赤ずきんの狼 4ページ
思わず持ってきてしまった赤いずきん。
返そうにも、また会いに来てくれるかもわかりません。会っていいのかもわかりません。
狼は無くさないように、大事な赤いずきんを頭にかぶって過ごすようになりました。
そして、いつもの待ち合わせ場所から少し離れた場所の木の後ろに隠れていました。
もしかしたらあの猟師が自分の代わりに赤ずきんと一緒にいるかもしれないからです。
いつまでたっても現れなくなったので、狼は寂しそうに赤いずきんにそっと触れました。
「やっぱり、もう会えないのかな。」
何日目のことでしょう。あきらめたようにしゃがみこんでため息をついた時でした。
「狼さんの言った通りね。赤いずきんって目立つわ。」
目の前に、あの愛しい女の子がいました。
「お母さんたちが心配して外出させてくれなかったの。今日やっと出られたわ。」
「あぁ、良かった。また会えた。そうだ、このずきん、返さないと。」
「ううん。よかったらそれ、受け取ってちょうだい。私は新しいの貰ったから。」
そう、二人がおばあさんの家に言った時に作りかけだったずきんが完成していたのです。
彼女はその真新しい赤ずきんを手に取って見せて、被りました。
「被ったところを最初に狼さんに見せたくて、もったいぶっちゃった。どうかな?」
「うん。やっぱりお前には赤いずきんがとてもよく似合うよ。」
「ふふ、これでお揃いね。」
赤ずきんは狼さんが逃げた後のことを話しました。
おばあさんは、狼におどろいたショックですっかり病気が治ってしまったこと。
猟師に護身用の銃をもらうことで、ようやく外出の許可がもらえたこと。
「今までは狼さんが守ってくれたけど、これで私も狼さんを守れるわね。」
「だけど俺なんかに会いに来ていいのか?俺は、狼なんだぞ?怖くないのか?」
「今更怖くなんかないよ。」
「でもこの手がいつかお前を傷つけるかもしれない。」
「その手は私を抱きしめるためにあるんでしょ?」
赤ずきんは、この間の遊びの時に言われた言葉を言いました。
「その耳も、目も、私のためにあるんでしょう?」
「あぁ。あぁ。そうだ。お前の声を聞くために、お前を見るために、お前といたくて俺はいる。」
「だったら、これからもずっと私のそばにいてよ。狼さん。」
「あんたには、かなわないなぁ。...そうだ、名前!あんたの名前を聞かせてくれよ。」
「私の名前?別にいいけどその前に、ご飯にしましょ!」
赤ずきんはたくさんクッキーの入った籠を差し出してきました。狼のために用意したのです。
狼は喜んでかぶりつきましたが、クッキーがあまりに固かったのでゴリッ、という鈍い音がしました。
「え、やだ!私ってば失敗した方を持ってきちゃった!?ごめんなさい!」
「にひひ、気にするこたない。俺様の歯は丈夫なんだぞ。お前のごちそうを食べるためにな!」
そう言って、狼は石のように固いクッキーを美味しそうに食べてみせました。
なにせ彼女が自分のために作ってくれたクッキーです。十分おなかも胸もいっぱいになりました。
「じゃあ、あんたの名前を教えてくれよ。」
「それなら、狼さんのことも名前で呼びたいわ。」
そうして、赤ずきんの娘と赤ずきんの狼は二人で仲良く会話をしながら寄り添いました。