【了】
「ちぇーいす。あーオーレリア様、ちょいと報告すわ」
ジュミルミナが座す、壮美なお屋敷にて。
美しい貴族屋敷に相応しいとは思えない態度で現れた執事へ、読んでいた本から顔を上げたオーレリアは、彼の態度を気に留めることもない相槌を返した。
「あら、なんでしょうか?」
「あーアレすわ、この前の……ノクスウェル家の一件で。婚約破棄の一件っすわ。リオン様のその後すね、それについてご報告が」
「先日のことですね。ありがとう、お話を聞かせてください」
「うぃぃす。
――ご報告に上げました通り、リオン・ノクスウェル様が先日、ノクスウェル家当主の座を電撃で降りられたってことで。
なんか、旅に出た? ジョイフルジャーニーじゃなくてセルフディスカバリーのニュアンスで決断キメこんだようですけど、それについて、事前にリオン様からご相談ありました、ノクスウェル家の後継を色々よしなに――よしなにって表現合ってます?? に、計らってほしいって案件が、一応の落ち着きを見ましたってのがまず一件っす。まぁ元々、リオン様がだいたいご自身でカタをつけていかれましたので、私たちの助けは後処理って感じの働きでしたね。それと――もう一件、リオン様の動向の件すね」
そこまで報告をすると、執事はどうしてか、「クックック」と声を潜ませて笑った。口元にあけたピアスが光を反射して輝く。
「どうしました?」
「オーレリア様、これはマジ、予想できなかったと思いますわ。ぜったい予想不可能ってやつです。リオン様、いったいどうしたと思います?」
「なんだか、聞くのが怖くなるような前フリです……。聞かせてください、彼は……どうなされたのでしょう?」
「彼、女性になってましたわ」
「…………はい?」
「アルファミーナ国の整形術と性転換技術っすね。足取り辿ったら、女性になられておられましたわ」
「…………どうしてでしょうか。彼には、どのような考えがあって……そのような決断を選択なされたのか」
「私にはなんとなく、分かりますわぁ」
静かに考え込むオーレリアの、対面の席へ、執事は勝手にドカリと腰をおろしながら、言った。
「オーレリア様は、ペットって飼われたことあります? ペット」
「ペットですか? ええ、猫でしたら」
「人間ってね、男は特にそうでしょうね、自分よりペットにお金使うもんなんすよ」
「――言わんとしているところは分かります。ペットを飼うことは想像以上にお金がかかるという、その内実まで理解して、一定の納得もあります」
「それって何故だと思います――とかね。人はペットに何を求めているんだろ――とか。私がしたいのは、そういう話じゃないんすよ。――――ペットって、すげぇな、強ぇな、って話です」
「つ、強い――……?」
「そう、強ぇって。だってですよ、アイツら、ほとんどずっと家の中で過ごしてるのに、ほとんどのヤツが、オカシくならないじゃないすか。猫の外飼いとかもありますけど、室内飼いの猫だったら、マジで家から出ねえわけで。そりゃ、ここみたいなドデカい屋敷なら話は変わるかもしれんけど、家の中でずっと過ごして、それでもですよ、多くの場合、ペットは健全に過ごし、あまつさえ人に、心強さを与えてくれるわけです。強くないすか?」
「言われてみれば。それは、強いですね――」
「これ、何がヤベぇパネェかって、分かります? ――ペットは人に、弱さを拠り所にされても、てんでヘッチャラの平左でいられる、ってところです」
「――なるほど。話の筋が理解できてきました」
「ところがですわ。人間が人間にこれをすると、拠り所にされるほうも、そして拠り所にするほうさえも、魂を擦り減らし、あるいは心を狂わせてしまうもので。たまーにいる『世界には真実的に自分一人、人の心とかヘッチャラの平左ー』みたいなヤツ以外は、例外なく狂ってイッちまう。
依存ではないんですよ、拠り所です。
感覚的に、《依存》の上位に《拠り所》があると思ってます。けれどこの二つはまったく意味が異なる。依存は即物的で、拠り所は魂の一部を何処かに預けている。宗教とも違う、魂の支えと引き換えに、魂の色を染める行為とも異なるわけです。魂の一部を置いてっちゃったから、魂がいつもそこに引かれてしまうっつー寸法すわ」
そこまで語ると、執事は視線を上向けて宙を見つめた。
「又聞きの立場っすけどね、リオン様はズルかったっすわ。妻に精一杯の愛を注がず、幼馴染の女へ無償の愛を注いじゃ、そりゃ駄目でしょぉ。私は男っすけど、私でもそんなん、ゼッタイ別れますもん。そんな境遇における一方的な我慢とか、人間性の問題じゃねぇでしょ、無理じゃん。人情倫理の良し悪しはどうあれ、フザケんじゃねぇ、って思います。思うでしょう。
――でも、リオン様のお立場を遠目にして。自分もそう成り得るかもな、とも思う。
それを踏まえて考える。きっと、魂の一部をそこに置いたまま身を引くのは、並大抵ではなかったんでしょうねぇ。フフ、それくらいやらないと、魂の一部を引き千切るという決意に至れず、決断に及べなかった。なんとなくだが、分かりますわぁ」
ひたむきに耳を傾けていたオーレリアは、そこまで聞くと、ぎゅっと顔をしぼって、仰ぐように宙へ表情を向けた。
「――そのもの、決意の姿見ということですか」
「フフ、《反省》の形でも、あったのかもっすねー。行き過ぎだとは思いますけど……しかしですわ。たとえば今回のことが、『実は幼馴染の病弱はウソだった』みたいな話でああったのならば、行く末もいくつかに分岐したかもしれませんけれど、今回のことは、帰結する場所に行きついた、って印象が拭えないんすよねぇ。この現実以外の結末が、想像できない。ってゆぅ、感想でした。――――んでっすよ、オーレリア様」
そして執事は姿勢を前のめりにして改めて。口元のピアスを輝かせて、ニヤリと笑った。
「オーレリア様、これはマジ、予想できなかったと思いますわ。ぜったい予想不可能ってやつです。その後ですよ。リオン様、いったいどうなったと思います?」
「えっ? ……これで話は、終わりではないので?」
「ドッコイ、終わりじゃないっす」
「……いったい、どうなりましたか?」
「リオン様は現在、ノクスウェル家から遠く離れた土地で……とある病弱な令嬢に寄り添って、献身しておられるということです。人は強くないことこそが呪いなんでしょうか? オーレリア様、今回のことは――誰かが呪ったんですかね? それとも、勝手に呪われたんすかね……?」
「――……リオン様の元へ訪問する予定を、早急に立ててください。私が出ます、お話をするべきでしょう。ジュミルミナとして、どこまで出来るか――。さあ、急がなければ――またも、人の魂を他者の弱さへ預けてしまう、そのような話になる前に」
オーレリアは表情を切迫のものに変えて、立ち上がった。
ここまで読んでくれてありがとう!!
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実はこの短編、とある長編小説のスピンオフです。
もし今回の短編での、登場人物たちの迷い、弱さ、決意、そういった人間らしさがぶつかり合って生まれる物語を面白いと感じていただけたのなら。
その魅力を、もっと濃く詰め込んだ物語です。この短編が好きならきっと楽しめると思います。お願いしますお願いしますお願いします土下座します足舐めますなんでもします、絶ッッッッッ対に面白いので、
どうかァァァ!!!!!読みに来てくださいッッッ!!!!!!
このお話に登場した聖女オーレリアも活躍します本編小説はコチラ↓
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