桜樹が下で
そばにあるもの価値は失ってから気付いたりしますよね。
意味としてはそうなんですが、あまり噛み合っていない気もします。
もしよろしければ読んでいただけると幸いです。
愛しては、いなかった。
「好きだよ」
「うん」
同じことの繰り返し。
私は一度も応えたことはなかった。
「大好き」
「愛してる」
言葉が変われど同じこと。
「うん」
結局私は応えない。
今思えば、視線すらも合わせなかった。
「明日は晴れるかな?」
「晴れるよ」
下らないことには律儀に答えた。
でも、
「ねぇ」
「何?」
「好き」
「…うん」
向けられた想いには、やはり、律儀な程に応えなかった。
向けられた表情を見ることもなく、ただ淡々と、応えなかった。
愛していた、訳ではなかった。
愛情なんてモノ、私は知らない。
―――愛情と恋情の違いは何?
―――恋情と友情の違いは?
―――友達のままじゃいけないの?
―――ねぇ、≪好き≫って……ナニ?
どれだけ問いを繰り返しても、答えなんて出てこなくて。
自分の感情にだって、自信は無くて。
苛立ちと焦りが焦燥を生み、得体の知れない恐怖が募る。
「…すき…」
「すき」
「…好き」
繰り返して、繰り返して、いくら繰り返しても、応えはなくて。
いつもの仕返しをしているの?
ごめん、謝るから。
だから、ねぇ、
「答えてよ」
冷たい雫が頬を伝う。
眠ったままの貴方が冷えていく。
「だめだよ」
「おきてよ」
『冗談だよ』って抱きしめて。
『騙された』って笑ってよ。
『好きだよ』って、『愛してる』って……。
もう一度。
もう一度だけでいいから……。
やっと、やっと分かったのに。
やっと貴方を≪スキ≫だって……。
はらはらと、
舞い散る花は血染めの闇へ、
音もなく、
影もなく、
紅い姿を隠してゆく。
ヒトの狂気に晒されて、狂い咲く花の哀れなことよ。
「ねぇ…好きよ」
終わり無き魂の哀れさよ……。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
また機会があれば、お会いしましょう。