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 一体何が起きたのか。いや、なぜこんなありもしない事が起きているのか。

 ただ冷や汗をだらだらと掻きつつ、跪いて頭を垂れるしかない。




 その男の名はマックスと言う。物心ついた時には既に施設へと入れられていた。両親は分からない。大人達が教えてくれなかったからだ。

 けれど、いままで施設で育って来ていたからか、悲しむでもなく、ここが家だと、家族だと受け入れていた。

 そして幸いな事に、この児童施設は国営で、教育をきちんと受けさせていた。

 マックスは、数学が得意だった。特に計算は早く、正確で、就職できるようになる15歳になった日には、国一番の商家へと仕事へ行く事が決まっていた。


 その商家はホリングス商会という名前で、いろんな商品を手がけ、品質も良いという事から国にも商品を卸し、国一番の商家へと伸し上がっていた。

 先代まではそこそこの商家だったみたいだが、後を継いだ旦那が若い頃、各地を放浪しいろんなツテや、物を見る目を養ったからだと、説明してくれた。

 商家へ入ってすぐに説明してくれたのは、上司となる人で、名前はルノー=グリシズさん。

 ・・・商家の長である、カッパー=デン=ホリングスさんはそのルノーさんの横でのほほんと笑っている。ルノーさんはその放浪中に意気投合して一緒に旅をしたんだとか。だからなのか・・・時折軽口を言ったりしているのは。


 仕事はといえば、在庫管理と財務管理だ。仕入れ値と売値のバランスを取らないといけないとかで、難しい所だけれど、計算が得意だった事も災いして、すぐに、とは行かないけれど、なんとかやっていけた。




 そして年に一回の国への収益報告と税金について、城へ出向いた時の事。

 いつもルノーさんが一人で行っていたそうだけれど、財務管理をしているのだからと今後の為に行く事になった。前日から書類を作り、報告の流れも大体教えてもらった。とはいえ、実際に報告するのはルノーさんで、僕はやりとりを見ているだけでいいそうだ。

 初めての王城に、どきどきしながら書類が入ったかばんを持ち、財務省の空き室―――応接室へと入る。あらかじめ作成していた書類を渡し、机へと促された。

 まだ役人が来ていない為、書類を用意しながらも少しほっと息をついた。

 けれど、すぐにドアがノックされて役人が入って来た。2人の男性と、1人の女性だ。向かいの机に座ると、男性の一人が名乗ってくる。


「私はミハエル=ロゥ=ディシュベルです。こちらはアッシュ=ダンバイン。そして・・・こちらはエミリア=ノキシズ=レス=アレスティ。我が国の第一王女にあらせられます」


 この時、初めて王族に出会った。その紹介に呆然としてしまったけれど、ルノーさんが立ち上がる音が聞こえ、それに倣うように慌てて立ち上がり、頭を下げる。


「エミリア殿下、お初にお目にかかれて光栄です。私、ホリングス商会の長を補佐しております、ルノー=グリシズと申します。こちらは今年から財務管理をしておりますマックスです。どうぞお見知りおきを。」


 ルノーさんに紹介されて、通例に乗っ取った挨拶をすれば、特に問題もなかったようで、ほっとした。

 殿下が居るのは勉強の為なんだとか。確か王様には御子がエミリア殿下だけの為、そのうち王位を継ぐんだったっけ。そうなるといろんな勉強しないといけないんだろうなと漠然と考える。




 その後は、ただルノーさんが口頭で報告する数字に間違いがないか、耳に神経を集中させていた。


 ここで税金の納入方法について説明しておこう。

 まず、1年の純利益をプールして置き、税金額が決められると税金を一括で支払う。そうして払った後に残ったお金で設備投資や事業拡大したり、仕入れの頭金にするのだ。

 だから、税金が安ければそれだけ事業拡大も出来る。今年、10年掛けての治水工事を始めたので税金が安ければいいなぁ。食糧生産が増えれば、国としてもいい事だろうと思うし。

 一応、報告内容にそれらも織り込み済みではあるけれど。


 そうして、利益から収める税金の額を、役人と殿下とで決めるらしく、ぶつぶつと10%でやら、あの事業を伸ばすには、などと聞こえて来る。目の前でそんな相談をして決められる税金という仕組みについて、いいのかなぁと少々疑問に思ってしまう。


「では税金だが、食物に関しては税金は利益に対して5%とする。尚、服飾や鉄鉱石は15%。船は5%。馬に関しては10%とし、納める金額は―――」


 告げられた割合と、金額をすばやく計算してしまうのは、商人の性なのか、計算好きの性なのか。


 だが。


「・・・ルノーさん、ちょっと、いいですか?」


 こそこそとルノーさんに、計算が合わないと言う。個別に税率が変わるのであれば、全利益に対しての%ではないだろう。今の言い方だと、それぞれの利益に対しての%のはずだから、そうすると税金はもう少し安くなるはずで。

 それぞれ、出された税率で計算すると、やはり税金額が合わない。その差額を計算して、ふと目に留まったのは・・・


「船、5%ですよね。この金額が倍になると、金額が合います」


 それを伝えると、にっこりと、それはそれはいい笑顔を返された。



 そうして、正しく計算しなおされ、今年の収益報告と税金については無事に終えることが出来た。



 だが、別の場所で、自身の運命を一変させる事態が起きようとしていた。

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