93 彼氏と彼女 ②
翌日、今日はいつも通りに教室で弁当を食べ終わる。
突っ伏した勝也以外のいつものメンバーがそれぞれに楽しく会話していた時、突然勇太が
「最近さぁ、ちょっと大丈夫かなぁって思う時あるんだ」
「大丈夫って…なにが?」
「耕平だよ。なんかいつも取り巻き見たいの連れてるし女のコとかも連れて…なんかちょっと天狗なのかなぁ」
「別にソコまでの事じゃ…」
「唯に聞いたんだけど夜とかも出掛ける事とか多くなって電話もひっきりなしにかかってくるって」
「今までイジめられてたんだからよ、遊べる友達出来て楽しいんじゃねぇの?」
「それだけだったらいいんだけど」
「でもそれが勇太の望みだったんでしょ?耕平を救ってあげたいって」
「うん…そうなんだけど…」
「今は顔つきも違うし結果的には良かったんじゃない」
「…今年はボーカル変えてみない?」
「は?」
「いや、耕平はもう大丈夫だろうからさ…もっと他に救いの手を求めてるヤツもいるんじゃねぇかなって」
みんながキョトンとしている中
「だったらベースは他で探せよ」
「…えっ?!」
突っ伏したままの勝也がしゃべった。
「お…起きてたんだ…」
「目の前でそんなデケェ声で会話されたら目も覚めるよ」
そういうとムクッと体を起こして背もたれに預ける。
「お前何のために俺達集めたんだ。耕平を歌わせるためだったんだよな?他のボーカル立ててやるんならまた一から集めろよ。俺は耕平以外でJUNCTIONやる気は無い」
「そうなんだけど最近のあいつ見てたら…」
「だったらJUNCTIONごとヤメちまえ。お前があいつを神輿に乗せたんだろ?だったら今のアイツの心境とかそんな事聞きもしないで勝手に頭打とうとすんじゃねぇよ。もしホントに天狗になってんだったらそんなボーカルこっちから願い下げだ」
勝也の言葉に誰も言い返せなかった。
ただ今年もやるはずだったJUNCTIONが不確定になってきた事だけが残念に思えていた。
その後、蘭と2人で購買へやってきた優奈。
ふと見ると耕平が数人の友達と一緒に談笑している。
するとフッと蘭が動いた。
「耕平ちょっといい?」
「え?あ、蘭さん」
「話あんだけど」
「わかりました。ごめんちょっといい?」
友達に席を離れることを告げると蘭の後に続いてついてくる。
突然の蘭の行動に多少戸惑いながらも、優奈も気がかりではあったため自販機に並ぶ列から離れてついていった。
校舎を出て裏側へまわる。
昼休みという事もあり多少人通りはあるが
「だいぶ友達とか増えたみたいだね」
「え…あ、はい。おかげさまで」
「さっきのコたちが一番仲のいいグループなんだ?」
「一番っていうか今日はたまたまあいつらと一緒になって…」
「急にいっぱい友達増えちゃって忙しそうじゃん」
「それはやっぱりJUNCTIONに入れてもらってあんなに大勢の前で歌えたから…あの日から何もかも変わったんですよ」
「……入れてもらって?」
「え…そ、そうでしょ?」
「そっか…ごめん、時間取らせちゃったね。もういいよ」
何だったんだろう?とキョトンとする耕平を残して蘭と優奈はその場を離れた。
「なんか寂しかったね…」
「うん……あたしも勇太の意見に賛成かな」
校内ツートップと言われる美女2人の表情は沈んでいた。
だが今の耕平の発言をメンバーに話すわけにはいかない。
特に勝也には…
その翌日の昼、勝也にお昼を食べさせた後一人で2年生の校舎を歩く優奈がいた。
歩いているだけで相当な視線が集まる中、ある教室に辿り着くと中を覗き込み
「…あ、いた。おーい沙耶ちゃ~ん」
「えっ?……あっ!!優奈先輩っ!!」
クラス中の注目が集まる中、トコトコと出てくる沙耶。
「どーしたんですかぁ?呼んでくれたら行ったのに」
「へへ、ちょっといい?」
「はい」
自分達のクラスの中にわざわざ優奈が呼びに来るほど関係の深い人間がいるなど初めて知った級友たちは呆気に取られていた。
少し歩いた辺りで
「どうしたんですか?」
「うん…ちょっと耕平の事で聞きたい事あって」
「あ、もうそれはいいんですってば(笑)優奈先輩に話したらスッキリしたし」
「そうじゃないの。…ごめんね、沙耶ちゃんの方の事じゃなくて今の耕平の事で」
「今の…嶋クンの事?」
「うん。沙耶ちゃんはずっと耕平の事見て来たでしょ?その沙耶ちゃんから見て今の耕平が変わっちゃったとかそういう風に感じたりする事ないかなぁって…」
「…何かあったんですか?」
それから優奈は今のJUNCTIONメンバーからの目線の話や昨日の耕平のあの言葉の事を話した。
みるみる沙耶の表情は変わり
「『入れてもらった』って、あのバンドは嶋クンの為にみんなが集まってくれたバンドだったんじゃ…」
やはり沙耶はちゃんと理解していた。
全校中が不思議に思っていたメンバーだったのは事実だが当事者以外にもここにちゃんとその理由を分かっている人がいた。
「やっぱり沙耶ちゃんは分かってたんだね。だからもし今の耕平が勘違いし始めちゃったりしてたらちょっと厄介だなと思ってさ」
「優奈先輩…ちょっとあたしが口挟んでもいいですか?」
「…え?」
