宇宙軍艦にっぽり
【第一話 ヤマトの行かなかった宙域】
人類最後の希望――
宇宙軍艦ヤマト。
その勇敢なる航海は、
後に銀河史へ刻まれることとなる。
だが。
その航路図には、
決して記録されなかった宙域がある。
危険すぎるため、
ヤマトが避けた宙域。
そして。
なぜかそこへ向かった、
もう一隻の艦が存在した。
宇宙軍艦にっぽり。
「艦長ォ」
ブリッジに、
やる気のない声が響いた。
「ヤマト、
先に行っちゃいましたよ」
艦長・沖野は、
カップ麺をすすりながら頷く。
「そうか」
「どうします?」
モニターには、
ヤマト艦隊の航跡。
そして、
その横に広がる、
真っ赤な危険宙域。
副長が嫌そうな顔をした。
「うわぁ……」
「こっちのルート、
敵密度ヤバくないですか」
「ヤマトが避けた理由わかる」
通信士が青ざめる。
「敵影多数!
ダミラス帝国、
迎撃艦隊です!」
モニターが、
敵艦で埋まる。
戦艦。
巡洋艦。
要塞砲。
数、
推定二千。
普通なら死ぬ。
副長が真顔になった。
「どうする?」
沈黙。
艦長がぼそっと言う。
「帰る?」
「帰れるなら帰りたい」
「わかる」
「でも怒られるよね」
「嫌だなぁ……」
敵艦隊接近。
警報が鳴る。
空気が重くなる。
整備員が泣きそうな声を出した。
「わーだめだ~」
その瞬間。
ふわん
ブリッジの空気が、
白く揺れた。
乗組員全員、
意識を失う。
数秒後。
「……ん」
艦長が目を覚ます。
静かだった。
警報もない。
通信士が恐る恐る前を見る。
「……え」
モニターの向こう。
宇宙を埋め尽くす、
敵艦隊の残骸。
艦首だけになった戦艦が漂い、
巨大要塞が真っ二つになっていた。
副長が固まる。
「……勝った?」
通信士。
「戦闘終了……」
「はや」
艦長は深いため息をついた。
「まぁいいか」
立ち上がる。
「次行こうか」
誰も、
何が起きたのかわからなかった。
後にダミラス軍は、
この宙域をこう呼ぶことになる。
《白い悪夢》。
理由。
「急に全員気絶したから」。
【第二話 ワープは酔うから嫌】
にっぽり最大の問題。
それは敵ではない。
ワープだった。
「やだなぁ……」
副長が死んだ目で呟く。
「ワープ酔いするんだよなぁ……」
「わかる」
「前なんか三日吐いた」
「私はまだ浮いてる感じ残ってる」
艦長は頭を抱えた。
「だがやるしかない」
現在位置、
ダミラス前線宙域。
ここを突破しなければ、
ヤマト本隊へ合流できない。
しかし。
通常航行では、
三ヶ月。
ワープなら三時間。
副長が提案した。
「……やる前に宴会します?」
沈黙。
全員頷く。
「それだ」
「飲まなきゃやってられん」
「乾杯しよう」
三十分後。
ブリッジは居酒屋になっていた。
酒瓶。
乾き物。
誰かが持ち込んだ焼き鳥。
整備員は泣きながら飲んでいる。
「ワープやだぁ……」
「帰りたい……」
艦長も飲んでいた。
「誰だよワープ作ったやつ……」
全員泥酔。
その時。
航法士が、
立ち上がろうとしてよろけた。
「あっ」
肘が、
ワープ起動ボタンに当たる。
静寂。
全員固まる。
「……押した?」
「押した」
「えっ」
ふわん
空間が白く歪む。
にっぽり、
超空間へ突入。
数秒後。
ワープ終了。
全員、
座席から転がり落ちる。
「うぇぇ……」
「気持ち悪……」
「死ぬ……」
だが。
通信士が青ざめた。
「た、大変です!」
「今度はなんだ……」
モニター。
前方一面、
超巨大小惑星帯。
回避不能。
「ぶつかる!!」
ドゴォン!!
激突。
艦が揺れる。
さらに別の岩。
ゴガァン!!
