97 撮影 ①
朝のHRの時間。
全校中から大騒ぎの大絶叫が聞こえた。
「…なっ?!…なんだなんだ?!」
慌てて飛び起き辺りをキョロキョロ見渡す勝也。
クラスの中も大盛り上がりになっている中、優奈が
「この学校で撮影だって!!西野 美緒が来るんだって!!」
「撮影…なんの?」
「ドラマかなんかでしょ♪」
「で、その西野なんとかって…誰?」
「……は?」
周りからも白い目で見られる勝也。
「…知らないの?」
「知らねぇよ」
「こないだドラマ見てる時教えたじゃん!」
「そんなのいちいち覚えてねぇよ」
「はぁ…まぁ覚えてた試しもないけどさ。とにかく可愛い人!」
「ふ~ん…」
全く興味無さそうな勝也。
逆に康太は異常にテンションが上がっている様子で
「絶対俺のこと好きになってくれるはず!!」
と、意味不明な発言を色んな人にしていた。
本来であれば学校が休みの日に場所だけ借りるといった方法なのだろうが今回は西野本人のスケジュールの関係と、エキストラを集めるよりも現役高校生に参加してもらおうという狙いから平日の撮影となった。
「授業無いんだったら休んでもいーの?」
「休んだら欠席扱いなんだって」
「なんだよそれ…強制参加かよ」
撮影日が近づくにつれて盛り上がってくる校内とは逆に、全く興味無くどちらかと言えばメンドくさそうな勝也を見て少し不安を覚える優奈だった。
そして撮影当日。
前日に美容院に行ったらしくいつもよりも整った髪型の康太を筆頭に、ほぼ全員が気合の入った装いになっている。
そんな中いつも通りに登校してきた勝也と優奈。
「うっわぁぁ…みんな気合入ってる」
「別に自分達が映る訳でもねぇだろうに」
「は?映るんだよ」
「…え?」
「だから何回も言ったじゃん、エキストラやるんだって」
「そーだっけ」
教室に入り出欠を取るとあとは西野待ちになった。
早くも眠りについている勝也の事はほったらかしでみんな盛り上がっている。
「なんかスモーク貼った車とか入ってきてたからもう本人は着いてるみたいだぞ」
「着替えとかメイクとかしてんのかなぁ」
「すっげぇ可愛いんだろうなぁ」
「なんとか目立って俺の事覚えてもらうんだ!」
「はいはい、わかったから。まぁ頑張りな(笑)」
「こっちはこっちでなぁんにも気にしてない人もいるってのに…」
芸能人に全く興味を示さない男にみんなの視線が向く。
実際この男も本当ならあの世界的に有名なバンドに入っていたかもしれないベーシストだった事を思い出した。
今日は授業が無い代わりに次の土曜が代替の日となるため、撮影のためだけに登校した事が気に入らない様子の勝也がムクッと起き
「ハラ痛ぇ…」
そういうと立ち上がって教室を出て行った。
「はぁ…だからヤメとけって言ったのに」
「何したの?」
「朝からカレー3杯も食べるからだよ」
「さ…3杯??」
「あの人カレー大好きでさ、作ったらそれが無くなるまで毎食食べ続けるの」
「だからって朝からそんなに…」
「しかも毎回『なんとかして弁当に持っていける方法考えろ』とかムチャ言うし」
「…子供じゃん(笑)」
みんなが大爆笑している中、担任が入ってきて
「よーし、すぐ体育館に移動するぞー」
「よっしゃぁぁぁ!!!」
勢いよく立ち上がる康太だが勝也の姿はまだない。
「あ~、勝也がトイレ行ってんだけど」
「ん?そーなのか。じゃあ黒板に書いとけばわかるだろ」
黒板に『体育館に来い』とだけ置き書きを残して全員が移動した。
全校集会の撮影らしくいつものように整列し始める生徒たち。
その頃勝也はトイレでまたウトウトしていた。
「……ん?」
少ししてハッと目を覚ます。
腹痛は収まっていてようやくトイレから出てくると
「あっ!…あの…」
「……え?」
廊下で制服を着た一人の女子に声をかけられた。
「えっと…おはようございます」
「…あ…あぁ、おはよう」
芸能界と同様、バンドの世界でもたとえ夜であろうが挨拶は『おはよう』で始まるためなんのためらいもなく挨拶を交わす。
「あの…体育館ってどっちですか?」
「は?なんで知らねぇの?」
「あ、えっと…今日初めて来たんで…」
「転校生か、よくこんな日に来たな」
(え…この人あたしに気づいてない…)
「そこの階段降りて中庭に出て校舎沿いにあっちに歩いてけば勝手に着くよ」
不愛想にそれだけ言う勝也はまた教室へと戻っていった。
廊下を歩いていく勝也の背中を見つめる美緒。
いつもチヤホヤされ特別待遇であることが当たり前になっていた、その鼻っ柱をいきなりヘシ折られた気分だった。
教室へ戻ると誰もいない。
黒板には『体育館に来い』とだけ書かれていて
「あちゃぁ……あ、それで今のコも…」
