第五章:夢と現の狭間にて
…………深い……深い……微睡の中…………
…………魔法の触媒となる……独特の香の薫りと…………
…………深く……静かで……穏やかな……詠唱が……聞こえる…………
† † †
…………深い……深い……微睡の中…………
…………荘厳でありながら……軽妙な感触を持つ……二つ声が……聞こえた…………
『……これは、これは……何とも不可思議なことになったものよ……』
……一つは……三対の翅を広げた……貴婦人の声……
『……そうですねぇ……名もなき一神官としての生を過ごすのかと思いきや……何とも面白いことになりそうです……』
……もう一つは……華美な装いを纏う……吟遊詩人の声……
『……ほんに面白いことになりそうよの……新たな姿のこと……妾も……口を挟ませて貰おうかの……』
……顔を綻ばせ……言葉を紡ぐ貴婦人の頭には……煌びやかな宝冠を戴いている……
『……ありがとうございます……こちらとしましても……御力をお借りできますれば……ありがたい所ですね……』
……芝居がかった仕草で首を垂れる……吟遊詩人の眼窩には……人ならぬ……竜の眼が……納まっていた……
…………何処かで出会った様で……決して会ったことのない様で…………
…………遥か彼方より聞こえる様で……身の内側より響く様な…………
…………何処か懐かしく……何処か奇妙な……二人の会話を……耳にしていた………
† † †
…………遥か彼方で……朗々と……詠唱の……声が響く…………
…………身体が……揺らぐ…………
…………心が……揺らぐ…………
…………魂魄が……揺らぐ…………
…………私が……揺らぐ…………