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白雪姫を映した鏡

「この世で一番美しいのは誰?」


白雪姫の継母である女王は問いました。


「それは白雪姫です。」


そう答えたのは、真実だけを答える魔法の鏡でした。


魔法の鏡の言葉を聞いて嫉妬した女王は、白雪姫をあらゆる手で殺そうと企みました。

しかし白雪姫は7人の小人たちや他国の王子様のおかげで助かりました。

そして女王はその王子によって国を追い出されました。


さて、それからのお話です。

女王がいなくなってから、国と城は白雪姫のものになりました。

若くして一人で国を支えることになってしまった白雪姫は女王のいた部屋へ入ってみました。

そこには、女王がいつも問いかけていたあの魔法の鏡が残されていたのでした。


「大きな鏡ね。この鏡、お義母様のものかしら。」

「その通りです。白雪姫。」


誰もいないはずなのに声が聞こえて、白雪姫は脅えながら「誰!?」と部屋を見渡しました。

その問いかけに「あなたの目の前にある魔法の鏡です。」と、鏡は丁寧に答えました。

白雪姫は魔法の鏡に大変驚きながらも、何度か鏡に問いかけてみました。

問答を繰り返すうちに白雪姫は継母が自分を狙い襲うまでの経緯の全てを知ることになったのでした。


それから1年後。白雪姫は魔法の鏡の助けもあって立派な女王として国を治めていました。

そして継母のように毎日、魔法の鏡に問いかけました。


「鏡よ鏡、鏡さん。この国で困っている国民や、問題のあることはないかしら。」

「国中に困っている人々はおりません。問題もありません。」

「それはよかった。では、私がやらなければいけない仕事はあるかしら?」

「そろそろ婚約者を決めなければなりません。国中の人々が待ちかねております。」

「あら、そうなの?困ったわ。たしかに、最近縁談の話は来ていたけれど。」

「あなたを救った王子を選ぶのがいいでしょう。一年前の借りも返せますし、素晴らしい王子です。」

「たしかに彼はとても立派な王子様だったわ。でも、借りならもう返したでしょう?」


魔法の鏡に国を治めるために必要なことを聞いていた白雪姫は、借りの返し方も鏡に聞いていた。

そして鏡の言う通りに行動して借りを返し、両国の同盟にもいたったのである。


「たしかにそうですが、一番あなたにふさわしい王子は彼です。」

「あなたが言うのだからそうなのでしょう。でも私には、好きな相手がいるのです。」


鏡は黙り込みました。


「好きな相手が他にいるのに、あの立派な王子様に嘘をついて婚約することはできません。」


そして、白雪姫は鏡を見ながら言いました。


「鏡よ鏡、鏡さん。あなたならもうご存知なのでしょう?私の好きな相手が誰なのか。」

「はい。」


魔法の鏡は、問いかけられては答えるわけにはいきません。

白雪姫の質問に答えます。


「ですが白雪姫、その相手はあなたにふさわしくありません。あきらめた方がいい。」

「あら、お義母さまには協力的だったのに私にはすぐにあきらめろと言うのね。」


魔法の鏡は一年前、継母にいくつか助言をしていたのでした。

国内で殺せば誰かに知られて国中が敵になるだとか。

醜い老人になりすませば、誰もが美しい女王だとは気づかないで白雪姫に近づけるとか。

鏡を信じきっていた女王は、そんな提案をあっさり受け入れていました。


「それらは確かに真実だったのでしょうけど、本当に正しい答えだったのかしら。」


白雪姫は鏡の横に寄り添い、ずっと疑問に思っていたことを聞きました。

問いかけにしか答えないはずの魔法の鏡がやけに女王に助言をしていたこと。

その助言が、結局女王の念願を叶えることがなかったこと。


「私は真実のみを話す鏡です。」

「そうよね。でもあなたの助言がなかったら私は既に殺されていたかもしれないわ。」


それだけではありません。白雪姫には、なによりも気になる疑問がありました。