だが誰もいなくて静かなのをいいことになんとそのまま椅子に座ってまた寝始めてしまうのだった。
どれほど時間が経ったのかもわからない頃
「あ~!!やっぱり寝てるじゃん!!」
「……んぁ?」
ドヤドヤとクラスメイト達が帰ってきた。
少し顔を上げてまた突っ伏してしまう勝也に
「黒板見てないのぉ?!」
「見たけど別にいいかなと思って」
「信じらんねぇ(笑)」
「すっごい可愛かったよぉ」
「康太は不服みたいだけどね」
全校生徒は後ろに並んでいるだけで撮影は西野のセリフだけだったようだ。
しかも何度も撮り直す間ずっと立たされたままで康太に至っては顔もほとんど見えない位置だったらしく
「ぜんっぜんつまんねぇ!!」
と不機嫌極まりない様子。
そこへ担任が入ってくる。
「お疲れさんだったな。これで1・2年はもう終わりなんだが、急に向こうが教室で撮影がしたいって言いだしたらしくてもう少しだけ付き合ってほしいそうだ」
「おおおぉぉぉ!!!チャンス到来ぃっ!!!」
またもやテンションが爆上がりする単純な康太。
ワイワイ話しながらしばらく待っていると教室の扉がガラッと開く。
そしてマネージャーらしき男性と、その後ろから待望の西野 美緒が入ってきた。
一気に大騒ぎになる中
「ここにいる?」
「…ん~っと…」
大歓声の中誰かを探している様子の美緒。
そして顔も上げずに寝ている勝也を見て
「あ!!…たぶんあの一番後ろの人…」
「わかった」
そういうとそのマネージャーがツカツカと入ってきて勝也の前に立ち、いきなりバンバン!と強めに肩を叩いた。
「…あっ!!」
周りが止める間もなく、寝ている勝也を迂闊に叩き起こした。
そして当然
「ああぁっっ??!!なんだぁぁぁ!!!」
大きな怒鳴り声と共にガバッと体を起こす最悪の起き方をした。
「ダメだってぇ、優奈以外の人が起こしたら…」
ギロッと恐ろしく不機嫌な目で誰なのかもわからない男性を睨むと
「君、美緒からの御指名だ。すぐに用意して」
「……あ?」
「ちょっと急遽相手役を立てる事になった。美緒は君がいいそうだ」
「知るか。康太ぁ代わりにやっとけ」
「え?…え~っ♪…い、いいのっ?!」
「役どころを無理矢理作って出番を用意してやったんだ、早くしろ」
「…誰に口聞いてんだてめぇ」
不意に叩き起こされ、しかも上から目線で命令のような口調で話してくる男性に対してどんどん不機嫌になっていく勝也に周りも凍り付き始める。
「美緒が『素人』を名指しするなんて初めての事なんだぞ?ありがたく…」
「…素人だ??」
ついに勝也が椅子から立ち上がってしまった。
優奈でさえ久しぶりに見るマジギレの目だ。
「じゃあテメェらは何のプロだって言うんだ」
「私たちは芸能界の人間なんだ。それ以外の一般人は…」
「だったらその世界の人間だけでコソコソ話す時の隠語として使えよ。芸能人ってのは他の人より偉いのか?こっちはお前らなんか『プロ』だとも何とも思ってねぇよ」
「なんだと?」
「大体いきなり初対面の人間にそれだけ上からモノ言ってくるお前の方が人として素人以下のクズじゃねぇか。目障りだから今すぐ消えろ」
「貴様…大人にむかって…」
「口の利き方も知らねぇような大人はガキ以下だっつってんだよ」
するとたまりかねて優奈が立ち上がり間に入る。
「ちょ、ちょっと!…すいません、この人寝起きで機嫌悪くて…」
だが激高しかけているマネージャーが優奈の腕を掴み
「どけっ!」
その力は思いのほか強く
「キャッ!…い、痛っ…」
周りの友人達が立ち上がる。
この後の展開が全員の頭によぎったからだが…
もう遅かった。
「誰に触ってんだコラァァァァァァ!!!!!!」
バキイイィィィッッッ!!!!
マネージャーの体は吹っ飛び、机をなぎ倒して倒れるがまだそれを追いかけて殴りかかろうとする。
優奈に手を上げたマネージャーを殺すほどの勢いでキレてしまった。
『キャアアァァァァッッッッ!!!』
「待てっ!勝也っ!落ち着けっ!!!」
担任も止めに入り、康太、陽平、勇太の3人がかりで羽交い絞めにしてようやく抑えるも、その表情は誰も見たことが無いほどの鬼のような形相で
「…ダメだって、優奈に手ェなんか出したら…もう止めらんないよ…」
蘭の言葉通り勝也の怒りは沸点に達していてマネージャーを睨みつけたまま、まだ康太達の手を振りほどこうと暴れる。
今手を離したら取り返しのつかない事になるのは火を見るより明らかで必死に抑える友人達。
優奈を守るためにキレた勝也がこれほど恐ろしい男に豹変するとは、誰の想像もはるかに超えていたのだった。
そして
「…け…警察を呼べえぇっ!!」




