014: 突入!!S級危険種の巣窟(2) + 014.5:魔法を創り出した青年
第一章:罠師よ、常識を壊し続けろ!!
014: 突入!!S級危険種の巣窟(2)
全身に冷たい風を纏いながら高速で進む。
しかし、その間にも耳に入る金属音は少なくなってきており、おそらくそれは“抵抗”が少なくなってきているということなのだろう。
急がなければ、手遅れになる。
「 しょうがない、とっておき使うか!! 」
駆けている身体を止め、思考を巡らせる。
それは特訓の際に身に付けた俺の“新たな戦い方”
左腕に刻み込まれた発動式に魔力を通し、その発動キーを口にする。
「 “スキル” 『記憶の目次』 」
式が光を放ち、その光は腕を伝って左目までやってくるとその片方の視界を別のものへと切り替えた。
俺が唯一使える“基礎スキル” 、『記憶の目次』
スキルとは身体に直接発動式を刻み込むことによってその発動時間を極端に省略した技能のことである。
これを用いれば、近接戦闘をしながらも、瞬時に詠唱魔法以上の威力を持つ技を発動することさえ可能となる。最も問題点としてそれは身体に“刻み込まなければならない”為に、一人が使えるスキルの数は限られており、加えて刻み込まれた式は死ぬまで消えることがないといった点もある。
そんな中で、俺が今展開しているスキル『記憶の目次』は、自分が使える魔法すら把握できていない初心者が使うような“基礎スキル”だ。
これは発動と同時に視界へ自分が覚えている、または現在発動可能な魔法の発動式を表示し、それらの発動キーを口にするだけで、『記憶の目次』の式が“自動的”にその魔法を使用してくれるといったスキルだ。
これを用いれば、例え自分で行ったのでは成功率が少ない魔法でも、一発で発動できる。簡単に言えば自分が一度でも使用できた魔法ならそれの発動キーを口にするだけで勝手に使ってくれるといったスキルだ。
最も、基本的に俺も含め、普通の冒険者たちは自分が使える魔法などは目を瞑っていても発動できるような鍛錬をつんでいる為、それを一生消えることのないスキルとして身に付けるのは愚考とされている。
「 よし・・いくぞ!!セット、スライド 」
腰のカードケースが左腕同様に光を放つ、しかしそこから放出されたトラップカードは今まで通り足元には設置されず俺の目の前で停止する。それに今だ光を左目へと伝わせている左手を向け、そして・・
「 スライド + ジャンプ 」
発動キーを口にすると同時に左腕の『記憶の目次』の式が熱を発する。同時に手の平から放たれた魔法糸と似た形状を持つ“ライン”の魔法は、目の前で光を放ち停止しているトラップカードへと撒きつくと、それを撒きつかせたまま熱を放っている手中へと収められる。
左目の視界では、様々な魔法式が世話しなく処理されている光景が映し出され、しかしそれも一秒としない内に“一つ”の魔法式へとその姿を変えた。そして新たに“創り出された”その式の発動キーを口にする。
「 合成トラップ ストームフロウ!! 」
手中のトラップカードが眩い光を放ちそこに浮かぶ魔法式を“新たな”ものへと書き換えられていく。
それはスライドトラップの高速強制移動とジャンプトラップの高速跳躍が“合成”された“新たなトラップ”
今だ光を放っているそれを自らの足へと“付加”しそこに力を込め、それを解き放つ。
瞬間、俺の身体はナリィさんの速度よりも、オーバーリザードのそれよりも更なる高速を纏い足音のあった前方へと跳んだ。
薄暗い景色が早送りされて流れていく。
スライドトラップの高速移動とジャンプトラップの高速跳躍。
合わさったそれらは加法ではなく乗法の速度で発動され、全身を襲う風圧が少し痛いがまだまだ距離があったはずのその足音の主を瞬時に視界へと映し出す。
それを確認し太股に取り付けた鞘から短剣を取り出し、ネメアの発動と共にその目の前で蠢く魔物にその矛先を向ける。そして・・・
