013: 突入!!S級危険種の巣窟(1)
第一章も終盤となりました。このまま終わりまで毎日投稿できるようにがんばります!!
第一章:罠師よ、常識を壊し続けろ!!
013: 突入!!S級危険種の巣窟(1)
「 マジックスレッド 」
設置した落とし穴に落ちると同時に魔法糸を発動し、ゆっくりと地面へと降下していく。すると予想通り、真下には広い空洞が広がっており、民族達が残した痕跡が原始的な罠であったことが証明された。
以外だったのは洞窟内部を照らす明かり、いやこれは蕾なのだろうか?
地面の所々に張っている蔦の至るところにその蕾らしきものはついており、それらがうっすらと明るい光を放ち、薄暗くはあるが、それでもあたり一面が視認できる光景を作り出していたのだ。
魔力で熾した炎は吸収される恐れがあったので、簡易式のランプを用意していたのだが不要となってしまったな・・まぁ、ランプで照らせる範囲なんて限られているので、辺り一帯が視認できるというのはありがたい話だ。
空洞の底まではまだ十五メートル以上はあることから、広がっているそこは崖下の地面と同じ高さなのだろう。目を凝らすと、空洞には何個もの洞窟が繋がっており、S級危険種を捕らえているこの地下空間は崖上ダンジョン全域の真下に広がっていると推測できる。
辺りを警戒しつつも降下を続ける。
周りを取り巻く空気は冷え切っており、それは無意識に呼吸を荒げていく。
「 ・・よし、問題ないな 」
降下を終え、地面に脚をつける。そして集中力を高めると共に周りに危険がないのを確認した。
真上から見えたように、一帯の所々には俺の腕程はある蔦が張り巡らされており、よく見ると、それは呼吸をしているかのように小さく脈打っている。
おそらくこの蔦はS危険種の一部だ、もしそうならこれに触れるだけで魔力を吸い取られる恐れがある。魔法吸収能力を持つ魔物と対峙したことなんてないから、一度でどれくらいの魔力を吸収されるのかは分からないが、触れないに越したことは無い。
「 まさかこんな地下空間があったなんてね。さて、手早く見つけて帰りましょ 」
いつの間にか隣にたっていたナリィさんが言葉と共に銃を構える。
・・なんで、銃構えてるの?
「 集中!!早く構えなさい!! 」
「 はっ、はい!! 」
喝を入れられ咄嗟に返事を返してしまう。
瞬間、背筋を駆ける悪寒。同時に本能が自動的に俺の脳を集中力で満たせていく。
ナリィさんの言葉通り、俺は短剣を構えた。
「 数が多いわね・・頼りにしてるわよ、ハント君 」
どういうやり方か、ナリィさんは近づいてきている魔物の群れを十分に把握できているらしい。俺も先ほどの特訓によって危機察知能力の上昇と、それを感じると同時に集中力が勝手に高められるという特技を身に付けたのだが、彼女の能力はそれよりも遥かに高いようだ。
「 あれは・・ウルフマンか 」
「 そう・・二十七体いるわよ。大丈夫、今の君ならトラップカード使わなくたって余裕で倒せる相手よ 」
奥の洞窟から聞こえる獣の足音たち。そしてそれは崖上で俺を襲った人と狼を足したかのよな全身を持ち、手にはぼろぼろの剣を携える、ウルフマンとして再び目の前へと現れた。しかし、自然と以前のような恐怖は感じない。
ナリィさんの言うとおり、なんだか余裕で倒せるような気さえする。
「 それじゃ行くわよ!! 」
「 はい!! 」
ナリィさんが駆け出すと同時にこちらも魔物へと向かう。同時に目の前の群れも咆哮を上げ威嚇してくるが気にしない。いや、気にならないといったほうが正しいだろう。
かつてはこの咆哮に怯えていたが、目の前の獣たちが発するそれはオーバーリザードと戦っていた時、常に感じていた恐怖に比べると、まるで子供のお遊びだ。
何を行っても、何を思いついても逆らうことのできない、抗うことのできない死への恐怖、絶望、それが目の前の群れにはない。
五感強化を施している訳でもないのに感覚が澄んでいるような気がする。そして集中力を高めつつ手にしている短剣を振るっていく。
すると、自分でもビックリするくらいに目の前の敵が次々と倒れていく。
オーバーウルフ、そしてハードウルフと戦う時には付加を施さなければ全く通用しなかった俺の攻撃は、しかしウルフマンには何をしなくても十分通用している。
例えは悪いがまるで人間を相手にしているようだ。目の前のそれらは出血によって殺すこともできれば、急所を一撃突き貫くだけで仕留めることもできる。
そんな相手なら集中して動きを観察するだけで十分戦える。
最も、特訓をする前の俺だったら、それすらもできなかっただろうが・・・
しかし、一体ずつ確実に仕留めている俺に対してナリィさんの戦い方はかなり派手だ。
彼女は先ほどから一発の魔弾を発射したかと思うと、それが敵に命中すると同時に爆散、周囲の敵を巻き込んだ爆発を生み出すといった範囲攻撃を連発しているのだが、驚くことに、俺には全くダメージがない。
爆発の他にも様々な範囲攻撃をしているにも関わらず、味方を巻き込むことなく、それを精密に制御するなんて、とてもじゃないができることではない。しかし・・・
「 マズイわね 」
「 ・・そうですね、数が増えてる 」
ナリィさんと背中を合わせる。
先ほどから何十と討伐を繰り返しているが、群れは一向に減る気配が無い。奥の洞窟に目をやると、そこから次々とウルフマンが俺たちを襲おうと向かってきているようであった。
それを見て、背後のナリィさんは苦笑いを浮かべる。
「 ハハ、やっぱり五感強化ぐらいは使っとこうか? 」
「 ・・・そうですね 」
長期戦を予想したのだろう。ナリィさんの提案には乗り、“ウェイクセンス”を発動する。同時に目の前の景色が別のものへ変換された。
「 よし、これで・・・ん? 」
不意に強化された聴覚がナニカを聞き取る。
目を閉じて、それに意識を集中する。ナリィさんは俺の行動が何かを意味していると信頼してくれているのだろう、先ほどまでの範囲攻撃を止め、なるべく音がでない攻撃手段に切り替え、近づいてくる魔物たちを相手してくれているようだった。
なんだこれは・・なにか金属音のような音と・・・これは、足音か?
聴覚が金属が衝突しているかのようなものと、走っている足音のような音を聞き取る。
つまりこれは、生存者がいるってことだ!!
目を見開き、溜まっている息を叫ぶように吐き出す。
「 ナリィさん、ここ任せていいですか!! 」
「 ・・任せなさい!!さぁ早く行って!! 」
言葉から状況が理解できたのだろう、ナリィさんは言葉と共に俺が進もうとしている方へと銃口を向けると、そこから高出力の魔弾を撃ちだし、前方の道を開いてくれた。それを見て短剣を戻し足元にスライドトラップを設置、高速で足音へと向かう。
金属が衝突しているような音ってことは、恐らく剣を使って何かと戦っているということなのだろう。
頼む・・生きててくれよ!!
焦る気持を抑え、俺は洞窟の奥へと進んだ・・・




