第18話 ベガ
冷気を纏いチェルシ―の後ろに立つ男は、ロイたちの知るベガではなかった。
「なんで。どういうことだ。」
ロイの声は震えていた。無理もない倒せたと思っていた相手が生きていた、しかも先ほどよりも圧倒的強者のオーラを醸し出して
「グールの再生力と私のマナのコントロール技術、極大魔法の氷雪の風が一部細胞を残し全盛期の体に戻ったのでしょう屍には変わりませんがね。」
ベガは自身の右手を閉じたり開いたり動作を確認しながらロイたちに告げた。
ロイのレオも限界だった。
魔法を放ち、剣を振り、マナを常に使用し精神をすり減らし体力はほぼ底に近い
「10秒差し上げます。逃げますか?続けますか?」
ベガの立ち振る舞いに恐怖を感じざるおえない。
ロイはノーモーションで走る。
雪が舞散りベガの視界を遮る、気付けばチェルシーがいない。
「あの娘は、どこに行った。」
ベガが顔を上げるとロイがチェルシーを抱えていた。
「チェルシー町に戻れ。誰でもいい助けを呼んできてくれ。」
レオは言う。
「い、いや!私も戦う!」
「ダメだ!いけ!」「ダメだ!いけ!」
ロイとレオは同じ言葉で叫ぶ
チェルシーは涙を浮かべ走る「絶対死んじゃダメ、」と言い
二人は笑みを浮かべ頷いた
「逃がすと思っているのかい?」
ベガは全力で走る。
チェルシーを追いかけ走る
かつて氷雪の風は伝説と言われた。
能力の強さのみならず身体能力の高さも評価され生ける伝説と評されていた。
ベガは生まれながらにしてマナの才を受け氷雪の風を受け継ぎ国を守っていた。
そんな日は長くは続かなかった、権力を持つ者は私の力を恐れ抹殺を考えるようになった
そんな人間から逃げる毎日を繰り返していた
だがある日星を司るの天使が舞い降りた。名を【アステロスコニエル】と名乗り
星屑の堕天使と言ったほうが正しいだろう。そのものから溢れ出すマナは邪そのものだった。
アステロスコニエルは言っていた。己以外信じるなと、人は愚かだ当人の利益になれば他人を殺すことすら厭わない。お前は持ち過ぎた力を利用され捨てられると。
アステロスコニエルに気に入られた私は堕天使の血液を分け与えられた、マナは強化され再生能力も得た。絶大だった力がさらに強化された気がしていた。
だがそんな人の域を超えた力に人体が耐えられる訳もなく絶命した。
堕天の力を手に入れた体は命の灯が消えようと人体の細胞を再生し続け肥大化し破壊し肥大化し破壊しそんなことを繰り返し数十年の時を超えた日ベガは目覚めた。
人としてではなくグールとして堕天使の力を持ったグールの再生力は異常なまでに発達し強大な力を手に入れたが肥大化した体はもとには戻らなかった。
コーリー、サルバ、イネスという名の男達は私に行った。世界を滅ぼせと、アステロスコニエルから命を受け私を蘇生しすべてを捧げろと。
私は喜びを感じた、数十年時が経とうとアステロスコニエルは私を必要としてくれたことに。
決心したアステロスコニエルの為この世界を蹂躙し世界のすべてを捧げると。
ベガは走ったここで今ここで皆消し去ると。
ロイが行く手を阻む。
「私の全力に追いつける体力が残っていたのか!」
ベガはロイを見る僅か9歳の隻眼の幼子
右足から流れる血液を見る。
筋肉が断裂し皮膚さえ裂けるほどの全力の踏み込みで追いついてきた。
「その心意気は称賛に値する!」
ベガの顔は満面の笑みを浮かべロイを見る
痛みに悶えつつも、ここを通すまいと立ちふさがるロイ。
ロイを支えるレオ。
素晴らしい。人間はここまで進化したのか。他者を支え他者のために命を賭す。かつての私のようにと身震いする。
気づけばチェルシーの姿は見えなくなり二人は安堵のため息をつき呼吸を整える。
「ロイ君まだいけるか」「えぇ、もちろんです」
お互い顔を見合いベガに斬りかかる。
剣がベガの腹を目掛け振るわれる。
ベガは半身をひねりローキックを繰り出す。
レオの脇腹に直撃し数メートル吹き飛ばされる。
レオの悶える声を無視しロイも間髪入れず斬りかかる。ローキックをした後のままならない体制でベガの脇腹を目掛け剣を突き立てる。
が右足が痛みによりもつれ躓き倒れこむ。
ロイの顔面にベガの蹴りが入る。
「ウガッ!!」苦痛にあえぐ声と垂れる鼻血、切れた口からも血が流れ脳は揺れる。
吹き飛び木に体が打ち付けられ肺がつぶれる感覚。呼吸がままならない。
耳鳴りも鳴りやまず。揺れる視界に映る歩み寄るベガの姿
脳の中で叫び続ける。
早く動け早く動けと、ベガの手が伸びてきた。まずい。
視界の端から突っ込んでくるレオ。ベガに体当たりをあて何とか一命をとりとめたロイ
呼吸が落ちつき視界も定まってきた。
耳鳴りも落ち着き立ち上がる
「いいかげん、もう限界ですよレオさん。」
ロイは震える声でレオに言う
「そうだね。」
レオも手先が震え立っているのも限界だった。
お互いが削り合う、そんな時間も気づけば数時間ほど続いていた。
「チェルシーは無事街に戻れたかな。」
ロイが口を開く。
体も心もボロボロになり剣を握ることも危うい
「そうだといいね、すまないねロイ君」
レオも同様。
身体強化も薄れていき痛みがじわじわと全身をめぐる
「お互い覚悟を決めなきゃいけないかもねロイ君。」
レオは残る力で剣を握り構える。
ロイも同調し構えをとる。
「合わせろ!」
二人は同じタイミングで地面を蹴りベガの元に走る。
血が噴き出し。ロイが横を見る。
ロイの刃がベガの腹を突き刺し。
ベガの腕がレオの腹部を貫いていた。
レオはむせ込み血を吐く。
レオはベガの腕を抑え少ない力を振り絞り自身の剣をベガの顔に突き刺す。
もう片方の腕でロイの頭を目掛け突き刺さったレオの剣を引き抜き振りぬく
ロイは悟った。死んでしまうと。目を閉じた。
「静止する時。」
聞き覚えのある声が響く。
第19話 あの星の下で




