
けど、それでも十分だ!!
「 ウォール + マグネット 」
発動キーを口にすると共に熱を発する左腕、そしてラインが巻きついたカードは手中へと収まり、更なる輝きを放つ。
片目には新たな魔法式が映し出される。そしてその式によって手中で輝きを放つトラップカードは二つに分裂し、両手の平に分かれたそれをそのままに道を阻むように横に並んでいる“ロックゴーレム”の右サイドへと駆ける。
その行動に対して最も近くにいたロックゴーレムが強烈な風圧を纏った一撃を放つが、それを回避し手の平を壁へと押し付ける。
そして壁へと手の平の光が吸収されるのを確認して、今度は目の前の魔物の脇を抜け、更にその背後にいるもう一体のロックゴーレムの脇もすり抜ける。
その間にも二体の魔物からは何度となく強烈な攻撃が放たれるが、それも強化された五感を駆使し全て回避し、今度は脇を抜けて辿りついた左サイドの壁へと左手の平の光を吸収させる。
これで、準備完了だ・・
急いでバックステップにより、“それ”の攻撃範囲から身を引く。そして・・・
『 合成トラップ ディスペアークラッシュ 』
発動キーを口にした瞬間、目の前に先ほど設置した両サイドの壁からロックゴーレムの身長を悠に越した巨大な石柱が高速で伸びていく。
そしてそれはそれぞれの魔物へと強烈な打撃として命中した。
しかし、それだけではない、俺が発動した“ディスペアークラッシュ”は岩壁を生み出すウォールトラップと、設置した+と-のトラップを引き合わせ、或いは引き離すマグネットトラップを合成して生み出した合成トラップだ
つまり、先ほど両サイドに設置した+と-のトラップを施した石柱たちは互いに引き合う力を持ち、それらに挟まれた魔物を圧し潰す。
洞窟内に石柱がジリジリと動く音と、ロックゴーレムの絶命の咆哮が響き渡り、それは数秒後、ただの沈黙へと還った。
「 B級上位種を二体同時に一撃で倒すとは・・・貴方は一体何者・・ 」
「 ・・・・よっしゃあぁぁぁ!!! 」
カリンが何か言ってた気がするがそれを無視して歓喜の叫びを上げる。
正直な話、こんなに上手くいくとは思っていなかった。
一応、特訓時に何回か攻撃用の合成トラップは試したのだが、これは一度に“消耗”するトラップカードの枚数が多い為、そこまでの鍛錬を積むことができなかったのだ。
加えて、特訓時に身に付けた合成トラップは“斬撃”を基礎として生み出したものだったので、ロックゴーレム相手には使用できなかった・・・
ようは、先ほどの戦闘は全て“アドリブ”。
ひやひやしたが、なんとか上手くいったようだ、あぁ・・よかったぁぁ・・・
不意に裾をグイッと引っ張られる感覚。それに反応して振り返ると、なにやら不機嫌そうな顔をしたカリンが俺の顔を睨みつけていた。
「 私の名はカリン、カリン・アーティザン 」
「 ・・・うん、知ってる。というかさっき聞いたよね? 」
「 私は貴方の名前を聞いていません、名乗られたら名乗りかえすのが常識ではありませんか? 」
あぁ、俺が名乗ってなかったから不機嫌だったのか・・・
頭を軽く掻き「悪い悪い」と笑みを浮かべ、話を続ける為に言葉を紡ごうとした瞬間、洞窟内に激しい振動が発生する。同時に聞きなれた女性の叫び声。
「 その子はハント・トリックスターっていうのよぉぉぉぉぉ!!!というか、ハント君助けてぇぇぇぇ!!! 」
先ほど俺に「任せろ」と力強く言葉をくれたナリィさんは、しかし銃を持つ手を上へと伸ばし、お手上げといったようにこちらへと高速で迫ってくる。
強化された感覚は彼女を追いかけている五体の魔物を捕らえており、それらは俺が特訓時に十分相手してもらった“オーバーリザード”であることが分かる。
恐らく彼女は洞窟内部の蔦を気にして上手く力が発揮できていないのだろう、普段なら問題としない相手だが、今の現状不利と判断してこちらへとやってきたのだと、判断する。
「 相手がヤツらなら使える!!ナリィさん上手く避けてくれよ!!! 」
「 ちょっ、アレ使う気なの!!!私死ぬって!!絶対避けれないってぇぇぇぇ!! 」
「 大丈夫!!!ナリィさんには才能があるから!!! 」
かつて、俺に対して向けてきた言葉を、皮肉を込めてナリィさんへと返す。それに対して彼女は当時俺が口にした言葉とまったく同じ台詞を吐いたが、気にしない。
ナリィさん、そしてオーバーリザードとの距離はまだまだあるが、俺が特訓で身に付けたその合成トラップは遠・中距離戦用の技の為、今なら十分発揮できるはずだ。
鞘から短剣を取り出し、それを目の前に構える。そして先ほど同様に“記憶の目次を発動し、集中力を高める。
この技は先ほどの” ディスペアークラッシュ”とは違い、俺自身にも負担がかかるため、集中を切らし制御を誤れば、死ぬ可能性だってある危険な技なのだ。
「 セット、ライトニングショット・スライド 」
カードケースから“二枚”のトラップカードが放たれ、それを手中に収め、ラインを撒きつける。そして片目に表示されている魔法式の中から“ジャンプトラップ”の式を選択。
「 ライトニングショット + スライド + ジャンプ 」
手の中のトラップカードが眩い光を放つ。そしてそれを目の前に構えたままの短剣へと“付加”させる。そして誕生した魔法式の発動キーを口にすると同時に前方のオーバーリザードに狙いを定め、手にした短剣を振るう。
『 合成トラップ第二段階 ライトニングレイ 』
振るった刀身が閃光を生み出し、それは目視できる速度を超えた電撃となってオーバーリザードへと放たれた。
振ったのと同時とさえ感じられる速度で魔物へと命中したその一撃は、瞬時にオーバーリザードの全身に即死レベルの電撃を巡らせ、その肉体内部で活動していた各主用器官を焼ききっていく。
遠くで一匹の魔物が倒れたのを確認し、更に魔法式を展開する。
生み出した合成トラップの式は他の魔法式を使用しない限り、片目に表示されて続けるので、もう一度「ライトニングレイ」と発動キーを口にするだけで、カードケースから自動的にトラップカードが射出され、発射の準備が完了される。
ライトニングレイ。これ相手に強烈な電撃を与える“ライトニングショックトラップ”をジャンプトラップによって跳ばし、さらにスライドによってその速度を上げるといった三つのトラップが合わさった合成トラップだ。
加えてライトニングショックトラップの構造は、魔力を電撃に変えているのではなく、魔力を使って“電力を集めている”といったものであるため、高速で放たれたその一撃は距離が遠ければ遠い程にその威力を上げる。
短剣を振るうたびに倒れていくA級危険種たち。
その度にナリィさんが悲鳴を上げているが、やっぱり気にしない。
目の前の魔物たちは数秒としない内にその活動を止め、再び周囲にひんやりとした沈黙が流れ始めていた・・・




