表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

プロローグ

僕の名前は九条惟成くじょう これなり。今年で16歳、ごく普通の高校一年生だ。

父の仕事の都合で、僕たち家族は東京から大阪へ引っ越し、かつて通っていた名門校から、一般的な高校である晨鑫しんきん高校に転入することになった。


そう、僕はいわゆる「御曹司」だ。


父の九条惟道くじょう これみちは九条食品株式会社の代表取締役社長。

母の九条紫乃しのは、気品と知性を兼ね備えた専業主婦。

妹の九条詩織しおりは、地元の中学校に通っている。

裕福な家庭で何不自由ない暮らしを送り、名門校では充実した日々を過ごしていた。気の合う友人もいたし、放課後は一緒に遊ぶことも多かった。

しかし、引っ越しと共に、そんな日々はあっけなく終わりを迎えた。


クラスメイトたちは、僕が裕福な家庭の出だと知った途端、態度を変え始めた。

距離を置かれ、孤立し、まるで異物のように扱われた。


そんなある日、静寂を破る声が響いた。


「ねぇ!九条!」


彼女の名前はたちばな 心愛ここあ。僕と同じクラスで、学校中に知られた人気者だ。

成績は常に学年トップ。運動も芸術も万能で、表彰台の常連。

明るく快活な性格、美しい容姿、スタイルも抜群(噂ではEカップ)で、数えきれないほどの男子に告白されている。


──だけど、僕は彼女に全く興味がなかった。

彼女はクラスで唯一僕に話しかけてくる存在だったが、僕にとってはただの「ラジオ」のようなものだった。

朝から晩まで自分のことばかり話していて、正直うるさいだけ。

我慢の限界を超えると、「うるさいよ」と一言告げるだけで、彼女は不満そうに黙るのだった。


ある朝のこと、彼女の声がまた教室に響いた。


バンッ!


「九条!ちゃんと聞いてるの!?」

橘が僕の机を強く叩いた。


「別に聞くなんて言ってないし……朝からなんなの?」


僕が眉をひそめてそう返すと、クラスの男子たちが一斉にこちらを睨みつけてきた。

そのうちの一人が怒りながら僕の襟を掴んできた。


「おい九条、金持ちだからって調子に乗るなよ!」


「は?お前こそ何なんだよ、退学になりたいのか?」


襟を掴んできたのは神代零司かみしろ れいじ。重度の中二病で、「ヒーローになりたい」などと真顔で語るタイプ。

そしてその隣で、いつも喧嘩を止めに入るのが、小鳥遊たかなし ゆうという平和主義者だった。


キーンコーンカーンコーン──授業のチャイムが鳴った。


「チッ、今回はこれで許してやる。」


「九条くん、大丈夫?」

橘が心配そうに聞いてきた。


「平気だよ。」


授業が始まり、先生が数学のテストを返却し始める。


「椎名、白石、橘。……橘さん、今回はちょっと失敗しちゃったね。次は頑張ろうね。」


僕は思わずニヤリと笑った。やっぱり、完璧な彼女でもミスはするんだな。


「九条!九条!九条!」


先生が僕の名前を大声で呼ぶ。


「はーい!」


「お、なかなかいいじゃないか。点数、よく維持してるな。」


「あ、あ、ありがとうございます……」


得点は95点。まあまあの出来だ。


「えっ!九条くんも95点!? 私と一緒だね!前回より1点上がったでしょ?すごいじゃん!」


橘が僕の答案用紙を覗き込みながら言ってくる。


「関係ないでしょ。別に初めての点数でもないし……って、近い近い!」


「はーい、二人とも静かに~授業始めますよ~」

先生が黒板を叩きながら注意した。


僕たちは各自の席へ戻った。

心の中に疑問が浮かぶ──

この子、どうしていつも僕に話しかけてくるんだ?

別に昔からの知り合いでもないし、中学も別だった。

まさか……家柄目当てか?


