18.(最終決戦)
ミリシャはそうっと気付かれないよう、いつの間にかドラゴンの後ろへと回り込んでいた。
「でかしたぞ、セイヤ。この貰った千載一遇の機会は決して無駄にはせん…」
弱点への一撃でもって確実に仕留める為に、ミリシャは剣の鞘を両手でしっかりと握ると
構えて目を瞑り、呼吸を深くして気力を集中し始めた。
「クソッ、ミリシャの奴まだか…。もうそろそろ持たねえ、吹き飛ばされちまう。」
ドラゴンの両翼が生み出す風圧がひゅうッとけたたましい風音を上げて、セイヤに逆風として向かい続けている。
セイヤの踏ん張っている両脚は徐々に後ろへと後退していき、上半身はすっかり海老反りになっていた。
ミリシャはようやくカッと両目を大きく見開くと、
「今だ…!」と叫び、素早く駆け出して助走をつけると、ドラゴンの背中の白い鱗目掛けて勢いよく
両手持ちした剣の切先を突きつけた。
剣の刃は深く入り込み、ドラゴンはグゴゴゴゴゴ…ッ…とけたたましい絶叫を上げ出す。
鱗の部分からは大量の緑色の血が噴き出し続ける。
暫くすると、グリーンドラゴンは身体を地面へと這いつくばり伏せたまま消滅し、
代わりに大きな赤色の結晶がポトンと地面に落ちた。
「ハァ、ハァ、やったぞ・・・」
ミリシャは力尽きたようにその場にどかっと身体を崩して、大の字に寝そべった。
「ゼェっ、ハァっ・・・でかした。」
セイヤはその場で尻持ちをついてへなへなと後ろ手で身体を支える。
そして俺は暫く余韻に浸ったあと、すっと立ち上がるとミリシャの方へと向かい
「やるじゃねえか!大金星だ。」
とニカッと笑って、握ったこぶしをまだ立ち上がれずに寝そべっている
ミリシャのこぶしへと当てる。
「ハハッ、お前もな。あれだけの身をかわす曲芸を続けられるとは思わなかった。
全身疲れ切って暫らく起き上がれそうにないが、これほど充実した気持ちは無い。」
ミリシャは小さく微笑を浮かべて、そう返した。
「ハハ・・・。しかし俺にはもうあまり余韻に浸っている時間もない。
急いで今からその魔石を取引所に持っていかなきゃならん。明日の朝7時迄に間に合うかどうかギリギリだな…」
焦った表情でセイヤはそう言った。
辺りはすっかり更けて、暗くなっている。
「そうか、せわしないヤツだな…」
ミリシャはそう口角を少し上げて返した。