8. (株価の異変)
それからというもの俺は毎日魔石取引所に足を運び、電光掲示板で
グリーンドラゴンの株価を注視しつつ、朝昼はモンスター退治の小銭稼ぎ、
夜は近くの炭鉱の採掘作業の工員のアルバイトを行い、昼夜問わず働き、資金繰りに備えた。
それから1週間を過ぎたころ、俺は疲労で筋肉痛となった身体をなんとか支えながら
朝例の電光掲示板に向かうと、異様な光景を目にした。
掲示板に人だかりができ、ざわめきが起こっている。
俺は人だかりを掻き分けながら、掲示板に目を遣った。
グリーンドラゴンの株価に値が付いておらず、買い注文のみが上限まで達している。
いわゆるストップ高というやつだ…
俺はその光景に興奮しつつ、近くの人間に慌てて尋ねる。
「おい、なんかデカいニュースでもあったのか?」
問い掛けられた銀髪のいかつい中年男性は答える。
まだ知らなかったのか?
なんでも隣国のジェイズ公国の騎士団が、明朝にグリーンドラゴンの群れの討伐に成功したそうだ。
街で号外も配ってるぜ。モンスター退治で名を馳せるあの若き英雄グーズが率いる騎士団さ。
騎士団が討伐したモンスターの魔石は王に献上されて、鋳造されて王族の装飾品となり市場に
出回ることは無い。希少性を増したグリーンドラゴンの魔石の値段はどこまで跳ね上がることやら…
チっ、こんなことなら俺もちょっと無理をしてでも一個仕入れとくんだったぜ…」
そのオッサンは悔しそうな口調でそう零した。
確かにそういや今朝街を抜ける途中で、号外を配っててざわめきが起きていたような…
全身が重労働でガタガタで、気がそぞろで注意が向かなかったんだろうか…
俺はそう回想しながら、ようやっと運が向いてきたぞと一人大きな笑みを零した。
「ははっ、想定とは少し違うがこの事態は上々だな…
グリーンドラゴンの株価が上がれば上がるほど、空売りの儲けの利ザヤがますます増える。
明日か明後日にでも早速空売りを決行することとしよう!」
俺は上機嫌でそのまま、モンスター退治へと意気揚々と向かった。