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異世界トレード見聞録  作者: kanon
第一章 -見聞録その1-
15/26

15.(ファイアブレス)

…小一時間後…


―カンッッ、ガシャッ、ヒュンッ…―

激しい攻防戦が続くも、決着は未だつかずにいた。



ミリシャは満身創痍で、ゼェハァと浅く呼吸をしながらダメージを負った身体を支えるように片腕で覆っていた。



対するドラゴンも所々に負った切り傷のついた全身の姿勢を低くし、呻くような低い声を上げている。

もう日はとっくに昇っており、日差しの眩しい朝方になっていた。




暫らく両者の静かな対峙の時間が続いた後、ドラゴンはいきなり大きく口を開けた。


そして、けたたましい叫び声を上げたかと思うと口から勢い良く炎をミリシャに向かって吐き出した。



「チッ…」

ミリシャはすかさず前方へ青銅の盾を突きつけて、炎をいなそうとした…



しかしその高温に耐え切れずに、かざした盾は少しと経たないうちにみるみるに金属が溶けだしていった。

「ぐっ……」

盾はすっかり使いものにならなくなり、火炎の放射がミリシャの身体へと当たり、顔を歪めた。

「つッ・・・クソッ…」




これはマズいな…俺はミリシャに向かって叫んだ。



「ミリシャ、こっちへ飛び降りろ!早く!」

言われるがまま、ミリシャはこちらの地面へと勢いよくジャンプして着地し、態勢を崩す。



「こっちだ、早く…!」



俺はミリシャの身体を引っ張ると、石の壁の穴倉の入口へと急いで入り込んでいった。

狭いが身をよじれば何とか人が入れる広さだ。




這うように入り口をミリシャとともに伝っていくと、洞窟のようなぽっかり空いた広がりの場に出た。


「ふうっ…あの入り口の狭さならドラゴンも入ってこれまい。」

追いかけてきたドラゴンは入り口で唸り声を上げて入り込もうとするが、巨体の所為で顔を突っ込むのがやっとだ。


「おい、大丈夫か?」

ミリシャは炎を食らい、髪や衣服の一部がちりぢりの状態になっている。


「ああ、何とか…」

浅く息をしながら、そう返す。


「ほら、回復薬だ。全部使っちまって良い。」

俺はズタ袋から乱暴に回復薬の瓶を全部取り出すと、ミリシャの方へと遣る。

ミリシャはごくごくとそれらの回復薬を一挙に飲み干していく。


「ははっ、良い飲みっぷりだ!どうだ、少しは具合は良くなったか?」


「ああ、大分な…」

ミリシャは口を拭いながら、口角を少し上げてそう呟いた。



「なら良かった。まさか炎まで吐いてきやがるとはな。。

 下級のドラゴンの癖に生意気な奴だ。いやいやすまん。経費をケチらずに耐火性の盾を

 買っときゃ良かったぜ…」

俺は後悔したように頭を軽く振った。



「はは、回復はしたが、連日の夜間警備が祟ったのか体力が落ちていたようだ。

 少し、休んで改めて体力を持ち直させることにする…」



「ああ、そうしろそうしろ。俺も少し眠りにつく。連日バタバタと振り回されて少し疲れちまった。」



そして二人は大きな石を探し当てるとそれを枕とし、身体を横たえるとそのまま目を瞑って眠りについた…




「ううん・・・今何時だ?!大分寝ちまってたようだが。」

俺はハッと目を覚まして、上体を上げると穴倉の入口の方を見遣る。

既にそこにはドラゴンの頭は無く、代わりに薄赤い景色に変わっている…。


「しまった!もう夕刻じゃねえか…。おい、ミリシャ、起きろ。」

俺は身体を大の字にして、まだ眠りこけているミリシャの身体を揺すって慌てて起こそうとする。

グリーンドラゴンを仮に倒せたとしても、その魔石を取引所まで持っていき差し出す期限のことを考えると

うかうかしていられないのだ。



「ううん…もうこれ以上は食べられん。」




「おい、早く起きろ!」

寝ぼけて寝言をつぶやくミリシャの肩を必死で揺らす。


「はっ、セイヤか、おはよう…今日も朝は早いな。」

まだ寝ぼけたふうに呟くミリシャはようやく目を開けて身体を起こすと、手の甲で目をこすった。



「時間があまりねえ…!そろそろドラゴンのところへ再度向かおう。

 で、どうだ?勝てそうか?…」


「正直、厳しいな…盾を燃やされてしまったので、剣一本の丸腰だ。

 だいぶ体力も回復させたとはいえ、まだダメージの蓄積も身体に残っている。

 ヤツの攻撃をいなしながら、どこまで剣を体に入れられるか…」



「珍しく弱気じゃねえか・・・。何かアイツの弱点とかは無いのか?」


「グリーンドラゴンの弱点は、背中の翼の生え際の首元側にある白い鱗の部分だ。

 初手で攻撃をソコに打ち込もうとしたのだが、そうそう上手くはいかないな。

 折りたたまれた翼でしっかりガードされていた…」


「そうか…」


それを聞いて俺は暫くの間、黙りこくって思案した。

そして、あまり気の進まない方法だったが一つの提案をする。



「俺が囮になって、ヤツの気を引く。それで奴が翼を広げるタイミングがあれば

 一撃をその弱点とやらにお前が背後から剣で打ち込む。それで何とかならねえか?」



ミリシャは驚いたような表情で言う。

「それなら上手くいけば、倒せるかもしれんが。

 剣も盾も無い状態で、かなり危険だぞ。お前、武術の心得はそれなりにあるのか?あるいは強力な魔法が使えるとか…」



「自慢じゃないが、武術などからっきしだ。俺は軍師タイプで知力が武器なんでな。武道などなんだのは頭の回らない奴がやることだ!まあ思い出したくもない底辺肉体労働の下積みもあって体力には自信があるがな…。

 

魔法だ?そんな都合の良いモンが使えるようなら苦労してない。」


「そうか。なら猶更、命を落とす可能性も高いぞ。止めておいた方が良い。」



「いや、どのみち今回のミッションを達成できなければ俺は海で死ぬだけだ。

 なら可能性が少なかろうが、俺はリスクをしょって立つ!この程度のリスクが負えねえようじゃ

 投資家として、トレーダーとして俺が大成することは出来ねえよ。」

俺は吐き捨てるようにそう言った。


「そうか、そこまで決意が固いなら仕方あるまい。じゃあ囮を頼む…」



「ああ、じゃあそろそろ行くか…」

ミリシャはコクリと頷く。



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