だから、友達でしかない
「あの、お兄……。神村先輩いますか?」
「お、琴乃じゃん」
「剣斗くん! どうしたの?」
「ここ俺のクラスだし……、琴乃こそどうした?」
「ボールペン返しに来たの」
剣斗にボールペンを見せると、後ろから声をかけられた。びっくりして振り返るとお兄ちゃんの姿があった。
「あ、お兄ちゃん。ボールペン返しに来たの」
「わざわざありがとう」
ペンを受け取ると、すぐさま彼女がいる自席に戻った。悔しく、悲しい思いを手で握りしめて、空気と共に飲み込んだ。
「何しけた顔してるんだよ」
「関係ないでしょ」
噛みつくように強い口調で言うと、剣斗のクラスメートがからかい始めた。
「彼女が怒ってるぞ。彼女大事にしろよ」
「私彼女じゃないです」
少し強めの口調で言うと一気にクラスの注目を集めた。高校生になっても幼い人達だな。と心の中で呟き、ふと剣斗くんの顔を見ると耳まで真っ赤にしてうつむいていた。
「ほら、剣斗くんも否定しなよ」
珍しく黙ってる剣斗くんは急に私の手を引っ張り、教室を出て、人気の少ない渡り廊下で立ち止まった。
「剣斗くん、そういう事すると勘違いされちゃうよ」
「ごめん……」
「仕方ないな。許してあげる! ……その代わり放課後にアイス買ってよね」
いつもより元気のない彼に私は軽くデコピンをした。
イテッと額を両手で押さえて、こっちを見た。
「元気のない剣斗くんのために今日一緒に帰ってあげる」
笑って剣斗くんを見てたら、剣斗くんも微笑み返した。するとタイミングよくチャイムが鳴り、私は手を振って教室に戻った。