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99 普通

 停学騒動も落ち着きまた日常が戻ってきた。


結局この学校での撮影シーンはボツとなり他の学校で撮り直しとなったようだ。

勝也もまた登校できることになってしばらく経ったある日


「アンタ達ってさ、休みの日とかはほとんど一緒にいるんでしょ?」

「ん…そーだなぁ、会わないって事はほとんど無いかなぁ」


「いつも何してんの」


たまたま廊下を2人で歩いていたありさからの突然の質問だった。


「…な…何って?」


2人で出掛けると言えばスーパーへ買い物にいくぐらいであまり遊びに出かけるという事は無い。

たまにはそんな事もあるがほとんどが思いつきで行動するため何をしていると言われても思い浮かばなかった。

それに2人で家にいる時はイチャイチャしている記憶しか無いような気もする。


「べ…別に…なんにもしてない…けど」


「なんかさぁ、目的もなく会うのって間が持たないっていうか…」

「あ、康太の事?」

「うん…」


「一緒にいるだけじゃダメなの?」

「だってさ、毎回何時にドコで待ち合わせとかドコに行くとか…何も決めないで会っても『どーする?』ばっかりでなかなか決まらないし」


「あ~、そっかぁ。ウチは勝也が一人暮らしだから用事無かったら部屋でゴロゴロしてるだけだしね」


「いいなぁ~……ねぇ、一人暮らしって月にどれぐらいかかるの?」


「どれぐらいって、まさかアンタそのために一人暮らししようとか…」

「もちろん卒業してからの話だよ」


「…びっくりしたぁ」


確かに自分は恵まれている。


勝也が一人暮らしだったおかげでいちいち会うのに待ち合わせなどした事もなければゆっくり2人で落ち着ける場所に悩んだこともない。

だが普通の高校生カップルが休みの日にデートとなれば待ち合わせ場所を決め、時間や行き先を決め、そのために準備をして毎週の休みを過ごしているのだろう。

さらに自分たちはどちらの両親からも公認で、彼氏の家に泊まるという高校生ではそう簡単に許してはもらえないようなこともほぼ毎週容認され卒業後の同棲までも認めてもらえていた。


