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 城から戻り、日常業務へと戻るものの、税率の間違いを指摘した事で、長に連れられて生まれて初めて酒場へと行った。

 妖艶なドレスに身を包んだ女性も同席するような場所で、まともに顔を上げられずにいた。

 それでもいい酒だと長に飲まされ、ルノーさんが苦笑しつつもつまみを取ってくれる。

 意外と酒に強かったようで、長に結構飲まされたけど、顔色も変わらないらしい。・・・流石に最初の一杯は喉を焼く感じに咽てしまったけれど。

 そんなお酒デビューも難なくこなし、そうしていつもの日常へと戻る。



 城から戻って1ヶ月。この頃は業務にも慣れ、いくらか余裕が出て来た。

 空いた時間に、近くの倉庫へ行って、商品を実際に見てみたりした。在庫数がちゃんと合ってるかどうかを見てしまうのは、もはや職業病だろうか。

 出会った現場の人に挨拶をしつつ見て回るけれど、嫌な顔せずに接してくれて、本当にありがたく思う。

 ・・・たまに子供扱いされるけど。ここでは一番年齢が低いし成人してないからしょうがないんだろうけど、馬鹿にする為に子供扱いされている訳じゃないみたいなので、ちょっと拗ねてしまったりはするけど許容している。

 最近では、ここでずっと働いて骨を埋める事になれればいいなぁなんて、漠然と考えるようになった。


 そうそう、ようやく一人暮らしを始めた。

 成人は18歳からなので、今まで施設の先生達の好意で施設から通っていたけれど、仕事も安定したし、働いているという実績が出来て部屋を借りられるようになったからだ。貯金もしてあるしね。

 自分の事を全部自分だけでやるのは大変だけど、施設でもやらされてた事だから何とかなっている。







 なんだかんだと月日が経ち、また今年も城へと報告へ上がる時期になった。

 なんと!今年から一人で行くようにと言われてしまった。挨拶の仕方やら礼儀がわからないと言えば、業者と同じだからと返された。

 うぅ・・・去年はエミリア殿下が居たけど、今年は居ないだろうなぁ。ただでさえお城に行くだけで緊張するのに、王族と面会するなんて施設出には荷が重い。

 あ、でも確か一度だけ、王妃様が施設にいらっしゃった事があったな。6歳位の時だったか。あの時はまだ小さくて、王様王妃様なんて絵本の中の事で、紹介はされたけど普通の大人達と同じような接し方をしていたなぁ。今考えると恐ろしいけれど。

 当時を思い出して、おもわずぶるりと身震いしてしまう。




 城門へと着き、去年と同様にどきどきし、不安も感じながら門をくぐる。なんだか書類を入れたカバンが物凄く重く感じる。

 去年と同じように応接室へと入る。書類を渡し、机へと促された。やはり役人はまだ誰も居ないため、一人ぽつんと机に座っている。

 自分用の書類を用意しながら、役人だけでお願いします!と、脳内土下座を繰り広げながら待つ。

 ドアがノックされ、入ってきたのは役人の二人だけで、助かったと思った。


「私はミハエル=ロゥ=ディシュベル。昨年お世話になりましたね。」

「は、はい。その節は大変お世話になりました」


 慌てて立ち上がってそう言いながら頭を下げれば、苦笑しつつ頭を上げるように言われた。姿勢を正すと、隣に居る初老へ手の平を上に向けて指している。幾分引き攣ったように見える顔に、どうしたのかと思ったけれど・・・


「こちらは、アッシュ=ダンバインの父上、ベルシュ=ダンバイン、です。アッシュが少々出られなくなりまして。引退していた父上のベルシュさ、ん・・・が変わりにと」

「私はホリングス商会財務管理をしております、マックスと申します。どうぞよろしくお願いします」


 自己紹介を終え席に着き、報告等を始めたものの、視線を感じて顔を上げると、いつもダンバインさんににこにことした顔で見つめられていて、すこしやり辛い。

 それと、このダンバインさんの顔に見覚えがある。でも、どこでだろう?引退していたと言う事は、財務省にいたのだろうけど、接点なんてない。

 かといって街中で見たと言っても、覚えるほど見ている訳ないだろうし。



 そんな違和感を抱えながらも報告を終え、税率をまた二人で相談している。やっぱりここで決めるのはいつもの事なんだなと認識する。


 そうして、ふと顔を上げたディシュベルさんが、困ったような顔をする。


「今年の税率を、すこし上げても構いませんか?」

「えー、はい、どれ位になりますでしょうか」

「できれば、食料20%。服飾や鉄鉱石は25%。後は去年と同様で船は5%。馬に関しては10%でどうでしょう」


 出された税率に一気に血の気が引く。まだ、食料生産数を上げる為の治水工事事業に掛かる金額を考えると足りなくなる。毎月払いではあるものの、年度末になれば、最悪今年の利益から補填する形になりかねない。

 あまりぎりぎりに切り詰めてしまえば、何かあった時に対処できなくなる。

 これが食料だけだったならば、まだなんとかなったものを。服飾や鉄鉱石は、入りもいいが、出も激しい。使用する機器の破損率が高いためだ。それと、職人の育成にもお金が掛かる。船と馬に関しても同様で、これら足となるものは安全の面から整備を怠る訳にもいかない為、資金を流用したくない。


「私の一存では返答出来かねます」


 今年の利益から補填するにしろ、通常では出来ないと分かっている税率に同意できる訳がない。

 そう、税率を提示されてから10秒のうちに返答していた。その返答が分かっていたのか、何故なのかと問われる。

 その問いに対して、先程考えた事を数字を表した上で説明をして行く。


 説明し終えると、なぜかダンバインさんがいい笑顔をしていた。一体なんだ!?と思っていると、ディシュベルさんが税率を変更した。食料10%、服飾、鉄鉱石は18%でどうかと。

 すばやく計算して、それなら厳しいながらも余裕を持ってやっていけると確信し、同意する。




 どうにか被害を最小にし、商会へと戻る。それでもその結果でよかったか不安に思い、その足で長の下へと行く。

 いつも面白そうな事はないかとふらふらしている長が、今日は珍しく執務室へ居たので驚きつつも報告をすれば、それで済んだならいいと言われた。

 どうやら、中央内部でごたごたがあったらしく、それを解決するためにお金が必要らしく、去年より増税されるだろうとは思っていたらしい。


 知らなかった身としては、知っていたのなら教えてくれればよかったのにと思う。それが顔に出ていたのか、長は豪快に笑うと、


「もっと周りを良く見ろ。・・・ウチで城に納品してる奴等いるだろ。」


 後半はこそこそと声をひそめて言う。城に出入りしていると、小耳に挟んだりするのだろうと分かった。

 けれど、その情報を流すのはあまりよくない事なのだろう。奴等も口は堅いんだぜ?と、長は思い出したように付け加えた。

 やっぱり、長だからなのかと納得せざるを得ない。確かに、単なる噂話だ。でも、真実を含んでいるのだから、そこから大体の事は分かってしまう。


「今年の覚える事は、ソレか?」


 本当に楽しそうに笑いながら、そんな事を言う長に、思わずジト目を向けてしまったとしても、しょうがない事だと思う。

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