91 平蔵 ②
【眠りから覚めたようにみぃの目が開く。
そこは病院の病室で枕元には母が座っていた。
「未有希っ!!お父さん未有希がっ!」
「おぉ!よかった、気が付いたか」
「…ここ…病院?」
「あぁそうだ。お前がケンカに巻き込まれて救急車でここに」
どうやら自分の頭には包帯が巻かれている。
「脳波とか色々調べてもらったけど大丈夫だって。ただの外傷だけだから心配はいらないって…良かった…」
安心した母は泣き出した。
「…へいぞ……ねぇ、長めの茶髪でジャラジャラアクセサリーつけたバンドマンっぽいのいなかった?」
「あぁ、アイツならブン殴って帰らせた」
「…え?」
「俺達がここに着くなり『自分のせいです』って土下座なんかしやがったが…あんな身なりしてるからケンカなんかになってそのせいでお前まで巻き込んで…」
「えっ?ちが…」
「安心しろ。二度とウチの娘の前に顔を見せるなって言っといたからもうカラまれる事はないだろ」
「違うんだって…あいつは…」
「とにかく今は休みなさい。8針ほど縫ったから今はゆっくり…ね?」
母が付き添いとしてずっと部屋にいるというため仕方なくまた横になるみぃ。
寝たり起きたりを繰り返しながら過ごしていたが昼間のテレビは大して面白い番組もなく、母がトイレに立った隙にこっそり起き出し窓際まで外の景色を見に行く。
何気なく外を見ると…病院の敷地の外からジッとこちらを見ている男がいた。
「あ…あいつ…」
窓からみぃの姿が見えた途端ハッとした顔で見つめてくる平蔵。
その顔を見て声は出さずともグッと指でOKサインを出して見せる。
(大丈夫だよ♪)
それを見て安心した表情になる平蔵。
「気にしなくていいからもう帰りな~」
確認できるような近い距離ではないが、口パクでそう言うと追い払うように手でシッシッと帰れの合図を送る。
それを見てようやく平蔵はその場を離れていった。
退院までは数日かかると言われていたみぃ。
傷口の消毒やガーゼの交換以外は特にする事もなく、早くも退屈を感じていた翌日。
後は傷口の回復を待つだけとなり母の付き添いもベッタリではなくなりそうな雰囲気の中、また景色を見るために窓の外へと目を向けると昨日の場所にまた平蔵が立っている。
驚きとはまた違う不思議な感覚を覚えながらも昨日の様にOKサインを作り、帰るように合図を送る。
それはその翌日も、そしてその翌日も続いた。
入院5日目の日、雨模様の中さすがに今日はいないだろうと思いながら日課のようになっている外の確認をすると…この雨の中傘もささずに平蔵が立っている。
居てもたってもいられなくなったみぃが病室を飛び出し、病院の傘を借りてそこへ駆け出して行った。
「何やってんのよ!こんな雨の中…もう来なくていいってば!!」
「そんな訳にはいかねぇよ」
「あたしはもう大丈夫だから!もうすぐ退院できるし、それにアンタが風邪ひいたらどうすんのよ!」
「風邪なんかひかねぇよ。バカは風邪ひかないって言うだろ?」
「そんな事言ってる場合じゃ…」
「それにお前の心配して来てるんじゃねぇし」
「なっ……そりゃそうだろうけど、だったらなんで毎日こんなトコいんのよ!」
「…顔見たいからだよ」
「え?」
「ダメなんだよ…毎日毎日お前の顔見たくなるんだ。だから勝手に来てるだけだから気にすんな」
「平蔵…」
差していた傘を落とし、気づいたときには目に涙を溜めて平蔵に抱き着いていた。
「おい濡れちゃうってば」
「なんか文句あんの?」
「お前に文句言うほどの根性はねぇよ(笑)」
両親が認めてくれるまでには相当の時間を要したものの、生まれ変わった平蔵の本気の誠意はなんとか両親の心を溶かしていった】
救急処置室の扉が開く。
誰よりも早く立ち上がったみぃが
「…平蔵は!彼は大丈夫ですかっ?!」
あまりにも勢いよく食って掛かるように問い詰めるみぃに驚きながら
「頭だったから相当出血はしてますが大丈夫です。ハネられる瞬間に自分で飛び上がったんでしょう…全身打撲ですが骨折もありません。相当反射神経が良かったんじゃないですか?意識はまだ戻っていませんが命に別状はありませんよ」
全員が大きな大きなため息をついた。
そしてそのまま崩れ落ちるように座り込むみぃ。
「良かった……」
ようやく大粒の涙を流しながら号泣する。
涼子や優奈、紗季も安堵の涙を流し、メンバー達もようやく力が抜けたかのように椅子の背もたれに体を預けた。
このまま病室へと移動するため、ストレッチャーに乗せられた意識の無い平蔵がみんなの前に姿を現す。
「平蔵!…平蔵っ!!」
まだ平蔵の顔には所々に血の跡が残り頭には大きく包帯が巻かれている。
ストレッチャーの横にバッと寄り添いそのまま一緒に病室まで移動するみぃ。
夜中という事もあり空いていた個室へ平蔵が運び込まれる。
ベッドに寝かされ点滴や心拍計を装着すると看護師達がまた出ていった。
命に別状はないと聞いてようやく涼子も
「とりあえずは良かった…んだよね?」
「あぁ、命に別状はないって言ってたしな」
ベッドの横でジッと平蔵の手を握るみぃ。
人前でこんなに愛しそうな表情を浮かべるみぃも珍しい。
すると…眠っている平蔵を見た優奈が
「なんか言ってる…」
「…え?」
「平蔵さん、なんか言ってるよ!」
全員が、そしてみぃが平蔵の口元を見た。
