94 人気
ある日の体育前の着替え時間、女子のみにコッソリとプリントが配られてきた。
誰が主催者なのかはわからないが『極秘』と書いてあり、その内容を見てみるとどうやら人気投票のようだ。
だが個人ただ一人を特定するという感じではなくいろいろ項目が分かれている。
イケメン部門だの彼氏にしたい部門だの憧れの人部門となかなかの数だ。
良い項目がほとんどなのだが悪い項目も少しあり、公になってしまうと本人がヘコむんじゃないのかというモノまであった。
記名は必要ないらしく誰が書いたのかはわからない仕組みにはなっているものの…
「なにコレ。暇なヤツもいるもんだねぇ」
「こんなの康太の耳にでも入ったら大騒ぎするよぉ」
「俺に入れろ俺に入れろって?」
芽衣にいたっては困り顔になっている。
優奈もまた
「書く人いない場合はどぉすればいいんだろ」
「まぁ適当でいいんじゃないの?テストじゃないんだから」
「そだね」
プリントを何気なく制服のポケットに押し込むとそのまま体育の授業へ向かった。
その後、また次の授業で教室に戻る。
隣の席には勝也がいて聞いているのかいないのかわからない表情で黒板を見ている。
休み時間はほぼ寝ている事が多いが授業中は頑張って起きているようになった。
学費は親に甘えると決めたからには無駄にするわけにはいかないと気持ちを入れ替えたようだ。
意識があるのかどうかはわからないが、おかげでたまに優奈がジッと横顔を眺めていても気づかれる事はなかった。
何気なくポケットに手を入れるとさっきのプリントが入っていた事に気づく。
それを出して改めて目を通してみた優奈。
無記名での投票という事もあり自分が誰の名前を書こうがバレる事はない。
大して興味は無かったのだがふとヒマ潰しがてらに考えてみる事にした。
性格上、悪い内容の方は人を選べない。
そこは無視するとして
「イケメンって言うのは顔だけで選べって事か…でもやっぱ勝也だよね。彼氏にしたい…ってこれも勝也しかないし。憧れもやっぱ勝也でしょ?あとは親友にしたい…これは岳ちゃんかな」
初めのうちはどれも全て勝也に該当していたためつまらないモノになりかけていたが、親友となると勝也を選ぶわけにはいかない。
それ以外の名前を選び始めるとだんだん面白くなってきて
「ん~と、お笑い担当…康太か(笑)相談相手…勝也以外に考えるとしたらこれも岳ちゃんかな。あとは結婚するなら…結婚って高校生に聞く?(笑)」
だがふと考え込んでしまう。
このまま卒業して大人になってそれなりの年齢になった時、果たして自分は勝也の隣にいさせてもらえているのだろうか。
優奈の両親との会話の中で勝也は何度も将来の事も含めた決意を話してくれた。
今はその気持ちでいてくれているとしても実際自分はその通りの道を歩んで行けているのだろうか。
隣に目を向けるとノートを取るわけでもなくただ真っ直ぐ黒板を見つめている勝也の横顔。
いつかこの人と結婚してこの人の子供を産む。
誰にも話していない自分だけで想い描いている将来の夢は実現するのだろうか。
そのまま授業が終わり昼休みになる。
勝也の机にお弁当を2つ置いて一緒に食べ始めるのだが
「ねぇねぇ」
「ん~。あ、この卵焼きの味が薄かった言い訳か?」
「え…ウソ薄い?…ってそういう事じゃないっ!!あれ…ホントに薄いや…」
「で?」
「あ、そうそう。あのさぁ…勝也は男か女かどっちがいい?」
「なにが」
「子供」
…ブウウウウゥゥゥゥ~~~ッッッ!!!!!!