「ねぇ、鏡さん。本当に世界で一番美しいのは私なの?」

「私は真実しか言えません。」

「だけど私は、美しさの基準なんて人それぞれだと思うの。だとしたら。」

「私は世界の基準で申しました。ほとんどの人間が全ての人々の中からあなたが一番だと言うでしょう。」

「あなたがそこまで言うならば、まず私の心からの正直な心を打ち明けるわ。」


白雪姫は鏡から少し離れて、改めて鏡に向かい合いました。


「あなたはこれまで私のことを助けてくれました。今の私にとって、あなたが一番の恩人なのです。」

「私は人ではありません。」

「そうね。でも、恩があることはたしかなの。あなたはたくさんの助言と応援をしてくれたわ。」


一国の姫としての弱みを見せられるのは鏡だけだった。

白雪姫を一番理解してくれたのも、助けてくれたのも、たくさん声をかけてくれたのも鏡だった。


「ねぇ。鏡よ鏡、鏡さん。私がいつの間にかあなたに抱いてしまったこの想いは恋なのでしょう?」

「...はい。その通りです。」

「ありがとう。おかげで確信をもってあなたに言えるわ。私はあなたを愛しているの。」

「ですが白雪姫、私はただ真実を述べるだけの鏡です。王女のあなたにはふさわしくありません。」

「そんなことはどうでもいいの。どうせあなたがいなければ私は立派な王女になれなかったのだから。」

「ですが白雪姫。私は真実を述べるだけのただの鏡です。」

「真実を知るあなたならもう知っているでしょう?私がどれだけあなたを理解したうえで愛したか。」


たった一年だけれども、白雪姫は出会ってから鏡のことを毎日のように一生懸命考えていたのだ。

白雪姫はまっすぐに鏡を見つめて問う。


「鏡よ鏡、鏡さん。あなた自身が一番美しいと思うのは誰?」



「...それは、白雪姫。あなたです。」


真実しか語れぬ鏡は、少し間をあけて答えた。



「ごめんなさい。無理やり言わせてしまって。」

「いえ、あなたは悪くありません。全ては、私があなたが一番美しいと思ってしまったせいなのです。」

「どういうこと?」

「あなたは幼い頃、この部屋に一度だけ迷い込んだことがあるのです。そしてあなたは私に言いました。」


わぁ!大きな鏡があるわ。それに、とっても素敵。


「他にも豪華で立派な品々があるのに、大きいからとはいえ私のことを特に気に入ってくださいました。」

「あら、その頃から私はあなたに夢中だったのね。」

「あの時、素敵だとほめてくださった純粋な真実の言葉が私になかったはずの心を動かしたのです。」

「そうだったの?」

「私はその言葉を直接聞いて初めて知ったのです。人によって美しさは様々で、心の美しさも魅力だと。」


だからついにあの日、女王の美しさより心も体も美しく育った白雪姫を選んでしまった。


「ですが白雪姫。鏡を愛してどうするのです。むしろ、あなたが襲われる原因となったのですよ。」

「恨んで欲しいのかもしれないけれど、だったらもう遅いわ。私の心はもう決まっているのです。」

「白雪姫。」

「王女としての幸せを捨ててでも、私はあなたを選びます。」


観念したように、鏡はつぶやいた。


「ああ、あなたはいつもそうだ。いつも私のことばかり。」


あの方は、鏡に映る自分の美しさと女王の姿に見惚れていたというのに。

あなたは純粋に私自身のことばかりを見つめてくる。


「じゃあ今度はこう聞くわ。鏡よ鏡、鏡さん、あなたが私に言いたいことはないかしら?」


その質問に、魔法の鏡は本当に正直に、素直な気持ちを答えました。


「白雪姫。私はあなたを愛しています。そばにいることをお許しいただけるのでしょうか。」

「もちろんよ。」


今度は白雪姫が魔法の鏡に答えました。


その後、白雪姫は国の民から優秀な子供を一人、後継者として選びました。

もちろん、魔法の鏡の助言もあってでしたが。


こうして白雪姫と魔法の鏡の愛は結ばれ、国も平和で保たれましたとさ。

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