「……希…………未有……希……」
いつもの『みぃ』ではなく『未有希』とつぶやいている。
「平蔵!…ねぇ平蔵…ここにいるよ…ちゃんとそばにいるよ」
「……ケガ…は?」
「あたしは大丈夫、平蔵が守ってくれたから…」
「…そっか…よかっ……た…」
まだ目は開いていない。
そして言葉も途切れ途切れながら
「…ごめん…な…」
「なんで謝るの?あたしの方こそ…」
「…いっつも…怒らせてばっかりで…」
「そんな事ない!あたしの方がわがままばっかり…」
「…俺…が…悪い…」
「お願いだから今はもうしゃべらないで…」
「俺なんかじゃなくて…他のヤツ…」
「ダメなの!あたしは平蔵じゃなきゃ…」
「…また…怒らせちまうし…」
「もう怒ったりしない。もっと優しい女になるから…」
「…ホント…か?」
「約束するから!」
初めて聞くみぃの本音に彼女達はその優しさを思い知った。
いつもケンカばかりのように見えながらも一番奥底ではやはりお互い愛し合っているのだと。
だが男たちは
「クックックック♪」
Junのこらえきれなかった小さな笑い声の後
「あ~ぁ…俺は知らねぇぞ?」
「自分で責任取りなよね」
「その前に息の根止められなきゃいいけどな」
「……え?」
すると平蔵がスッと目を開ける。
「なんだよ、ったく…もうちょっとで…」
「…え?」
「…気づいてたの?」
「だってみぃが優しかったんだもん」
「…は?」
「もう怒らないって約束したから、あとは好きなだけ遊んでいいとかそういう…」
「…し…信じらんない……」
女子達はみぃの激怒を確信した。
…だが
「良かった……ホントに心配したんだからね」
「お前一人残してなんか行けるかバカ」
結局男たちは、平蔵の照れ隠しの本音に気づいていたのだった。
意識が戻ったことを看護師に伝えるともう後は大丈夫だと告げられ、付き添いのみぃだけを残して一旦解散することになった。
病院の外に出てみんなの帰り道がそれぞれバラバラになる分かれ道に来た時
「なぁ…お前ら……」
Syouのその言葉は女性陣ではなくJun、Ban、Kou、勝也だけに向けられているのが伝わる。
するとその4人がSyouの顔を見てしばらく沈黙の後
「…わかってるよ」
同時にそう答えた。
彼女達にはそこに入っていけない絆という壁がはっきりと見え、たったこれだけの会話で何かを伝えあった男たちの信頼度をまざまざと見せつけられたのだった。
タクシーを捕まえてようやく帰路につく。
帰り道の勝也はずっと無言で
「良かった…ホントに…」
その優奈の言葉にも手を握ることで答えた。
「さっきSyouさん…なんて言いたかったの?」
「ん……『誰もいなくなるなよ』ってトコだろ」
帰り道に勝也が話したのはそれだけだった。
アパートに戻り、寝室で2人とも部屋着に着替えるため服を脱いだ時
「…キャッ!」
下着だけの姿になった優奈を抱きしめるとそのままベッドに押し倒す。
「…ちょ…ちょっと…勝也?」
その言葉にも返事は返さず、いつもの優しい感じではなく服をはぎ取るような激しい勢いで脱がせ始める。
もちろん勝也の行動に優奈が抵抗するはずもなくそのまま身を委ねた。
薄暗い部屋の中で勝也の腕枕に頭を乗せたまま
「どうしたの~?なんかいつもと違った」
「…ん……イヤだった?」
「まっさかぁ、いつだって勝也がしたいようにしてくれていいんだけど」
するとしばらく黙った後
「ホント言うと…すっごく怖かったんだ」
「ん?」
「あのまま平蔵クンがもう戻ってこないかもって思ったら…」
「……うん……」
「でも平蔵クンの目が覚めてあの2人の会話聞いてたら、なんでかわからないけど俺はすっごく優奈の事が好きだってなんか実感っていうか…」
「…え?」
「いつもお前が俺のそばにいてくれる事がどれほど幸せなのかわかった気がした」
「…………」
「だから帰ってきたらもうガマンできなかった」
「…グス……ふえええぇぇぇぇぇん…………」
「そこ泣くトコ?」
「…泣くトコに決まってるじゃんかぁぁぁ……」
数週間後、平蔵の完治祝いをする事になりいつもの居酒屋前に全員で集合していたのだが
「おっせえなぁ主役のクセに…」
もう待ち合わせ時間は過ぎている。
すると遠くから
「待ぁてぇぇ!!へーぞーっ!!!!!」
みぃの大きな怒鳴り声が聞こえてきた。
「……え?」
その声の方にみんなの視線が向くと…必死の形相で走ってくる平蔵と、その後ろから追いかけてくるみぃの姿。
そして先にみんなの所にたどり着いた時点で平蔵が一番近くにいた優奈の後ろに隠れる。
「ちょっ!…ちょっと!平蔵さん?!」
遅れてたどり着いたみぃ。
「今日という今日は絶対に息の根止めてやる!」
「ち、違うんだって!道聞かれたから教えて…」
「ほぉ~テメェは道聞いてきただけの女に電話番号聞くのか?!」
「いや…あの…」
「なんならこのまま優奈ごと潰してやろうか?」
「…えっ?…いや…」
後ろから掴んでいた優奈の服をパッと離す。
するとその隙にスッと体ごと避けた優奈。
「あっ!…ちょ…優奈ってば…」
みぃと平蔵が正面から対峙すると
「おらああああぁぁぁぁ!!」
「ちょっ!ちょっと待って!…話を…ぎ…ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「……あ~ぁ…(笑)」




