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二話 推しとの秘密


 私はリーリンと向き合って、お茶を飲んでいた。

 ドセンで推しの顔を見ながらお茶なんて、オタクとしてはかなりありえない構図だと思う。

 近すぎて、椅子の背もたれに食い込むような座り方をしてしまう私は、オタクそのものだ。


「急にすまなかったな。オタク」

「いえ。推しに振り回されるのはオタクの生きがいですので」


 本当、夢のようだと思う。幸せでしかない、不満なんかあるはずない。

 キラキラ光る金髪を眺めて、あえて尊すぎる顔面を見ないようにする。

 同じ空気にずっといるのも結構きつい。でも、推しが私を指名している。逃げるわけにはいかない。


 なんだかんだで、私はリーリンの住んでいるお城に通された。

 白くて薔薇があって、絵に描いたようなお城だった。


「あの、でも、他のファンの子達もリーリンに会いたいんじゃ」


 私がそう言った瞬間、リーリンが消えた。

 え? どういう仕組み?


「え!? リーリン!? 戻ってきて」


 すると瞬時にリーリンが目の前に戻ってきた。


「……本当に、お前の意思でしか俺は転移できないんだな」

「なんか本気ですみません」

「いい。誰かに求められてこそアイドルだろう」

「アイドルには、好きでなったんですか?」

「好きというか、誰かに夢を与えて、生きる糧になってみたかった。ずっと飾れるように遠巻きに見られているお飾り王子でいたくなくて、国のためになるなら、異世界で流行ってるアイドルになりたいと」


 なるほど。真面目なリーリンらしい考え方。素敵。


「初めは他の貴族が日本できゅんを集めていたんだが、そういうのこそ、一番上に立つものがやるべきだと、俺は思った」

「リーリンらしいです」

「怖くないわけじゃなった。だから、五人組になれるように、一緒に他のメンバーと異世界に行った」

 

 そういえば。他のメンバーはどうしてるんだろう?

 この異世界にいるのかな。

 一体何者なんだろう? やっぱり、王子様とか?


「これからは。ファンのために日本に戻ることもあると思う。その時は、お前もどうにか連れてく」

「そして帰る時は私の祈りの力で帰るんですね」

「まあ、そうなるな」


 少し申し訳なさそうなリーリン。

 大丈夫、全然迷惑なんかかかってなから!


「推しの支えになれて嬉しいです!」

「お前の部屋を、城に用意した。普段はそこで休めばいい」

「あの、お願いがあるんですけれど」


 さすがにダメかな?


「リーリンのアルバム、見せてください! それが私へのお礼だと思ってください」

「そんなんでいいのか?」


 いや、めちゃくちゃ最高です。私しか知らない本当の推しとか、夢しかないだろ。

 子どもの頃の可愛いリーリン、アイドルを目指す前の、表情管理できてない、自然な表情のゆるかわリーリン。見たい! 超見たい!

 初老の執事がこそこそとリーリンに耳打ちする。そして、リーリンが頷く。多分大丈夫って意味だろう。


「わかった、オタクの部屋に持ってく」

「ありがとう、リーリン!」


 推しの公式オフショット閲覧権利ゲットだぜ。

 ああ。もしかしてこれって夢? それか死後の世界?

 私に都合が良すぎない?

 でもこのまま死ぬのは嫌だー。夢なら夢で満喫したいし、リーリンが困ってるなら助けなきゃ。オタクだもの。やれることはやる。


「本当に、助かる。お前はオタクの鏡だ」

「そんな、リーリンに推しがいがあるだけだから、気にしないで。私が何度救ってもらったか」

「ありがとう、オタク」


 剥がしのない延々のフリートークに、もう泣きそう。

 CDを積んで、応募券を集めてもないのにこの待遇。さすがに贔屓されすぎて胃がいたい。

 特大ファンサってレベルじゃない。

 めちゃくちゃ推しの私生活に踏み込んでいるし、ヤバい。追っかけ系過激オタクにバレたら余裕で殺されそう。


 誰が見てもお城の中だっていうお城は、イベントで使ったホテルより何百倍も豪華で。

 出てくる紅茶も、絶対ロイヤルな感じで、お茶菓子は焼きたての美味しそうな匂いの華奢なサイズのマカロン。


「本当に、私でいいんですか?」

「お前がいいんだ」


 リーリンの甘い囁きに、私はとろけてしまいそう。はあ。尊いを何度思えばいいんだろう? なんでこんなに溢れる感情だらけなのに、何か言おうとすると語彙力が消えるんだろう。



「俺だけを見てろ、オタク」


 私の首元に手をかけるリーリン。

 さりげなく私の顔を自分の顔に引き寄せてく。


「はひ」


 やめて。そんな目で見つめないで。

 リーリン、最高。



そんな時、誰かが部屋に入ってくる気配がした。


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