7. (夜の見張り)
夜更け、例の森の入り口に二人はまた集う。
今宵は空が曇っており、一片の月や星の光ですら見られなかった。
「チ、視界が暗いな…」
俺は、そう愚痴りながら森を掻き分けて進んでいく。
「ああ、昨晩はあんなに月明かりが綺麗だったのにな…」
あとから続くミリシャも俺の言葉に同意を示した。
例の卵の場所に辿り着くと、俺は落ち着きなく辺りを歩き回りながら腕を組んで思案する。
そして、ふと思い付いたようにミリシャに告げた。
「ミリシャ! お前は今晩から毎晩一か月ほど卵の見張りに付いてくれ。
いつまたあの黒子の奴らが卵を狙いに来るとも限らない。
日中なら他の冒険者もちらほらいるだろうから、奴らもそう派手なマネは出来ないはずだ…」
「そうしたいのはやまやまだが…日中の騎士団での職務もある。
さすがに夜通し警備では体力が持たん…」
「一か月くらい休めばいいだろう。
適当に親族が病気になって介護で暫く実家に戻らなきゃならなくなったと
でも言っておけばいい!」
「いや、一か月でも休みで俸給が途切れるのは困る。
月々返済しなきゃならない借金もあるしな。家賃も食費も掛かるし、家計は自転車操業なんだよ。」
「その間の俸給分くらい俺が出してやる、夜間警備代代わりだ。
日中は家で休んで寝てりゃあ良い。」
その提案にミリシャは目を丸くし、驚いたように言った。
「それならありがたいが、お前随分お金を持っているんだな。」
「ま、まあな・・・。ああ、そういや忘れて貰っちゃ困るが、今回の利益の取り分は俺が9でお前が1だぜ。」
曖昧に返したが、余裕なんて一ミリも無い。
どさくさに紛れて取り分の取り決めを承認させて、留飲を下げる。
しかし、なんとしてもこの空売りプロジェクトは成功させないといけない。
そのための先行投資だと思えば致し方無かった。
かつかつだが、まだ公国金融のローン枠がまだ残っている筈だと算段をした。
「じゃあ後で差し入れの食料を持ってきてやるから、頼んだぜ!」
「おう、任せてくれ!」
どんと胸を叩くミリシャの姿に頼もしさと、一抹の不安も抱きながらも
俺はその森を後にした。