「 なっ、なんだ!!? 」
足音の主が驚愕の声を上げた。
そこにいる何よりも高速の速度を纏った俺の一撃をくらったその魔物がハードウルフなのかウルフマンなのかは分からないが、それは一つの咆哮すらあげることもできず、硬化した俺の身体によってその奥の岩壁へと押し込まれ、「ミシッ」という音と共にただの肉塊へと姿を変える。
「 うへぇぇ・・汚ねぇぇ 」
硬化をそのままに岩壁に埋まっている身体を壁から引き離し、肉塊によって赤く汚された服や肌を拭う。そして唖然としているその女生徒を確認して、俺は喜びから満面の笑みを浮かべてみせた。
「 待たせたな、助けにきたぜ!! 」
背後で今だ少し崩れている岩壁がボロボロと音を発しているが、それ以外の音は全て止まり少しの沈黙があたりを包み込んだ・・・
――――――
014.5:魔法を創り出した青年
夕日は沈み始め、辺りはひんやりと冷え始めている。
拳に力を込める。しかし、やはりまだまだ回復には時間がかかるようで上手く魔力を通すことができない。
「 はぁ・・まだ、回復までは時間がかかりそうね 」
ナリィとハントを見送ってどれくらい時間が経ったのだろう?
私の魔力は今だ戦闘ができる程には回復しておらず、崖下の草原で今だ待機を続けている。
それが凄くもどかしく、早く合流して救出を行いたいという気持だけが焦っていた。
けど、こんな時こそ冷静に動かないとダメ・・・
何十回目かの溜息をつき、空を仰ぐ。そしてハントが“新たに”手に入れた戦い方について少しだけ思考をまわしてみる。
「 ・・・合成トラップか・・ありえないわね、あいつ 」
思わず声が漏れる。
私が“ありえない”と思ったのは二つの魔法式を“合成”させたという点だ。
試しに片手を伸ばし、簡単な魔法式二つ脳裏に浮かべてみる。そしてハントがやったようにラインの魔法を伸ばした手に発動してみた。
「 えっと・・マジックスレッド +・・ッッ!! 」
瞬間、脳裏が強烈な熱を持ち、思わず地面へと倒れこんでしまう。
「 はぁ・・はぁ・・・やっぱり無理よね 」
呼吸を整え、身体を起こす。
ラインの魔法式は“万能”なものだ。それはあらゆる魔法式の基盤となっており、どんな式にも万能に結びつくことができる。
これは“ライン”を使いこなせている者なら誰しもが気づいている事実であった。故にこのラインを用いて二つの魔法式を“合成”し、新しい魔法を創り出すという方法は、私やナリィのような高レベルの冒険者なら誰しもが一度は思いつく。
しかし、私含め皆同様、失敗した・・・
何故なら、二つの魔法式を“同時”に発動し、それを合成、新たな魔法式を創り出す。その工程、処理に脳がついてこられないのだ。
それに挑んだ者達は先ほどの私同様に熱を発し、酷ければ脳死に陥り死亡したものさえいた。
それなのにハントはそれをやってのけた。
新たな魔法を創り出す・・・そんなことができる冒険者など百年に一人いるかいないかだ。
彼はその事実に七十六回目の敗北で気づき、私に問い掛けてきた。
『 脳が二つの魔法式の処理についてこれないなら、それを自動でしてくれる式が二つあれば問題ないってことですよね?”記憶の目次”とこの式を用いてつくったカードケースがあれば・・いけるかもしれない 』
そしてその後三度の失敗を乗り越え、その方法を身に付けた。
「 常識を壊し続ければ、どこまでも強くなれる・・・か。あながち、ナリィの言ってたことも嘘じゃないかもね 」
ナリィは過保護ではないかと思える程にハントのことを高くかっている。今ならその理由も分かる気がする。
今のあいつになら・・・少しくらいは任せられるわね・・・
再び溜息をつく。
何故か周りからは魔物の声さえ聞こえず、静まりかえった森に身を委ね、私はゆっくりと目を閉じた・・・




