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彼女なりの応援

 教室中に響き渡るセミ達のわめき声に辟易としながら、僕は白紙の進路調査表を見つめる。

 せっかく土曜で午前授業だというのにこんな事で居残りとはついてない。

 クラスメイトもみんな帰ってしまった。

 彼女を除いて……。

 僕は彼女の席へ何とはなしに目を向ける。

 彼女は来週月曜日の朝礼で先日出場した大会の賞を受け取るとかで体育館でのリハーサル中だ。

 斜に構えた印象の強い彼女だが、ちゃんと高校生活しているのだ。

 帰宅部の僕としては少し羨ましくもある。隣の芝は青いという奴か。

 そう言う訳で進路調査表も書けないでいる。どの選択も青く見えるのだから仕方ない。

 せめて一番青い選択が解ればいいのに、夏らしく何処にも雑草が生えているのだ。成績の問題やお金という厄介な雑草だ。

 抜くためには努力するしかない。彼女なら手段を変えるのかも知れないけども……。

 そんな取り留めもない思考につい、ため息を吐く。ほかに考えるべき事がいくつもあるのに僕は何を考えているんだか。

 教室の扉が開く音がして視線をやれば、彼女がペットボトルのお茶を片手に入ってくるところだった。

「……飲む?」

 彼女がお茶を掲げて聞いてくる。そんなに欲しそうな顔してますか?

「私と間接キスする権利、百円で手を打とうか」

「それは安い」

 彼女がイタズラっぽく言う冗談に笑顔で返す。

 彼女は満更でもなさそうにクスクス笑いながらお茶のフタを開けて渡してくれた。

 なんだか機嫌が良さそうだ。僕の隣に座る彼女を見てそう感じた。

 これなら遊ばれる事もなさそう。ちょっと安心する。

「進路、まだ決めてないの?」

 彼女が僕の手元をのぞき込んだ。

 彼女にとって僕の庭の芝は青いだろうか?

 僕が肩を竦めると彼女は苦笑した。

「まぁ、悩むわよね。正解があるわけでもないから」

 僕からお茶を取り返して彼女は躊躇なく口を付ける。こういう所で距離を感じさせないから、何度手玉に取られても嫌いになれないんだと思う。

「正解はないけど、不正解もないわ。正解が後で不正解になる事もあれば、その逆もある」

 彼女はお茶のフタを閉めると僕の机に置いた。どうやら貰っていいらしい。

「参考にならないよ」

「当たり前じゃない。芝の青さは参考にならないって事よ。青い芝生が欲しいなら丹念な手入れをするか、もしくは」

「もしくは?」

 鞄を背負う彼女に先を促す。

「庭師を雇うか、ね」

 含み笑いを残して彼女は教室を出ていった。

 庭師を雇う?

 雑草を他人に抜かせるという意味だろうか?

 提案するくらいだから彼女は頼めば抜いてくれるのだろう。

 つまり、僕がどんな選択をしても彼女は応援すると言っているのか。

「回りくどいなぁ」

 彼女らしいけど。

 それに彼女との庭いじりも青く見えてくる。

 一緒の大学に行くとすれば早めに庭師を雇う必要があるだろうなと思いつつ、僕は第一希望を記入した。


今回、毒っ気を抜いてみました。

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