第9話 静かな怒り
「今日もりんご買っていこう!ロイお兄ちゃんいつもおいしそうに食べてくれるし!」
銅貨を握り家から出るチェルシー
しばらく街を歩き出店へと向かう
「おじさん!今日もりんごください!」
チェルシーは少し背の高い屋台に手を置き店員に声をかける
「あいよ!いつもありがとね、今日は一つおまけしといてやるよ」
おじさんは片目を閉じにっこり笑う
「ありがとう!おじさん!またくるね!」
チェルシーはリンゴの入った紙袋を手に取り王城へ向かった。
王城まであと少しのところだった。
「そこのお嬢さん。道に迷ったんだけど案内お願いできるかな。」
チェルシーに声をかけてきた小汚い男。
「あ、えっといいよ」
純粋で優しいチェルシーはなにも疑うことなく話を聞く。
「こっちに荷物があるから、そこから案内お願いしてもいいかな。」
小汚い男は裏路地へと足を進めた。チェルシーもまたその男についていき裏路地に入る。
頭に強い衝撃を感じた。
そこからはあまり覚えていない。
数時間経った頃
「ん。あ、あれ。ここは」
チェルシーは辺りを見渡す見覚えのない場所少し薄暗く臭いもきつい。
周りには牢屋のようなものがあり、そこには同い年くらいの女の子が数人居た。
「な、なにこれ。」
チェルシーは途端恐怖を感じた。どうなってしまうのか、何が起きているのか理解が追い付かない様子だった。
見覚えのある男がいた。道を聞いてきた男だった。
「いやぁこれは上玉だな高く売れる。」
ニヤニヤしていた。それが気持ち悪かった。
舐めるように私を見てくる。他の子も怯えていた震えていた泣いていた。
すすり泣く声が響き渡る空間居心地が悪い。家に帰りたい。
監禁2日目
今日のご飯はカチカチのパン。コップ一杯の水。
相変わらず泣く声とこのきつい臭い男たちの笑い声。
ぱぱ、まま助けて。
綺麗な服も少し汚れてきた。お風呂入りたい。ロイお兄ちゃんに会いたい。
なんで私がこんな目に合うの。
帰りたい。
監禁3日目
今日はご飯なかった。みずだけ。
おなかすいた。そういえば一人どこかに連れていかれた。
帰ってこない家に帰れたのかな。ちょっと心配。
なんだか疲れた、いつ帰れるの。
監禁4日目
なんか匂う。なんだろう
あたりを見渡すと一人女の子が舌を嚙み切って死んでいた。
男たちはイライラしていた。
今日もご飯はなかった。
水すらもなかった。
かえりたい
監禁5日目
目を覚ますと女の子が殴られていた。
私は気づいたらやめてと叫んでいた。
男は私を睨みつけた。
謝った。
牢屋のカギを開け私を外に出した。
帰れるのかと思った。
一つの部屋に連れていかれて殴られた。
お前が代わりにと何度も何度も口も切れ、目も腫れ。
謝った、何度もごめんなさい帰してくださいと。
それが余計に男を怒らせた。
何度も何度も。殴られた。
男が一度外に出た。酒を買いに行くと。
気づいたら私は気絶していた。
音がして目を覚ました。
扉が開いた、男がいた。またガキを手に入れたと言っていた男だが良い家柄だから高く売れるだろうと言っていた城から出てくるのを見たと。
なんとなく思った、まさかロイお兄ちゃん。
でもすぐに頭は否定した。ロイお兄ちゃんは城から出ない。
よっぽどのことがないと出てこない。
そんなことより帰りたい。会いたいロイお兄ちゃん。ぱぱまま
そんなことを呟いてしまった。
男が睨んできた後悔してもおそかった。
また殴られた。大きな声で何度も何度も謝った。
顎に拳があたり視界がゆがんだ。
そこからどのくらい時間がたっただろう。
目を覚ました。
定まらない視界に映ったのは。
「ロイお兄ちゃん......」
そこに居たのは私を抱きかかえるロイお兄ちゃんだった。
「くそガキが!ぶっ殺してやる」
片腕を失った男がロイに剣を向ける。
ロイはチェルシ―をそっと地面に座らせクロナミを構えた。
ほんの数秒静寂が辺りを包み。
甲高い音だけが鳴り響く。
轟音だった。チェルシーや周りの牢にいる女の子は耳を塞ぎ目を閉じる。
耳鳴りが数十秒続いた。
また静寂にもどりチェルシーはうっすら目を開ける。
首から上がなく血を垂れ流しながら横たわる男。
その少し先に剣を振り切った様子のロイ。
そんな姿を見たチェルシー。
綺麗だった。
星のように輝きまっすぐに光を描いている剣先
ゆっくり深呼吸をしているロイ
心の中で確信した。
好き。
チェルシー6歳恋をした。
ロイは心に灯る黒い炎がさらに大きくなっていることに気づいた。
男を斬った時なにも感じなかった。
意思をもって人を殺めたのは初めてだった。少しは動揺することを期待していた。
でもいたって冷静だ。そんな自分がすこし怖い。
そのあとはチェルシーを背負い、下水路を出ようとしていた。
その時チェルシーが言った
「ほかの子も助けてあげてと。」
軽く頷き
檻を溶かし他に囚われていた女の子を解放した。
その中に一人猫耳の女の子がいた。怪我が酷かった。
ロイは自分の服を破いて傷口に巻き付ける。
「この服ならまだきれいだから。気を付けて帰るんだよ。」
ロイは猫耳の少女の頭を撫でてその場を立ち去った。
その後チェルシーの家に向かい
レオとマギアに事の経緯を話しチェルシーを送り届け城に戻った。
この件はサルファ王が大事になることなくうまく収めてくれた。
それから数日たちチェルシーがまた顔を出すようになった。いつものように。
また他愛のない会話をする日が何日も続いた。
魔法の研究を続け、剣技を磨き、体を鍛え、チェルシーと話す。
そんな日が2年ほど続いた。
髪を少し伸ばし9歳になったある日ロイの元にイラがやってきた。
数日後サルファ王と魔族の王フェルメール王の会談があると。
護衛にゾロアがともにこの王城に赴くと。決して顔を出してはいけない、お互い顔を合わせない方がいいと言われた。
ゾロアが誰かはわからない。
だがもしあの男ならとそんなことを思いながら「わかった」と返事をした。
第10話 再会