口に入れたお茶を噴き出す勝也。
その霧のような飛沫は当然優奈の顔面に噴射される。
「キャアアァァァッッッ!!!ちょっとぉぉぉっ!!もぉぉぉぉ!!!!」
「ゲホッ!…ゴホ…バッ!…バッカかお前はぁぁ!!!何をいきなり!」
「だからってお茶噴く事ないでしょぉ?!?!」
「お前が訳わかんねぇ事言い出すからだろうがぁ!!!」
お昼時にいきなり大声での言い合いが始まる。
「あ~あ~…ほら優奈ちゃん顔拭いて」
優奈にハンカチを渡すと小さなタオルで制服の胸元やスカートを拭いてくれる優しい芽衣。そしてみさ達も手伝いながら
「もぉ何やってんのよ…今度はなに?」
「だってこいつがいきなりとんでもねぇ事…」
「何言ったの」
「子供は男か女かどっちがいいとか」
「…え……ええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「…うそ……アンタまさか……」
周りのクラスメイトも騒然となる中で辺りをキョロキョロ見渡すと
「え?…ちっ!ちがうよぉっ!!!あたしじゃなくて!」
「なぁんだ、あ~ビックリしたぁぁ……」
「心臓止まるかと思ったじゃねぇかよ!」
「当たり前でしょぉ?!もしそうだったらこんなトコで言わないよっ!」
結局ただの質問だった事がわかって騒ぎは収まったものの、やはり勝也と優奈の関係がいつそうなってもおかしくない域である事を公表しただけだった。
「で、なんなんだよその質問は」
「なんか勝也って子供と遊んだりするイメージ無いからさぁ」
「それはそういう場面を見た事が無いってだけの話だろうがよ」
「そうかもだけど…」
「ウチのミキとはすっごく遊んでくれたよ、プール行った時も」
「あ、思い出した!去年プール行ってないじゃん!」
「は?海行ったろ」
「海は行ったけどプールは行ってないっ!!」
「…お前はどんどんこの世の中心になってくな」
バイトを減らし、会える時間が増えていくにつれて優奈は自分の希望をよく言うようになった。
だがそれはワガママという意味ではなく残り1年にも満たない高校生活を一緒に楽しみたいというあの時の勝也の言葉があったからで、それは勝也にも理解できている。
「ま、去年の夏は解散前だったしレコーディングもあったから…今年だな」
少し先に視線を向けると「聞こえたよ?」という顔でニヤリと笑うみさ達の目が怖かった。
数日後、投票の結果がまた極秘に配られてきた。
結局ほとんど勝也の名前を書いた状態で一応提出した優奈だったが、いざ結果が出てみると多少気にはなる。
女子だけで集まって話している時に
「結局みんな出したんじゃん(笑)」
「なんか考え始めたら面白くなっちゃって」
「蘭が誰の名前書いたのかすっごい気になる」
「優奈と芽衣ちゃんは聞かなくてもわかるけどね」
「なんでよ」
「で、どれどれ」
まだみんな中は見ていなかったらしく全員で開いてみた。
「おぉ~!岳ちゃんが親友部門と相談相手で2位だって」
「わからなくはないよね、今の岳ちゃんなら」
「お笑いは楽勝で康太だねぇ(笑)」
「そこ以外まったく名前出てないけど」
その話に一緒に笑いながらも他の部門を見てみる。
「うわぁ…憧れのトコ、ダントツで勝也じゃん」
「ありゃ~(笑)」
2位に3倍以上の差をつけてぶっちぎりの1位だった。
そしてイケメン部門でも2位に入っている勝也。
「ま、これもある意味当然かな♪」
「2位ってのが気に入らない…」
「うわ出た…(笑)」
だが彼氏にしたい部門に勝也の名前は無い。
「憧れとかイケメンとか思っても彼氏にしたいタイプじゃないんだ…」
ボソッと呟いた優奈。すると
「は?そりゃそうでしょ」
「え~、なんで?」
「あのねぇ、アイツの彼女なんか寿命がいくらあっても足りないじゃん」
「…たしかに(笑)」
「それに今の勝也をポン!とそのまま譲ってくれるんならまだいいけどさ」
「…え?」
「みーんなアンタを見てきたからね。みさ達3人は特にでしょ?ずっと尽くして耐えてどれだけ泣かされても諦めないで必死でついてったアンタだから今こうして勝也の隣にいられるんじゃん。他の女じゃ絶対無理だよ、アイツの彼女なんて」
「あたしも松下クンの彼女は優奈ちゃんにしか務まらないと思う」
「…あ…」
勝也に彼氏としての魅力が無い訳ではなかった。
みんなあまりにも優奈の存在が大きすぎて対象から外していただけだった。
顔や憧れの人としてなら自分達にも選択権はある。だが彼氏にしたいかどうかといえば、誰もが『優奈と同じようには出来ない』と諦めたのだ。
それは『勝也の彼女は優奈しかいない』と認めてもらえたという事で…
「ほぉらまた泣く~(笑)」
「…だってぇぇ……」
「アイツの事でここまですぐ泣けるのも優奈しかいないけどね」
「そう!それ!(笑)」
そんな話で盛り上がっているところへ教室の扉がガラッと開き
「優奈ぁぁ…またシャツ破れたぁぁ」
「あんなトコ突っ込むからだろーが(笑)」
呆気にとられた目でみんなが見ている中、一瞬で涙が引っ込み鋭い目つきで
「はあぁぁ??今月入って2枚目じゃんっっ!!もぉそのまま破れたの着てなさいっ!!」
「え~!縫ってくれりゃいーじゃんかよぉ」
「うるさいっ!!反省するまで縫ってやんないっ!!」
怒りながらも、次の休み時間にはそのシャツを縫う優奈。
「ほらね?結局アンタでないとアイツのお守りは無理じゃん(笑)」