また衝突。
にっぽり、
小惑星帯へ突入。
「うわあああ!!」
「死ぬ死ぬ死ぬ!!」
「誰だ押したの!!」
「お前だ!!」
岩が降る。
艦が跳ねる。
爆発。
警報。
地獄。
そして。
極限ストレス。
ふわん
次の瞬間。
小惑星帯が消えていた。
正確には。
綺麗に、
航路だけ蒸発していた。
ぽっかり。
一直線に。
全員沈黙。
通信士が震える。
「……航路、
確保されてます」
副長。
「便利なんだよなぁ……」
艦長。
「認めたくねぇ……」
後にこの航路は、
宇宙地図へこう記録される。
《にっぽり回廊》。
成因。
不明。
【第三話 反射レーザーはもう嫌】
ダミラス前線宙域。
宇宙軍艦ヤマトは、
絶体絶命の状況にあった。
「反射レーザー来ます!!」
閃光。
光線が、
衛星軌道上の反射鏡群を跳ね回る。
右。
左。
後方。
死角。
どこから撃たれるかわからない。
艦橋が揺れる。
「第三砲塔損傷!」
「反射角が読めません!」
沖野艦長は唇を噛んだ。
「このままでは……」
その時だった。
オペレーターが叫ぶ。
「後方より艦影!」
全員が振り向く。
映ったのは。
なんか汚い艦。
側面に、
ゆるく「にっぽり」と書いてある。
「……なんで来た」
五代が青ざめる。
一方その頃。
にっぽり艦橋。
「うわぁ」
副長が嫌そうな顔をした。
「ヤマト、
めちゃくちゃ大変じゃん……」
モニターでは、
反射レーザーが飛び交っている。
艦長は真顔だった。
「どうする」
沈黙。
「……逃げよっか」
「逃げよって!!」
通信士が叫ぶ。
「さすがにダメでしょ!」
「でも俺たち、
もっと大変な目に遭ってるし」
「……それはそう」
その瞬間。
ズドォォン!!
流れ弾。
反射レーザー直撃。
艦橋が揺れる。
「ああ!!」
副長絶叫。
「だから言わんこっちゃない!」
警報。
火花。
阿鼻叫喚。
さらに。
ダミラス艦隊司令部。
オペレーターが悲鳴を上げる。
「にっぽり出現!!」
司令官、
凍りつく。
「なんだと」
「ど、どうします!?」
司令官は即答した。
「全艦!!
にっぽりを最優先で叩け!!」
「ヤマトは!?」
「後回しだ!!」
理由。
ヤマトは戦えばなんとかなる。
にっぽりは、
何が起こるかわからない。
次の瞬間。
大艦隊が、
一斉ににっぽりへ殺到した。
副長が泣きそうになる。
「なんでぇ!?」
「なんでこっち来るの!?」
通信士。
「ヤマトより
危険視されてるらしいです!」
「やめてくれよぉ!!」
艦長が立ち上がる。
「全速力で逃げろ!!」
「了解!!」
航法士、
慌ててコンソール操作。
だが。
「あ」
静寂。
全員見る。
航法士、
青い顔。
「波動砲のスイッチ……
押しちゃいました」
「なんでだよ!!」
ドゴォォォォォン!!!
極太の光が、
宇宙を貫く。
反射衛星群へ着弾。
次の瞬間。
反射。
反射。
超反射。
光が、
銀河中を跳ね回る。
ダミラス艦隊、
大混乱。
「うわあああ!!」
「どこから来る!?」
「味方艦が!!」
さらに。
反射された波動砲が、
なぜか敵本部要塞へ直撃。
大爆発。
通信士が震える。
「な……
なんか通り道になったみたいで……」
「んなわかるか!!」
副長絶叫。
「囲まれるだけだろ普通!!」
敵艦隊接近。
警報。
怒号。
極限状態。
艦長が頭を抱える。
「ああもう……」
ふわん
艦長、
意識を失う。
目を開ける。
歓声。
「……え?」
巨大な壇上。
目の前には、
ダミラス総統。
周囲には、
数百万の群衆。
旗。
花火。
音楽。
艦長は呆然とした。
「……なにこれ」
ダミラス総統が、
涙ぐみながら手を握る。
「ありがとう……」
「は?」
「もう戦いはやめにするよ」
総統は優しく微笑んだ。
「ナツキ艦長」
大歓声。
『ナツキ!!』
『ナツキ!!』
『平和!!』
艦長、
完全停止。
「……誰?」
副長が後ろで震えていた。
「艦長……
またやったんですね……」
「何を!?」
誰も説明してくれなかった。
ただ後に、
この事件は銀河史へこう記録される。
《惑星スバル和平宣言》。
なお。
当事者たちは全員、
二度と思い出したくないらしい。




