第16話 氷雪の風
地面に積もる雪、凍えるほど冷たい風。
「タリア、ライ君久しぶり。ロイ君は今学生をやっているんだ、そろそろこっちに来るんじゃないかな。呼んでおいたんだ詳しいことは本人から聞くといい。」
レオが墓に手を合わせ語り掛ける。
現在サレンディアは冬期休暇ロイはレオに呼ばれ両親の墓に向かっていた。
「寒いな。いつぶりだろうここに来るのは。」
ロイは身体強化を施し全力疾走していた
吹雪は次第に強まっていいき視界を遮る、ロイはしばらく走りレオの姿を目に捉えた
「やぁ!久しぶりロイ君!」
レオの声が懐かしい、かあさんを思い出す優しい声をしている
「レオさん久しぶりです!チェルシーは元気にしていますか!」
ロイはレオの顔を見て満面の笑みを浮かべた
「なんだ、まだ会ってないのかい。チェルシーもサレンディアに入学してるのは聞いてるだろ?」
レオは少し困惑していた
「それが、一般教養科に行っても姿が見当たらなくて。」
ロイの一言にレオは納得した
「チェルシーは一般教養科ではないよ!剣術科に居るんだ」
合点がいった。あの時剣を振っていた少女、見覚えがあると思ったらチェルシーだったんだ。
髪を少し伸ばし雰囲気が少し変わっていたからわからなかったけど、あの子はあの子がチェルシーだったんだ。
「剣術だったんですね!またどうして。」
ロイは聞く剣とは無縁に思えるチェルシーがなぜ剣術なのか素朴な疑問だからだ
「君の影響だよ。覚えているかな少し前攫われたチェルシ―を助けてくれただろ、その時見たロイ君に憧れを抱いたんだと思う。あと君を支えていける力が欲しいとも言っていた,,,,あ、今のは聞かなかったことにしてくれ」
レオは口を押える
「なるほど。」
ロイは聞かなかったふりをする
「まぁなんであろうとチェルシ―が幸せに自由に成長してくれればいいさ」
レオは酒を片手にロイの顔を見た。
「そうですね、僕のために沢山時間を使ってくれたんです。これからの人生は自分の時間を大事にしてほしいです」
ロイは少し俯いた
レオはロイの背中を軽く叩き言った
「ロイ君の部屋に顔を出していた時間もチェルシ―自身の時間だ、家を出るときいつも言っていたよお兄ちゃんが元気になってくれるなら私幸せだって。あの時の顔に嘘はなかったし嫌々にやってたわけじゃない。そんな悲観的に考えなくていい。」
レオは酒を飲み立ち上がった。
「さて、手を合わせたら帰ろう。タリア達に近況報告したかったが吹雪が強くなってきた。」
レオは辺りを見渡しながら口を開く
「そうですね。」
ロイは頷き手を合わせる。
しばらく黙禱を行いその場を立ち去ることにした
二人はカレナークに向かい歩きながら会話を交わしていた
「それにしても、今年は雪が酷いですね。」
ロイは顔についた雪を掃いレオの方を見る
人影が写った。
大きな人影が首根っこを握り持ち上げられる人影
吹雪で鮮明には見えない
二人は察した只事じゃない。
走った。ただ全力で。
「何をしてる!」
レオとロイの目に映った光景は顔の爛れた男に首を締めあげられている少女。
「な、なんでここに。」
ロイが目を見開く。
そこに居たのはチェルシーだった。
「その手を放せぇ!」
レオは走った。大男の元へ全身全霊の力を籠め腕を斬り落とす。
「大丈夫かチェルシー!どうしてこんなところに。」
チェルシーを抱え冷え切った体を上着で包む。
数時間前
「ママ!パパはどこに行ったの!」
冬期休暇のチェルシー
「今日はロイ君とタリアさんのお墓に行くって言っていたわよ」
マギアは鍋を持ち言う。
「え!ロイも居るの!私も行く!」
チェルシーは上着を羽織り家を飛び出す
「もぉ気を付けていくのよ」
そんな一言も聞こえていない。この一年で鍛え上げた脚力で全力で足を回すチェルシー
「確か前にパパと行ったことがあるんだけど。こっちだったはず!」
チェルシーはひたすら走った。
数十分走り続け、息を切らしたチェルシーは少し休憩するために腰を下ろした
「あ、あれ。こっちじゃなかったっけ。」
チェルシーは少し肩を下ろしため息をつく。
ザッ!と雪を踏む足音が聞こえた。
「ロイ!」
チェルシーは叫び振り向く。
ロイではなかった、見知らぬ男が居た。首輪を顔や体の皮膚が爛れ男を中心に吹雪が渦巻いていた。
「だ、だれ!」
