【三】
意思の道、情念と為りて、魂へと至る頃合には、人は主義を知り、故に人を尊ぶことを知れば、その者理性を会得し、然らば人の輪は初めて獣から脱し、人の理知を獲得するに至る。
宗教【エレアニカの教え】における、教義を象徴する聖句である。
ソフィアに届けられたエレナの手紙には、何が書いてあっただろうか?
それはもしかすれば、貴方たちが知っていることかもしれない。想像に及んで、あるいは、抽象的にも彼女の情念を理解して、具体的な文章に及ばずも内容を察して。
オーレリアの言う通り、ソフィアは柳の木のように、エレナからの一筆を受け取った。
あるいは揺れるものがありながらも、それが自然体と根が揺らぐことはなく、壮麗の佇まいで受け取ったという。
これもオーレリアの言う通りだったのだろう。ソフィアにとっては、その話はもはや過ぎたことであり、彼女は己の道を前進している最中だ。過去に心を囚われる彼女ではなかった、ふと吹いた一陣の風のように、それを受け止めた。
そうした逸話が少しだけ話に上がることもあって、その当時、僅かながら良い注目を浴びる機会に繋がったようだが、それは微々たる意味だろう。
それから数年後。
ソフィアが長きにわたり専心し、先頭に立って推し進めてきた事業に、大きな転機が訪れた。
とある貴族筋である、ザルヴァート家は財政的に大きな力は有さないが、ソフィアが新しい事業経路を開拓するにおいての、その重要な土地を管轄していた。
ソフィアは数年の後も、エレナ・ザルヴァートと文通を続けていた。
「力になれて嬉しいと、言っていいのかしら。貴方は貴方の、凛然とした力で結果を掴み取ったから。――ソフィア、私は。あれから、怪物のような姿から、どのように変成したのでしょうか?」
「エレナ、それは貴方にしか分からない。けれど前と信じた道へ歩んでいくしか、私たちは出来ないことは確かで、そして貴方はその道を進んでいる」
「――この事業、必ず、確かな形にしましょう」
「ええ」
人間関係とは奇妙だ。
けれど結局、その縁は当人の強さによって紡がれる。《受け止める強さ》《赦す強さ》《進む強さ》《笑い合う強さ》《信じる強さ》、あるいは《手放す強さ》《見切る強さ》《忘れる強さ》、――――総じて、《選択》、それは《決意》。
彼女らは新たな道を歩み始めていた。
――――さて。
そうして、病弱な令嬢の幼馴染、あるいは婚約破棄された婚約者。
リオン・ノクスウェルのその後は、どうなったのだろうか――?




