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第1話

 ——パンツだ。


 早朝の電車内。

 2人だけしかいない3号車で、俺の向かいには白髪赤目が印象的な女の子が座っていた。

 ある種異様とも言えるような美しさと、年相応のあどけなさを併せ持つ彼女は、自らの手でスカートをちらりとめくる。フリルのついた可愛らしい純白パンツがお披露目となった。


「……………………」

 

 俺だって思春期盛りの高校生である。そりゃあ見る。なんでもない風装いながら、こっそり凝視するという矛盾を遂行する。


 なぜって、そこにパンツがあるから。


 そこに! パンツが! あるから!!!!


「ふふっ」


 ふと視線を名残惜しくもパンツから外して上に向ければ、彼女がこちらを見ていた。

 コーフンに頬を染め、クスリと挑発的な笑みを浮かべている。


 まるでこちらの思考が透けて見えているかのようで、羞恥心が疼くと同時に反骨心が湧いた。助平な男を馬鹿にしているに違いない。


 これ以上おちょくられてなるものか。そう決意した俺をあざ笑うかのように、彼女はゆっくりと脚を開いていく。

 もっと見ていいよと言わんばかりに、本来見えてはいけない聖なる領域を艶かしく大胆に見せつけるのだ。

 

 抗うことなどできるはずもなく、恥も外聞も捨てた俺はその光景を目に焼き付ける。


 据え膳食わぬは男の恥。

 俺は今、日本男子として絶対的に正しいことをしているのだ——!!



 数分のトリップの経て、電車が駅に到着する。聞き慣れた車内アナウンスがこの桃源郷の終わりを示していた。


 少女は澄ました顔でスカートをポンポンと叩いて身だしなみを整える。サッとスマホを取り出すと、こちらへ画面を向けた。



『今日も一日頑張りましょうね♡』



 真紅の瞳を細めてニコッと微笑む。

 しかし声を発することはなく、メッセージだけを残して颯爽と電車を降りていった。


 1人残された俺は再びのアナウンスで我に帰り、ドアが閉じる前に慌てて電車を飛び出す。


「あ、あんの蟲惑魔こわくま天使め……っ!!」


 サラサラと揺れる白髪の後ろ姿はすでに小さくなっていた。


 ここで1つ、ご安心いただきたい。

 

 俺は彼女を追いかけているわけじゃない。俺はストーカーじゃない。信じろ。信じて?


 ただ、同じ高校に通っているというだけの話である。

 話したこともないケド。


「はぁ…………」


 俺もさっさと登校しよう。

 早くしないと朝練の時間が減ってしまう。


「そういやあいつ……どうしてこんな朝早いんだ……?」


 未だほとんど人気のないこの時間は、部活民にとっても早すぎる時間と言っていい。

 

 彼女——白姫夕灯しらひめゆうひがそんなに熱心な部活に入っているとは聞かないが。


 まぁ、理由なんてどうでもいい。

 それよりも、その謎の早朝登校のお陰でパンツが拝めることの方が重要である。


 それだけで今日も頑張ろうと思えるのだから。


 

 

◇◆◇




『……お母さん、再婚しようと思うの』


 申し訳なさそうにそう告げる母を見て、俺は骨髄反射で『おめでとう』とそう言った。


 父が死んでからおよそ7年。

 失くしてしまった幸せを母は取り戻そうとしていた。息子として歓迎しないわけがない。


 しかし、その再婚相手の男性に16歳の娘がいるということだけは想定外だった。


「初めまして。私は白姫真矢。こっちは娘の夕灯です」


 今日は、さっそくの顔合わせ会。

 部活を早めに切り上げさせてもらって、シャワーを浴びて、一番いい服に着替えてレストランへ向かった。

 

 正直なところ、俺は人間関係ってやつが苦手だ。

 同性である新たな父だけならまだしも、妹になる人との初顔合わせともなると、身体は強張って、口内ベタベタ腹ピッピーである。


 だから、今朝のパンツでも思い出してまたチカラを貰おうと思っていたのに。


「よろしくお願いします。お義母さん」

「あら、もうそう呼んでくれるの? 嬉しいわ〜」


 正面の視界で揺れる、美しい白髪。吸い込まれそうなほどに深い真紅の瞳が、俺を捉えた。


「お兄ちゃんも、よろしくお願いしますね」


 ああ、この義妹(になる予定)の蟲惑魔天使は、今も純白のパンツを履いているのだろうか——。


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