チェルシーは距離を取り警戒する
「べがぁ!お、おれはべがぁ!」
掠れて聞き取りずらい声。背筋が凍る目つき。チェルシーは悟った。こいつはまずい。
「なんの用。」
チェルシーは震える声で問いを投げる
「なんなん、なんのよよよよう。」
ベガは掠れた声で話し始めたがうまく聞き取れない。
「おおおお、まえ、えは、て、、きききぎころ、ころす」
鮮明に聞こえた。コロスと言う声。チェルシーは深紅に剣を生成し構えた。
「なんで!私何もしてないのに、なんで殺されなきゃいけないの」
チェルシーは話しながら頭を回す。今自分が取るべき最善の行動はなんなのか。
辺りを見渡し、逃げるルートは無いか。脳を働かせた。
「こここ、ろすすすおおまええはしぬ」
ベガの言う事は変わらずチェルシーを見つめ指をさす。
心臓の音が大きい。心拍が上がり恐怖で呼吸が早くなる。
震える手、口から出る白息、竦む足。
大きく息を吸い心拍を落ち着かせるチェルシー自身を鼓舞する。
この一年何をしてきた。何を目標に頑張ってきた。勝つことじゃなく負けない事死なない事を考えろ、この局面逃げ切れば良い。そんなことを考え身体強化を行う。
今できる最大限の身体強化を。
後ろに逃げちゃだめだ。カレナークへこいつを連れてはいけない。出来るだけ遠くへ離れ迂回しなければいけない。そう考えベガの横を全力で駆け抜ける。
勝負は一瞬だ、呼吸を細かく行え、マナを全身に流して、血液を回せ、筋肉と脳に酸素を回し全力を出せるよう深く早く呼吸をしろ。
地面をえぐる。
強く踏み込み、走る!
チェルシーは地面を蹴り上げ音を切り裂く
男の反応は?問題ないまだこっちを向いていない、私のスピードについてこれてない。
これなら逃げられる!
「あれ。」
視界がゆがむ、呼吸がうまくできない。肺が痛い。
声にならない声。肺が凍っている。
なんだこれ。私死ぬの。
その場に倒れこむチェルシー。
「あははは。ややったたたあころろろした!」
ベガはチェルシーの首を持ち体を持ち上げる。
浅くままならない呼吸をするチェルシーに顔を近づけベガは白息を吹きかける
首を絞めつけられ苦しむチェルシー。
心の中で何度も唱える。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。
次第に意識が薄れていき、チェルシーの頭に浮かぶ明確な死。涙を浮かべる。
そこにうっすら聞き覚えのある声が聞こえてくる。
薄目を開ける。パパ。ロイ。
視界の端に映る、レオとロイの姿。
温かい、懐かしい感覚。
次第に意識がはっきりしてきた。せき込むチェルシー。
意識が戻り目を開くと私を抱えるパパとロイが居た
「大丈夫かチェルシー!」
レオの声に顔を上げる。
「ぱぱ。」
安堵の涙を浮かべるチェルシー。
浅い呼吸、濃い白息、甲高い呼吸音を聞きロイは悟った。
「チェルシー、先に謝っとくごめん!」
ロイはチェルシ―の胸部を押える。
「きゃ!」
チェルシーの掠れた声
ロイは手にマナを集め温め始める。
次第にチェルシーの呼吸は落ち着いていき青ざめた唇が元に戻っていく。
「これで、大丈夫。」
ロイは手を放しチェルシーの顔を見る。
少し頬が赤く染まった顔をしたチェルシーが言った
「えっち。」
ロイは慌てた様子で再度謝る。
レオは少しあきれた様子だった。
「あいつは、氷雪の風ベガだ。なぜこんなとこに居るのかわからんが。死んだはずだろ。」
レオはベガの顔を見ていった。
「ロイ君、チェルシ―を連れてカレナークに帰るんだ。私が食い止める」
レオはチェルシーをロイに託し剣を生成する。
ロイはレオの顔を見た。決意した顔だ
「嫌です。僕はとうさんもかあさんも失いました。チェルシ―には同じ思いをしてほしくありません。僕も戦います。僕も、レオさんを家族だと思っています失いたくありません。」
ロイを見るレオ。
お互いに引かない。固い意志を持ちあった二人だったが。レオは折れた。
「わかった。でも、ロイ君は基本は後方で支援してくれ」
レオはロイを見ていった。
「わかりました。」
ロイも頷く
二人はチェルシーの前に立ちお互い剣を構える。
ロイはクロナミ生成し、レオは深紅の剣を構えた。
「ロイ君準備はいいか。行くぞ!」
「はい!」
二人はベガに向かい走り出す。
第17話 ロイの魔法




