赤ずきんの狼 3ページ
幸せな時間はあっという間にたってしまうもので、いつの間にかお昼を過ぎていました。
寄り道をして帰りが遅くなったと知られたら赤ずきんは母親に怒られてしまいます。
狼は赤ずきんを背負って、急いでおばあさんの家に連れて行ってあげました。
ところが、家で寝ているはずのおばあさんがいませんでした。
赤ずきんは不思議に思いながらも、家にも外にも誰もいないことを確認すると狼を呼びました。
「ちょっとお水を飲んでいかない?私を背負って走ったから疲れたでしょう。」
狼は悩みましたが、どうせ誰にも見られていないのだからと家に入っていきました。
「あ、これ新しいずきんだわ!まだ途中みたいだけど、病気なのに作ってくれたのね。」
「人の家ってこうなってるんだな。ここにあるのはおばあちゃんの帽子か?」
狼が珍しそうにおばあちゃんの家を眺めながら、帽子を手に取るとちょっとした遊びを思いつきました。
「やぁやぁ赤ずきん。お見舞いに来てくれてありがとう。」
狼のおばあさんのふりが、あまりにも似てなかったので赤ずきんは思わず笑ってしまいました。
ですが面白いので、赤ずきんも狼のお芝居にのっかることにしました。
「やだ、おばあさんったら。ちょっと見ないうちにずいぶん変わったんじゃない?」
「そうかねぇ。」
「お耳が前より大きくなったように見えるわ。」
「お前のかわいい声を聞きのがさないためさ。」
「目は鋭くなった気がするし。」
「愛らしいお前をよく見るためさ。」
「手もずいぶんと大きくなったみたい。」
「大好きなお前を抱きしめるためには、これぐらい大きくないとねぇ。」
そのやり取りがなんだか楽しくて、二人はすっかり夢中になっていました。
「じゃあ、お口が大きいのはなぜなの?」
「それはだなぁ…お前を食べるためさぁ!」
がばっと赤ずきんに狼がつかみかかりました。
きゃーっと赤ずきんも悲鳴を上げました。
もちろんどちらも本気ではありませんし、互いにそれを理解していました。
ただの冗談で、悪ふざけのじゃれあいでした、
ですが、ちょうどその時におばあさんが帰ってきてしまいました。
・・・猟師と一緒に。
おばあさんは手作りのずきんの材料が足りなくなったので無理をして買い物に出かけていたのでした。
見かねた猟師に家まで送りとどけてもらったところだったのです。
思いがけない事態に両者はしばらく黙って見つめ合い、気まずいようなヤバい雰囲気に包まれていました。
「お、狼さん逃げてぇー!」
「ど、どうしたんだいお嬢ちゃん!どうして止めるんだ?!」
「狼が!狼が家に!孫が狼にー!!」
「し、失礼しやしたあ!」
赤ずきんが真っ先に猟師に飛びついて抑えてくれたので、狼は無事に逃げきることができました。
深い森の中を駆けまわり、後ろを見て誰もついてきていないことを確認すると安心して倒れこみました。
息をきらしながら、上を見上げました。頭に思い浮かんだのは、最期に見た赤ずきんの笑顔でした。
「調子、のっちまったなぁ。」
すっかり、目が覚めたような気分でした。後悔ばかりが次々に出てきます。
なんであんな遊びをやってしまったんだろう。なんで家に入ったりしてしまったんだろう。
どうして、人間の女の子に恋なんかしてしまったんだろう。
「あ。」
狼は自分の手をみて驚きました。いつの間にか赤ずきんの女の子が被っていたずきんを持っていました。
冗談で、つかみかかった時にうっかり取ってしまったのでしょう。
その後すぐに慌てて飛び出したものだから、そのまま持ってきてしまったのです。
そこで、狼は赤ずきんを被っていた女の子の名前も知らなかったことにようやく気が付いたのでした。