95 イメチェン
「そういえば勝也ってなんで髪の色変えないの?」
ある日曜日、毛先を揃える程度に優奈に髪を切ってもらっている時だった。
大きなビニールシートを肩からかけて勝也は雑誌を読んでいる。
いつもどれだけ切るとかどんな感じにするかは優奈の独断で決まっていた。
「なんでって元々が黒なのにわざわざ変える必要ある?」
「…ソレはあたしに対するイヤミなんでしょーか」
頻繁に髪色を変える優奈とは逆に出逢った頃からずっと黒のままで、ライブの時もそれをふかすだけ。
ライトを浴びれば茶色にも見えるが色を変えたことは無い。
「よく考えたらブランカでも勝也だけ黒だったもんね」
「Syouクンなんて白に近いしな。絶対将来ハゲるぞあの人ら」
この街に来てからは髪も自分で切っていた。
優奈も最近は自分で切った方が思い通りになると気づきチョコチョコ手入れのように自分の髪を切るようになったのだが、勝也の場合はしばらくほったらかしでうっとうしくなったら切るというモノだった。
それでも違和感なく仕上げてしまうところが今まで気づかなかった原因なのだが
「短くしようとか思ったコトないの?」
「短い方がいい?」
「そうじゃないけど。今のは今ので似合ってるしカッコいいんだけどさ、短くしたらどうなるのかなぁと思って」
「別に好きにしていーよ」
「え?」
「どーせ切るのはお前だしやりたい髪型にしていーよ」
「そんな…責任重大じゃんか」
「ただ後ろでくくれなかったらお前が毎日セットまでしなくちゃいけねーんだからその辺考えろよ?」
「あ……うん…」
勝也の髪はベリーショートの優奈より長い。
彼氏の方が髪が長いという事には問題は無いのだが、短くなったらどんな雰囲気になるのかという素朴な興味が湧き始めたのだった。
夜になって家に帰ると布団に入り色々スマホで検索し始める。
「どんなのが似合うかなぁ…なんか今のが定着し過ぎてて想像が…」
結局かなり夜中までかかって色々見てみたものの結論は出なかった。
翌朝、いつものように朝から2人で登校している最中も優奈の視線は落ち着かない。
「なんだよキョロキョロして」
「ん~、なんか色んな髪型当てはめてみてんの」
道行く男性の髪型を見つけてはそれをジッと見て目に焼き付け、そのまま勝也の方を見て合成してみるというモンタージュのような事を続けていた。
「変質者見るみたいな目で見られてんぞ」
「……は?」
実際のところは優奈に見つめられてドキッとした男性が見つめ返してきているだけだった。
学校へ着き友達とあいさつを交わすと勝也はまた眠る体勢に入る。
そして優奈は
「ねー、勝也に似合う髪型ってどんなのだと思う?」
「は?…今のが一番似合ってるんじゃない」
「他のって想像つかないよねぇ」
「今のは気に入らないの?」
「ううん、今の髪型で充分なんだけど…ふと思っただけ」
すると教室内を見渡し、男子生徒の髪型を一人一人ジッと見始める。
その時ある生徒と目が合った。
優奈の目はその髪型にしか向いていないのだがその男子生徒は自分と目が合っていると思い
(え…俺の事…見てる?)
