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怨憎会苦

ホームルーム。


先生の話は耳に入っているはずなのに、何も頭に残らない。


周りの席では笑い声が聞こえる。


その中に、苦手な人の声が混じるだけで胸が締めつけられた。


「大丈夫。」


そう自分に言い聞かせても、息は浅くなり、涙だけが勝手に目にたまっていく。


授業中に泣くわけにはいかない。


そう思えば思うほど、涙はこぼれそうになる。


必死に下を向いた。


教科書の文字がにじんで見えなかった。


学校だけじゃない。


仕事場でも同じだ。


どうしても苦手な人はいる。


顔を見るだけで緊張する人。


声を聞くだけで胃が痛くなる人。


何気ない一言が何日も心に残る人。


「社会なんだから我慢しろ。」


そんな言葉は何度も聞いた。


我慢はできる。


でも、苦しくないわけじゃない。


逃げたくても逃げられない。


嫌いな人とも、苦手な人とも、同じ教室で、同じ職場で、同じ時間を過ごさなければならない。


それが現実だった。


今日も私は泣いた。


理由を聞かれても説明できない。


怒られたわけでもない。


大きな出来事があったわけでもない。


ただ、心が限界だった。


涙は止まらなかった。


自分でも情けないと思った。


「なんでこんなことで。」


そう思いながら泣いていた。


帰り道、少しだけ思い出した言葉がある。


怨憎会苦おんぞうえく


仏教の言葉で、「怨み憎む相手、苦手な相手とも会わなければならない苦しみ」という意味だ。


昔の人も、同じように苦しんでいたのだろう。


苦手な人がいて、自分ではどうにもできなくて、それでも生きていかなければならなかった。


この苦しみは、自分だけのものではなかった。


だからといって、苦しみが消えるわけではない。


明日になれば、また学校がある。


また仕事がある。


また会いたくない人に会うかもしれない。


それでも、今日より少しだけ前を向ける気がした。


「苦しい」と感じることに名前がある。


それだけで、心は少し軽くなる。


人は苦しみをなくせない。


でも、苦しみを理解することはできる。


怨憎会苦。


その四文字は、「あなただけじゃない」と静かに語りかけてくれる言葉なのかもしれない。


私は涙をぬぐい、ゆっくり歩き出した。


明日もきっと苦しい。


それでも、その苦しみには名前がある。

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