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2話 野良魔王 交渉する

 どこに行っても空の色は変わらないのだと知った。

 窓の外から見える、忌々しいほど鮮やかなコバルトブルーは自分が自分である理由を嫌という程教えてくれる。


 「それでなんだけど……聞いてる!?」


 ……あとこの少し情緒不安定な女の声が嫌という程現実へと引き戻してくれる。鎖はもう体に巻きついていない。あの契約術式の直後に、身体の中へと溶け込んでいった。少し注意を払えばわかったことなんだが、あの鎖―――俗に『封魔の鎖』と呼ばれるそれは、本来、身体の外に巻きついて束縛する物ではなく、対象の身体と同化し、術者の意図のままに束縛する呪いのような凶悪な品だ。通常ならば時間をかければ解呪できないことも無いが、今回の物はえらく強力だ。それも、契約の術式も組み込んである所為か、真っ当に解呪しようとしたら、軽く100年単位はかかる。

 つまり、この鎖にからめ捕られた時点で、詰んでいたと言うべきなのだろう。


 久方振りに感じる空の高さと、この束縛された身体のコントラストが心底忌々しい……。


 「ねぇっ!?聞いてるの!?」

 「……聞いてる。その魔導書を読み解く事が目的なんだろ?」

 「そうだけどそれはまだ言ってない!」

 「じゃあ、早く言え」


 ギリギリギリギリと、鎖が締めつけてくるが、あえてポーカーフェイスで耐え抜く。本音を言うと叫びたい程強烈だが、それ以上に意のままに動かされる事が癪で堪らない。

 

 「……やっぱ送り返せばよかった」

 「今からでも遅くはない」

 「術式の構成上、それは無理ね。数ある術式の内、一番拘束力の強い術式を使ったもの。どんな強い魔族だろうと、幻獣だろうと必ず契約成功できるけど、術者にも解除できない―――本当に一生モノの契約」

 「……一ついいか。何でそんな術式を使った?」

 「コレを読み解いたら記述があったの。魔界の門を開く術式と、契約術」


 当たり前の用に差しだされた魔導書を見て、はぁ、と深く息が零れた。コレは一度作者を血祭りに上げないと気が済みそうにない。

 

 「という訳で、名前を教えなさい」

 「……リエル。リエル・ラプス」

 「あら?姓があるのね。私はリゼット・ルロワ。とりあえずよろしく、リエル」

 「……くだらねぇ」


 吐き捨てるようにリエルが言うと、リゼットは何か言いたげにした後、その眼を見て言葉を呑んだ。

 黒髪、紅眼。見た目は背の高い20歳ぐらいの男の様。だが、その何者にも屈しない鋭い佇まいが歩み寄る事を拒絶する。


 「……もし仮に俺を従えようっていうなら、その器ぐらい示せ。できないなら、せめてこの鎖の戒めを解け」

 「解いたら暴れるでしょう?」

 「お前には手が出せない。そういう術式だろ」

 「私が良ければって話じゃないわ。それに、私に直接手を出さずとも私を殺す手段なんて腐るほど―――」

 「解け」

 

 有無を言わさず我を貫く姿勢に、リゼットははぁ、と深いため息を零す。


 「わかった。同意も無く契約したからね。ここは譲歩しましょう。ただし、条件をいくつか付けてもらうわよ?」

 「ふざける―――」

 「まず、私は契約解除の方法を探すわ」


 譲歩する姿勢を見せないリエルの言葉が一瞬だけ止まる。


 「私も人型相手に無理矢理契約したという負い目があるし、何よりこんな状態じゃ使い辛いしね。時間はかかっても解除する方法を探すわ。その代わり、その間、貴方は私に手を貸す―――現状ではここが最大の譲歩じゃないかしら?」

