3.最初の犠牲者
社長令嬢、浜崎涼香から、行方不明になったフィアンセ日高孝男を探す依頼を受けた上条翼の前で、死神の跳梁が始まる。
それから3日たった。
上条翼は警察の事情聴取の部屋に案内されていた。
やがて、入ってきたのは茶色の革ジャンパーにジーンズ姿の若い女刑事と、その部下と思われるさらに若い男の刑事だった。
女は少しウエーヴをかけたショートカット。銀縁の眼鏡をかけている。がっちりした形のいいあごが内面の自信の表れであるかのように突き出し加減に出ている。茶色がかった髪は染めたのではなくおそらく天然。肌の色も白人のような感じで、瞳も茶色かったが、目のかたちは東洋人特有のそれだった。年齢は30代前半くらい。
「お待たせしました」
革ジャンの女刑事は、座っている翼の右側を通って、窓を背にする側へ回ると、第一捜査課主任の、岸と名乗った。
女二人がテーブルをはさんで席に着いた。若い男の刑事は上司の横に立った。
「あなたが雨宮町のマンションで、死体を発見なさったと。えーと、お名前は」
翼は名刺を出した。刑事はそれを受け取って、じっと見た。
「探偵さん?」
岸はそのまましばらく訝しげな視線を翼の顔にあびせたあと、死体を発見したいきさつを探偵に尋ねた。
翼は話した。
奥井猛と話をしたかったので、電話をしたのだが出ない。それで不思議に思い、アパートにまで直接出向いたのだが、やっぱり返事がない。扉のレバーハンドルを持つと、鍵が掛かっていなかったので、あけてみた。すると妙な臭いがした。変だと思って少しのぞくと、廊下に男が倒れていた。それですぐに警察に通報した。
「探偵の仕事でそこへ?」
「はい」
「依頼人の名前は?」
「それは言えません」
「守秘義務ってやつ?」
「私は刑事さんのように収入が約束されているわけではありませんので」
「なるほど、フィリップ・マーロウの時代から私立探偵というのは、警察官がお嫌いらしいわね」
「でも、そちらからも情報をいただけたらクライアントも、納得されると思うのですけど」
「どんな情報が欲しいのよ」
刑事は探偵をにらんだ。
「奥井さんの死因、死亡時刻のデータなどを」
「私たちのお株を奪う気? まあ、いいわ。そっちの依頼人が、名前を出すことを了承してくれたら、そのときには、教えましょう」
探偵は、それでは依頼人にそのことを伝えますと言って、その場を辞した。
探偵が去ると、若い男刑事が言った。
「なんか謎めいた女ですね。あの探偵」
「ええ……なんか臭うわ。依頼人の素性だけじゃない。ほかにも何か隠してるよ、あの子。マークしとく必要がある」
女刑事はタバコを取り出して、口紅を塗らない口にくわえた。
次回、翼は依頼人、浜崎涼香のところにおもむき、警察にも言わなかったある重大なことを報告する。