キーンコーンカーンコーン──下校のチャイムが鳴り、教室は一気に賑やかになる。


「やったー!放課後だ!カラオケ行こうよ!」


「橘~、新しくできたカフェ行かない?」


「ごめん、今日私当番なの。」


「瀬戸も当番じゃなかったっけ?」


「彼、補習があるって先に帰っちゃった。」


時が流れ、教室は静かになった。

30分後、残っていたのは橘一人。彼女は机を並べ終え、息を吐いた。


「ふう……やっと終わった。」


彼女が伸びをして帰ろうとしたその時──


「なあ、橘。」


僕は教室の入口に立ち、声をかけた。


橘は驚いたように振り返った。


「九条くん?こんな時間にまだ帰ってなかったの?」


「聞きたいことがある。……なんで、いつも俺に話しかけてくるんだ?」


彼女は突然笑い出した。


「ははははっ──それを聞くためにわざわざ残ってたの?」


「笑うなよ。そんなにおかしいか?」


なぜだか顔が熱くなる。


「だって、九条くんが自分から話しかけてくるなんて、初めてだもん。なんか慣れないよ。」


「それで?」


「なんでだろ~?なんでだろ~?なんでだろ~?」

彼女はイタズラっ子のような笑みを浮かべた。


「ふざけんなよ、早く言えって!」


「はいはい、じゃあ……ん~~~」


彼女は首を傾げ、少し考えてから答えた。


「君って、特別なんだよね。」


「どういう意味?」


「他のみんなが私に告白しようと必死になってる中、あなただけはずっと席に座って小説読んでるだけで、私のことなんて全然気にしてない。だから思ったの、『え、私って完璧なのに、なんで興味持たれないの?』って。

きっと我慢してるに違いない、そうに決まってる!って。だから決めたの。絶対に君の気を引いてみせるって。」


「……努力してたんだな。じゃ、じゃあな。」


僕はそのまま帰ろうとした。


「ちょっと!九条、待ってよ!私、真剣に気持ち話してるんだよ!?」


橘が僕の腕を掴んだ。


「今までありがとう。でも悪いけど、僕は君に興味ないんだ。……それだけ。」


僕は彼女の手を振り払い、校門前に停まっていた車に乗り込んだ。


橘は目に涙を浮かべながら、ぽつりと呟いた。


「なんで……なんで君は、私に興味を持ってくれないの……?

こんなに頑張ったのに、こんなに好きなのに……九条のバカ!バカ!バカ!」


彼女はひとり、鞄を背負って校門を後にした。


(車内)


「坊ちゃま、今日はお迎えの時間を遅らせたいと仰っていましたが、何かございましたか?」


「別に、大したことじゃない。ちょっとした私事。」


「もしかして……彼女ができましたか?」


「するわけないだろ、まったく。」


「ですが、顔が真っ赤ですよ?」


「ただクラスメイトと少し話していただけだって。」


「お相手は……男性ですか?女性ですか?」


「女子だよ、同じクラスの。」


「お名前は?」


「橘心愛。学校では模範生って呼ばれてる。」


「どんな方なんです?」


「優しくて、気が利いて、成績も良くて、人望もある……って、俺なんでお前にこんなこと話してんだ?関係ないだろ!」


「ははは、いえいえ。坊ちゃまの学園生活が順調か、少し気になりまして。まだ転校して三ヶ月ですし。」


「もういいから。今日のこと、親父には言うなよ?」


「かしこまりました~~~」


彼は僕の専属運転手兼執事──真田悠人さなだ ゆうと

母を除けば、恐らくこの世で僕のことを最も理解している人物だ。

家事全般を得意とし、僕が落ち込んでいる時はさりげなく話をしてくれる、まさに僕にとって最も信頼できる存在の一人である。


(10分後)


「坊ちゃま、屋敷に到着しました。どうぞお降りください。カバンは私がお部屋までお持ちします。

それと、旦那様が書斎でお待ちとのことです。」


「わかった。」


車を降り、屋敷に入り、エレベーターで父の書斎へと向かう。


コンコン


「入れ。」


低く落ち着いた声が部屋の中から聞こえる。

僕は重たい扉を押し開けた。

そこにいたのは、机に座る一人の男──九条惟道。

九条家の当主であり、僕と詩織の父だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