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嘘から始まる異世界二重生活  作者: 遊坂ねこすけ
最初の嘘と初めての異世界転移。そしてカレーを作る
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第5話:辺境の村と渡界者

 朝日が森を照らし始める中、俺たちは昨夜の野営地を後にした。

 夜明けとともに鳥たちがさえずりを始め、静寂に包まれていた森も少しずつ活気を取り戻しているように思えた。


「ふぁ〜、やっと明るくなってきたな! そろそろ人里の気配がしてもいい頃じゃないか?」


 セシリアが地図を確認しながら微笑む。


「腹減ったなぁ~。村にはどんな食いもんがあるんだろうな? 実に楽しみだ」


 昨晩食べたウサギは消化されて久しいみたいで、すでにかなりの空腹を感じているが、朝食を取ることはなく再び森の中を進んでいく。


 異世界に来て最初の人里に対してワクワクするような期待はもちろんあるのだが、それ以上に現実世界に帰る方法を見つけたいという気持ちが俺にはあった。



 奈落の森を抜けると、視界が開けた先に小さな村が広がっていた。


 村の周囲には、木材と石を組み合わせた簡素な柵が巡らされており、外敵からの最低限の防衛策が取られているようだ。

 素朴な木造の家々が並び、中心には小さな広場があるのが見える。

 柵の入り口には簡素な見張り台があり、農具を手にした村人が警戒しながら立っているのが見えた。

 村へと続く道には馬車の轍が残り、ちらほらとだが人々が行き交っている。


「おぉ、思ったよりちゃんとした村だな。もっとボロボロかと思ってた」


「言い方が失礼だぞ?」


 村に入ろうとすると、村人たちは俺を見るなり、警戒するような視線を向けてくる。


「え、なに? 俺、そんなに怪しい?」


「まぁ、それそうだな。お前の服装は、その……だいぶ変わっているから」


 俺の今の服装は、仕事帰りのスーツの上着を脱いだシャツとスラックス姿だ。

 ネクタイは緩めた状態で首からぶら下がっているし、革靴で森を歩くのにさすがに堪えたが、見るとやはりだいぶ汚れていた。

 異世界の人から見たら、さぞ異様な姿に映ることだろうな。


「……お前さん、まさか、渡界者とかいしゃか?」


 村人の一人が、上から下まで俺を舐めるように観察して、驚愕とともに呟いた。


「ん……? 渡界者? 何だそれ、どういう意味だ?」


 唐突に聞き慣れない単語を耳にして、思わず言葉が詰まる。

 ——渡界……?

 直感的には『世界を渡る者』みたいな意味に思えるが、俺にとって都合の良すぎるそんな言葉が、はたして存在するものだろうか?


 その時、不意にセシリアが「ああ、そうだった」と思い出したような顔をして、ポンと手を打った。


「そういえば、直哉にはまだ説明してなかったな」


「え、説明って? なんの?」


「お前が渡界者だということを、だな!」


「いや、なんでそうなるの? なんで俺はセシリアにもその……渡界者扱いされてるわけ?」


「そりゃ~……ええと……見ればわかるじゃないか」


「どういうこと??」


「だって、どう見てもそうじゃないか。服装も持ち物も、何より、お前の言動はこの世界の人間のものに比べて違和感満載だ」


「だったらそう言えよな! こちとら『ここは異世界なのか? どうなんだ~?』って、ずっと考えてたんだぞ!!」


「いや~すまないな。正直当たり前過ぎて、言うのを忘れてた」


 セシリアが苦笑しながら肩をすくた


「まぁ、渡界者ってのは確かに珍しい存在だが、彼らを題材にした物語はたくさんあるし、巷でも大人気だ。だから特徴や風体を知っているものは多いのだ。お前みたいに妙に整った服を着ていることが多いと伝えられているな——確か『ビジネススーツ』とか『学生服』だったかな?」


「あー、なるほど……うん。理解した」


 俺は、ライトノベルの異世界ものを思い出していた——スーツか、学生服での転移は確かにテンプレだな。

 まさか自分もその枠に入るとは思わなかったが……。


 いつの間にか、俺たちの周囲にはたくさんの村人が集まって来ていた。


(ざわざわ)「まさか、本当に……?」


(ざわざわ)「異世界からの来訪者なのか……?」



 それからセシリアが話をつけてくれたので、村人の警戒心は和らいだようだった。。


「そういえば、セシリアさんはどうしてこの村に?」


「実は、ギルドの依頼でこの村に来たのだ。最近、村の周辺で盗賊の目撃情報が増えているらしくてな」


 セシリアの言葉に、村人たちが一様に顔を曇らせた。


「……実は、数日前にも荷馬車が襲われたんだ。幸い、人がやられることはなかったが、食糧や道具が奪われてね……」


 村の長老らしき老人がそう言った。


「……その手口、どこかで聞いたことがある。なるほど、赤鉤団せっこうだんか?」


 セシリアの瞳が鋭く細められ、その表情には警戒心と緊張感が滲む。唇を引き結び、まるで目の前の状況を分析するかのように静かに息を整えた。


「赤鉤団……?」


 俺が問いかけると、セシリアは神妙な顔つきで頷く。


「ここ最近、近隣の村や交易路で似たような襲撃が相次いでいるとギルドに報告があったのだ。単なる盗賊団の仕業にしては計画的すぎる。食糧や道具だけを狙い、人を殺さずに済ませる……これは、彼らのやり方と一致する」」


 セシリアが鋭い目つきになる。


「赤鉤団は、元々は王国の傭兵団だったのだ。しかし、戦争が終わったことで国に切り捨てられ、今では盗賊団として生き延びている。彼らはただの略奪者ではない……村や交易拠点を支配し、自分たちの拠点として利用しようとする。いわば“組織的な盗賊”だ」


「そ、それは厄介すぎるな……」


「この村は小さいが、周囲の村々と交易を行っている。そして、奈落の森に近いため、狩猟や採集ができる。それが奴らの狙いなのだろうな」

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