 「……確かにな」

 「同意してくれてありがとう。で、細かい条件だけど、『無暗に暴れない』『出来る限り私に手を貸す』『私の事を守る』辺りでどうかしら?これを呑むならばこちらも無暗に束縛はしないわ。極端な事を言えば、これさえ守ってくれたら私の傍に常に侍っていなくてもいいわ」


 指を三本立てて条件を提示するリゼットを見ながら、リエルは少し考えた。自由がある事はいい。限られた自由であっても、それこそがリエルの求める物なのだ。


 だが、この条件では常に侍る必要はないが、ある程度は侍っていないとならない。それに手を貸す事、と言うが具体的に何をするかという内容が提示されていない。

 彼女の目的は魔導書の解読と言った。つまり、基本は室内になるだろう。その手伝いとなると―――見当が付かない。魔導書の解読は他人がやるべき物ではなく、本人がやって理解しないと役に立たないからだ。しいて挙げるならば、実験用の材料を調達するぐらいだろうか。


 (穿って考えてみたが、あまりやる事も無さそうだな……)


 リゼットも話を聞く限り、何かが目的で召喚、契約したわけではない。あくまでも解読の一環で呼ばれて、契約をさせられた様なものだ。つまり、彼女もリエルを持て余している状態にある。

 深く考え込んだ後、実はそれほど難しい条件ではないと理解したリエルは、首を縦に振った。

 それと同時に身体を戒めていた鎖の呪縛が解け、一気に身体が軽くなる。血を吐いても致し方ない程の圧力に、顔色一つ変える事無かった程の精神力だが、それでも辛い物は辛い。


 「改めて契約成立、ね」

 「ああ、そうだな」


 そっけなく答えた瞬間、リエルは自らの魔眼を発動させ、その左手に剣を生み出して何も無い虚空を切り裂いた。何も無いはずのその虚空を刃が切り裂いた瞬間、パリンッと小さな硬質な音が響く。それから空の色が若干変わった事を確認してから、リエルは一つ頷いた。


 「これで契約成立だ」

 「な、何……?」

 「ただ単に、出られるように、この部屋を取り巻く結界を壊しただけだが?」

 「あ、ありえない……私が何度も試みて壊せなかった物を」


 一転して慄くように呟かれたリゼットの言葉に、リエルは少しだけ首を傾げる。この部屋が結界に囲まれていた事はずっと気が付いていたが、その厳重さからてっきりリゼットが張ったものだと思っていたのだ。

 だが、今の言葉は違う。リゼットでは無い誰かが張った物だ。


 「ど、どうやったの?」

 「俺の眼は魔力の流れを見る。どんな結界でも必ずほころび―――と言うより繋ぎ目か。小さなそれがある。それを見つけて魔力を乗せた刃で斬っただけの話だ」

 「……魔術師の敵みたいな力ね」

 「敵だろ」


 記憶を手繰れば魔術師と呼ばれる連中でロクな奴に会った事が無い。冷たく、だが皮肉を利かせてリエルは言うが、リゼットはそんな事も気にならないようにそわそわしていた。

 皮肉すら届かないその様子にリエルは左手に剣を下げながら、あえて目を逸らして入口らしきドアを見つめる。

 遠くからそこそこの速度でこちらに向かってくる魔力の塊が5つ。この性質はおそらく人。


 「お前も捕えられていたのか?」

 「……………………………………」


 リエルの言葉には答えず、リゼットは魔導書を抱えながら、そっとリエルの背中に隠れるように移動した。

 その様子にリエルは再び息を吐く。


 条件、と言ったが前提条件が違っていたようだ。

 

 「殺してもいい類の相手か?」

 「……ダメ」


 自由は求めるが―――騙されたとしても、とりあえず約束した以上、一度は履行してから考える。

 リエル・ラプスは何故か昔からその程度の律義さは持っているらしかった。


プロットを掘り下げていくうちに、ヒロインは「ぼっち」、というより対人恐怖症のような気がしてきました。

ちなみに、リエルは人ではく使い魔なのでカウント外らしいです。


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