「そっかぁ…よく考えたらウチは恵まれすぎだよね」


もちろん自分達が簡単な気持ちで付き合っている訳ではないという事が両親にも伝わったのだという自信はある。

だがもし勝也が実家暮らしだったら…もしまだお互いの両親には内緒で付き合っている関係だったら…どんな付き合い方をしていたのだろう。

それを考えだすと色々な妄想を始めてしまう優奈だった。


「ねー、待ち合わせとかしてみたい」


「…は?ドコで」

「そういうのを2人で相談して決めたいの!」


「何をまた訳わかんねぇ事を…」


「でも普通はみんなそーしてるでしょ?」

「待ち合わせ場所に行くにしたって同じ部屋から出る事になんだろ」


「だからその日はあたしは実家から行くの。勝也はアパートから出てちゃんと別々に」


「なんでそんなメンドくせぇ事すんの?」

「だってそういうのした事ないんだもん」


「はぁ……まぁ別にいいけど」

「ホント?じゃぁ今度の土曜日ね」


「で、ドコに何時に行けばいいの?」


「だからそういうのを2人で決めるんだってば…」


金曜の夜は勝也のバイトが入っていたため本当なら土曜は朝から会いたかったのだが、起きる自信が無いという勝也に結局昼からの待ち合わせにされてしまった。


 そして金曜日の夜、優奈の家では


「今日は勝也君のトコ行かないの?」

「うん、明日お昼から外で会う」


「ケンカでもしたのか?」

「そんなんじゃないよ。たまには待ち合わせして外で会ってみよって事になっただけ」


「ふ~ん、耐えられんのかしらねぇ」


「…何が?」


いつもなら勝也のバイトが入っていても今頃はアパートで夕飯の支度をしたりテレビを見たりして帰りを待っている時間だが今日はこのまま顔を見ることも出来ない。

普段みんながしているであろう行動をしてみたいという思いからアパートにも寄っていなかった。


「…晩御飯ちゃんと食べるかなぁ」


1つ気になり始めるとどんどん考え始めてしまう。


「お風呂も沸かしてないし…あ~洗濯物も取り込んでない!」


気になればなるほどどんどん思い悩み、それは両親への態度にも表れ始める。


「優奈~、ご飯の準備手伝ってー!」

「今それどころじゃないのっ!!」


「おーい、風呂入れよー」

「もぉぉ!後で入るってばっ!!」


両親も『そんな不機嫌にならなくても…』とあきれていた。


ふと気を抜けば今すぐにでも家を出てアパートに向かってしまいそうになる。

自分が言い出した事とはいえ、会えるはずの日に会わないという事が母の予言通り耐えられなくなってきた。


「もう寝ちゃお…」


無理矢理ベッドにもぐりこんでみたものの結局全く寝付けず、そして何度スマホを確認しても勝也からは電話もLINEも来ていない。


「連絡ぐらいくれたっていいじゃん…」


寂しくて泣きそうになる優奈だった。


 翌朝、寝たのか寝られなかったのかわからない状態のまま早い時間に起きだし、シャワーを浴び化粧をして軽めに朝ごはんを食べている時も


「この時間だったらまだ寝てるよね…っていうか朝なんか食べてくるかなぁ」


頭の中はもう勝也がどうしているのかという事だけでいっぱいになっている。


「だから言ったでしょ、慣れない事するから」

「そ…そんな事ないもんっ!!」


全ての準備が整ってしまった。

だが約束の時間はまだまだ先である。


「なんでこんなに時間経つの遅いのぉ…この時計壊れてないよねぇ?」


「もーさっきからおんなじ事ばっかり。待てないならアパート行けばいいじゃないの!」


「…だってぇ…」


待ち合わせがこんなにじれったいものだとは思わなかった。


何度時計を見ても全然針は進んでいない。

いつもならまだ勝也が寝ていても寝顔を見ていたりちょっかいを出してみたり朝ごはんの準備をしたりしている頃だ。

考えれば考えるほどイライラが募る。


「もう出ちゃお…」


「お昼からって言ってなかった?まだ10時にもなってないよ」

「だってジッとしてられないんだもん…」


「困ったヤツだな(笑)」


なぜかものすごく沈んだ表情で家を出るとトボトボと足取りも重いまま歩き始める。


なぜこんな事を言い出したのだろう…みんなこんなに寂しい思いをしているのだろうか。そんなことを考えていると、やはり足はバス停ではなくアパートの方に向かっていた。


ふと視線を上げるとそれが目に入る。

慣れ親しんだ扉、数えきれないほど上がった階段、寝室の窓。

自分のポケットの中にはその部屋に入ることのできるカギがある。

そしてこの部屋の中には勝也がいる。


だが今だけはそこに上がっていってはいけないのだと思うと、自然に涙が溢れてきた。

…逢いたい…このまま部屋に入っていきたい…そう思いながら部屋の扉を見つめていると


 ガチャッ!!


「…あ…」


なんとその扉が開いた。


「…あれ?」


逢いたくてたまらなかった顔が見えると思わず階段を駆け上がり、そのまま勢いよく抱き着く。


「ふえええぇぇぇぇぇ~ん……」


顔を見た途端堪えていたものが溢れだした。


「なんだなんだ、どした?」


「…だってぇ…」

「ちょっと…とりあえず近所迷惑だから入れ」


結局アパートへ入っていくも玄関に立ったまま勝也にしがみついて泣く優奈。


「なんだよこんなに早く」


「…だってぇぇ…」


ひとしきり泣いた後


「もう行くつもりだったのか」


「うん……勝也は?」

「なんかお前がいないと調子狂っちゃってさ。何回時計見ても全然時間経たねぇしする事もねぇし…ジッとしてらんねぇからもう家出ちまおうと思って」


「え…ウソ……ホントに?」


勝也も自分と同じ想いでいてくれた。

そして家を出るタイミングまで同じだった。


さっきまで寂しくて孤独に押し潰されそうになっていたのに顔を見た途端もう寂しさは消え、いつも以上の安心感で満たされていた。


「どーする?このまま行くか」


「…え…」

「どっか行きたいトコあったんだろ?」


「ううん…実はね…」


そういうとなぜわざわざ外で待ち合わせをしたかったのかという理由を説明し始める。


「…それだけ?」


「うん、だって普通はみんなそうでしょ?」


「メンドくせぇ!」

「だってぇぇ…」


「あのさ、普通って何?」


「普通って…みんながしてるような事でしょ」

「みんなと同じ事しなきゃいけない?俺とお前にはこの生活が普通なんじゃないの?」


「……あ…」


「そりゃぁ周りから見れば普通とは違うかも知れないけど俺達はこうやってずっと一緒にやってきたんだろ?」


「…うん……」

「じゃあこれからは他の奴らみたいに別々に住んで休みの日は外で会うようにするか」


「ヤだ!!頭がおかしくなる!」


「ったく…だったら余計な事考えんなバカ。お前は黙ってここにいりゃいーんだよ」


「…え……うんっ!!」


他の人など気にしなくてもいい。ただ自分達だけの付き合い方でいい。

会えるはずの時間をわざわざ一日無駄にした事に対する後悔だけが残った優奈だった。


「せっかく出かける準備したんだからどっか行くか」

「うん!!…あ……でも……」


「なんだよ、まだなんか…」

「だって昨日してないし」


「…え?」


「1回してからにしよ」

「…バ…バカかお前はぁ!!ほらもうこのまま行くぞ!」


「えー!!ちょ…ちょっと待ってよぉぉ!!」


優奈を押し出すように外へ連れ出すと、そのまま久々のデートに出かけたのだった。


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