「みんなの目にそう見えてるとしたらそれは嶋クンが間違ってると思います。でもあたしには嶋クンがそんな人だとは思えなくて」
「そっか…沙耶ちゃんは耕平を信じてるんだもんね」
「ちょっとだけ時間ください。もしあの人がそんな人になっちゃってたとしたらあたしにとっても問題なんで」
優奈は沙耶に預けることにした。
もちろん優奈自身にとっても現段階では唯一ステージに上がる勝也を見れる可能性のあるイベントだ。
それを左右できるのは今は沙耶が一番適任だと判断した。
その日の帰り道
「ねぇ、耕平の事なんだけど」
「ん~?」
「昨日公園でお昼食べたじゃない?」
「あぁ、あの卵焼きウマかったぁ」
「…普段あたしが作ったのってそこまでホメてくれないクセに」
「で、その弁当がどうかしたか?」
「お弁当じゃなくて!…勝也が寝てる間に沙耶ちゃん来たの知らないでしょ」
「…沙耶ちゃん…誰?」
「は?前に勝也にベース習いに来てたじゃん!」
「ベース習いにって…俺に?いつ?」
「はぁぁ?!もぉ………あのMUSIC MAN持ってたコ!」
「あ!お~お~いたいた」
「なんでベースしか覚えてないのよ…」
「そのコがどーした」
「なんかね、耕平の事が好きみたいで」
「へ~♪一気に人生変わっちゃってんじゃんあいつ(笑)」
「そういう事じゃないの!今の耕平がホントに変わっちゃったのか…その子に委ねたの」
「そっか」
「それだけ?」
「別にお前が考えてした事だろ?だったら俺は文句ねぇよ」
「あ……うん」
「それにまぁ見てな。耕平は耕平だよ」
「…え?」
2日後の昼休み、沙耶が教室へやってきた。
「あの…優奈先輩っ!」
「ん?あぁ沙耶ちゃん」
「…お話が…」
「あ、うん」
そういって優奈が立ち上がると
「あの…JUNCTIONの皆さん全員にお話ししたいんですけど…」
「……ん?」
眠りかけていた勝也も優奈に叩き起こされると校舎の外へ。
建物裏のちょっとしたスペースへ行くとそこには耕平が待っていた。
だが耕平はみんなの目を見れず黙ったまま。
すると沙耶が代弁するように口を開く。
「あの…まず嶋クンがいつも友達一杯引き連れてるトコなんですけど」
「…うん」
「嶋クンは、今こうやっていろんな友達が一杯できたのも全てはJUNCTIONのおかげだって。みんなから貰った財産なんだって…。だから全ての人に感謝するつもりで出来るだけたくさんの人と仲良くしようとしてるんだって」
「…え?」
「夜に出掛けることが多くなったのはボイストレーニングに通ってるんだそうです」
「ボイトレ?」
「もしまた今年の文化祭でまたあの人たちと一緒にやれるとしたら、その時は去年よりももっと成長した自分を見せたいからって」
「…俺たちに?」
「自分の為に集まってくれたメンバーのみなさんに恩返しできる事ってそれぐらいしか思いつかなかったんだそうです」
「…耕平…」
黙っていた耕平の目に涙がたまっていく。
「…ご…ごめんなさい…。僕がちゃんとしてないから……みんなに余計な心配までかけることになっちゃって…」
「お前…」
誰もが口を開けなかった。
耕平は決して天狗になっていたわけではなかった。
すると黙って聞いていた勝也が急に笑い出す。
「クックック…ほら見ろ、だから言ったろ」
「…え?」
「あれっぽっちの歌で天狗になるようじゃただの素人だよ。こいつはそんなレベルの低い男じゃない。だからこれだけのメンツ従えたバンドで堂々とボーカル張れたんだ」
「…あ…」
「大体イジメられてようが人気者になろうがJUNCTIONのボーカルは耕平にしかできねぇよ。お前らだってそう思ったからあん時あんなに楽しかったんだろ?」
そうだった。
あの去年の文化祭ライブが終わった時全員が『楽しかった!』と言えるライブだった。
必死に頑張った耕平のおかげで『やって良かった』と思えるステージに出来たのだ。
「だからご褒美に蘭にキスしてもらえたんだもんな?」
「あっ!いやちょっと…勝也さん…」
「え、キスって…」
沙耶の目の色が明らかに変わる。
「いや!ち、違うんだ!…あの…僕からお願いしたんじゃなくて…その…」
「そんな事聞いてない!」
「…あれ…あれあれあれ??(笑)」
どうやら耕平と沙耶の雰囲気は今までと違うようだ。
「あ…いや…えっと…」
「なぁにぃ?沙耶ちゃんもなんか報告あるんじゃないのぉぉ(笑)」
「…えっと…そのぉ…」
「実は…今回『沙耶』にこの事で怒られて話してるウチにもうガマンできなくなって告白しちゃったんです。ずっと…中学の時から好きだったって…」
「…はあぁぁ??告白だぁぁ??」
「しかも呼び捨てになってる…」
「…え…えへ♪」
「そしたらOKしてくれて…」
「なぁにぃぃ?!って事はお前…彼女持ちになっちゃったの?」
「…はい」
「良かったじゃん!沙耶ちゃんもずっと好きだったんだもんねぇ」
「あ~っ!…シーーーッ!!!」
優奈を止めようとした沙耶だったがもう遅かった。
「え…だってあん時『そこまで言うなら別にいいけど』って…」
「そっ…それは…もぉ~~~!!優奈先輩ぃっっっ!!!」
「あ…ごめぇん♪」
結局はずっと両想いだったことが発覚した2人だった。




