001:トラップマスターは卒業できない
初めての投稿で至らない点ばかりだと思いますが、早いペースで投稿していきたいと思っています。
よろしくお願いします。
第一章:罠師よ、常識を壊し続けろ!!
001:トラップマスターは卒業できない
まずい・・・
非情にまずい・・・
目の前に広げた書類を睨みながら俺は頭を痛いほどに掻き毟った。
世界に五つ存在する学園の一つ、水上移動都市アスピドケロンに存在する「冒険者学園、アスピド」に入学して早二年。
学園に在学する冒険者見習いの生徒たちは、三年を費やしそれぞれに必要とする知識、そして卒業するために十三の単位を取得するため、日々勉学に励む。
戦士としての戦い方を専門的に学びたい者は「兵学学園リンドブルム」へ入学し、魔法を専門に学びたい者は「魔法学園アジ・ダハーカ」、医療学は「医療学園カラドリオス」、聖職者を目指す者は「聖職者学園、ゲオルギルス」へと入学するのだ。
そして俺が通う「アスピド」は他の学園とは違い、多くの専門学を複合的に学ぶことができる場所であるため、専門特化ではないが故に在学中学ぶことは生徒によって無限といっていい程にある。
そんな無限の可能性を引き出すことができる学園で、俺は今“単位不足”という壁にぶち当たっていた。
いや、正確にいうなら壁にぶち当たって心が粉々に砕け散っている状況だなこれは・・・
なぜこうなったのか理解はしているのだが、一応今までの学園生活を振り返ってみる。
これまで何度も不眠不休でトラップの実験を行ったこともあったし、彼女もつくらず図書館に篭りトラップに関する記述が書かれた本を読み漁ったこともあった。
後、実験用に設置したトラップを解除し忘れて学園一堅実な教師を女子更衣室に突っ込ませたこともあった・・・
このように俺は青春をも捨てて勉学に励んできたのだ、なら何故“単位不足”などになるのか。
一言で説明しよう、俺は二年間トラップ術“しか”勉強しなかったからだ。
三年しかない在学期間内で二年もの時間を一つのことだけに費やしたのだ。
まぁ単位不足になるのは必然だな・・・うん。
「 うぁぁぁぁ!!今更ながら馬鹿なことしたぁぁぁぁ!!! 」
本当に今更な後悔が自然と叫びとなった。
小さな頃から魔法トラップを自在に操る“罠師”という職に憧れ、それを学ぶためだけにアスピドに入学した俺だが、結果トラップ術を極めた生徒にのみ学園から送られる “トラップマスター”という称号手に入れる見返りに、このままでは卒業できない状況を今になって教員から告げられるとは・・・。
現実は非情だ。というか、卒業まで一年未満になる今頃になって、そんなことをいう教師もどうかしていると思う。
卒業できないなんて重大なことはもっと前に言ってくれよ・・・
「 やっぱり“ナリィ”さんに頼むしかないのか・・・ 」
脳裏にナリィ・アルミラージの顔が浮かび上がる。
彼女はこの学園に付属された“冒険者集会所アスピド支部”で受付嬢をしている三つ年上の性悪女だ。
いや、冗談抜きでナリィさんは結構な性悪だと思う、まぁ本人にいうと殴られるから言わないけど。
冒険者集会所とは世界に何百もの支部を持つ、“ソロ”の冒険者や俺のような冒険者見習いがクエストを受けるために存在する施設だ。
冒険者には一人でクエストを行う“ソロ”の者と、“ギルド”に所属する者がいる。
ギルドに所属した者は集会所にいかなくてもそこに直接申請されるクエストを行うことができ、さらにギルド内での立場が上がればその分報酬も大きくなる。
対して冒険者集会所は内部での立場などは存在せず、代わりにお使いのように簡単なクエストから生死を賭けるほどに難しく危険なクエストまで幅広い依頼をこなすことができるといった場所で、俺も何度か世話になっており、在学中の生徒にとっては小遣い稼ぎをするには持ってこいの場所なのだ。
そしてそこで働く彼女が、先程単位不足という現実に絶望している俺に対して“打開策はある”といってきたのだ。
初めは、すぐにでもその話に食いつこうとしたのだが、冷静に考えるとナリィさんに“限って”まともな策を提示してくるとは思えなかったので、少しだけ時間をもらうことにしたのだ。
俺の専門職である“罠師”というものは、あらかじめ敵が侵攻してくるルートに罠を仕掛け戦況を打開させたり、町などの防衛機能としてそれを設置したりと、自分でいうのもなんだが割りと地味な非戦闘職だ。しかし、ナリィさんはそんなことなど一切気にせずに何故か俺に対して“討伐クエスト”ばかり勧めて、いや押し付けてくるよく分からない人なのだ。
集会所で合うたびに『君には才能がある!!』と叫んで来ては無理やりクエストの受託書を顔に押し付けきてくる彼女を振り払うのは毎度ながら至難の業で、毎回他の受付嬢たちがナリィさんを押し込めるという形で救ってくれているのだが、今回ばかりはそういう訳にもいかないだろう・・・
ちなみにだが、俺は、学園に入学してからの二年間で、一度も短剣を握ったこともなければ、杖を使って魔法を唱えたこともない。
技能スキル?呪文?なにそれおいしいの?
「 はぁ・・・考えても仕方ないか・・・ 」
広めていた書類をまとめる。
そしてゆっくりと時間をかけて、重い足をナリィさんが待つ集会所に向けて進める。
どんなに考えても、彼女に頼る他ないのだ。
それに俺の戦闘能力が学園の一年生よりも劣ってことをナリィさんは理解してくれているだろうから、討伐クエストを勧めてきても命がけで行うようなものではないだろう・・・多分・・・
どのみち覚悟を決めるしかない。
俺、罠師ですけど・・・
罠師ですけど戦います・・・