しばらくその視線を感じているとスッと優奈が立ち上がりこっちへ向かって歩いてきた。
(うわ…こっち来る!まさか俺に気が…いや…)
本当に優奈がやってきて目の前に立った。
完全に何かを勘違いし始めたその男子生徒は椅子に座ったままジッと優奈を見上げる。
初めてこんなに近くで見た優奈の顔は今まで遠くから眺めていた以上に恐ろしく綺麗でドキドキが止まらない。
「…な…なに?」
「ごめん、ちょっと髪見せて」
「え、髪?!…い、いいよ」
本当に髪を触り始めた優奈。
クラス中がキョトンとした顔でその2人に注目する中
「ふんふん…ここがこんなに短いんだ、へぇ~…」
違う世界の人間と言ってもいいほど別次元の存在だと思っていた優奈が今自分の髪に触れている。
この距離でその顔を見上げていても怒られる事も無く、優奈のとんでもなくいい匂いまでも深く吸い込める距離にいれば当然この男子生徒は舞い上がってしまった。
「わかった、ありがと」
「え…も、もういいの?」
至福の時は一瞬で終わった。
なんとか引き留めようと考えたものの優奈はすでに目の前にはおらず…その姿を目で追っていると今度は別の男子に同じ事をしている。
結局数人の男子の髪に触れてその切り方を見ただけなのだが、選ばれた男子生徒たちはあっという間に優奈の虜になってしまったのだった。
席に戻った優奈。
勝也は机に突っ伏しているためこのクラスメイト達の髪型を当てはめてみることが出来ない。
ジッと横から見つめていると
「ちょっとさっきから何してんのよ」
「ん~どんなのにしようかなぁと思って」
「他の男の髪とか触ってるトコ見られたらキレられるよ?」
「え…あたし触ってたっけ?」
「はあぁぁぁ~…そこまで気づかないって……」
「なんかいいの思い浮かばないなぁ~」
「なんで急にそんなに悩んでんのよ、行ってる美容院でお任せとかにしてみたら?」
「だって美容院行かない人だもん」
「え、じゃあ今までどうやって…」
「前までは自分で切ってたし今はずっとあたしが切ってる」
「そ…そうなのぉ?」
「で、本人が切りたいって?」
「まったく興味ないみたい。切りたかったら勝手に切れって」
「興味なくてコレなの?…カッコいいのに」
「じゃあ別に今のままでもいーじゃん」
「う~ん…でもなんか短くしたらどうなるか見てみたくない?」
「たしかに」
普段着や制服と同様に髪型もくくり方ひとつであのボサボサを演じていた頃から一気にイメージを変えた勝也。みんなこの髪型が定着しすぎていて想像できない状況だった。
優奈が悩み始めたのがみんなに伝染したのか
「ねーこんなのは?」
「コレも似合いそうな気する」
休み時間になるたびにみんながスマホとにらめっこして髪型を引っ張り出してくるようになり、ついには芽衣までもが案を出すようになってしまった。
そしてあまりにもいろんな髪型を見過ぎてしまい
「やっぱムリだぁ~…もう訳わかんなくなっちゃった」
どれだけ見てもやはり今のが一番似合っているようにも見え始め、そもそも自分が思った通りの髪型に切れるのかどうかも自信はない。
「まだしばらくはこのままでいーかな」
勝也のイメチェン計画はいったん保留となった。
また翌週の休みが来て
「ねー、カラー買いに行きたい」
「ん~」
自分の髪色を変えようと思った優奈。
駅前までの散歩も兼ねた買い物に行くとドラッグストアへ入る。
そしてカラーを選んでいると隣にはメンズブリーチのコーナー。
即座に口から勝手に言葉が出た。
「勝也の髪も色変えていい?」
「色?あんま派手なのはヤだぞ」
却下されることは無かった。
そこから色選びが始まり、気づけば自分の買い物も忘れてしまいかけるほど悩んでようやく決めた。
なぜかドキドキしながらアパートへ戻ると早速ブリーチを始める。
「くっせ~!」
なかなかの刺激臭に愚痴ばかりこぼす勝也だったが、お構いなしに優奈に髪色を変えられてしまう。
そして最後に髪を洗って出てきたところで乾かしてみると
「うわ…うわうわ…勝也じゃないみたい」
「それは似合ってないって言ってんのか?」
「ううん!なんか…いい(笑)」
すると急に火がついたように
「やっぱ切る!!」
「…は?」
週が明けた月曜日、ガラッと扉を開けて勝也が教室に入ると
「おは………えっ?!」
軽めの茶髪になり、もう後ろではくくれない程短くなった髪型の勝也。
「えええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「な…なんだよ」
「勝也……だよね」
「当たり前だろ」
「なんか別人みたい…」
「ほら、やっぱ似合ってねぇんじゃん」
「…違うって……なんかヤバ…」
そこへ後から優奈が入る。
「おはよ~♪ねーこの髪型どぉ?」
「めっちゃいいじゃんっ!!!」




