84 Jun始動 ②
大感激の萬壽釈迦が去った後、それを皮切りに多くの人が挨拶にやってきた。
優奈の知らない人も多くいる。
まだまだブランカの顔の広さには驚くばかりだった。
場内が暗くなりKouのバンドからライブが始まる。
長年ブランカをサポートしてきたKouのテクニックは相変わらず健在で安心感さえある。
このバンドのライブには何度も足を運んでいて、優奈が知っている曲も何曲か聞くことが出来た。
そしてステージの照明が落ちてセットチェンジとなり、いよいよJunの復活だ。
「あ~、なんか緊張してきたぁ」
「なんでお前が緊張してんだよ」
流れていたBGMが消えると客席の照明が落ちSEが流れ始めた。
やはりJunの立ち位置はあの慣れ親しんだ上手で、ブランカ一のイケメンと言われた男がその姿を現す。
大歓声の中でJunの新バンドがスタートした。
ライブ終了後、観客の多くはもうハケている。
出待ちに向かうファンやもう帰ってしまった客。
ライブは盛り上がった。
初めてのライブだというのに総立ちだった。
だが元ブランカの4人はそのライブ終了後から口を開かなくなった。
帰る前に挨拶に来た人達とは普通に会話するがそれ以外は誰も言葉を発しない。
優奈達も不思議に思う中で
「そろそろ行くか」
Syouの一言にみんな黙って会場を出る。
裏口側に回ると出待ちのファンが多く騒いでいた。
そこへ向かって進んでいくと
「き…来たぁ!!」
その叫び声で人垣が割れる。
中心にいたのはJunで
「おう!サンキュー♪」
「おつかれ~」
「お疲れ様~」
解散以来初めてライブハウスで伝説のブランカが勢揃いした瞬間だ。
「ヤッバ~みんな揃ったぁ」
「すっご~い、なんか泣けてくる…」
サポートだったKouも含めたフルメンバー6人とその彼女達4人。
10人の談笑はブランカファンにとっては夢のような光景だ。
遠巻きに写メを撮る音が多く聞こえる中、元ブランカのメンバー達は相変わらずの仲良さで楽しそうに会話していた。
少し話した後その場を後にする。
周りのみんなは名残惜しそうにしていたもののJunのバンドのために集まったファン達との時間の方を優先したのだった。
その帰り道…
相変わらず男達は口を開かない。
ただ黙って駅までの道のりを歩いているのだが彼女達もその空気を察してあまり言葉は発しないものの、たまりかねたように
「ね、ねぇ…ご飯でも食べてかない?」
みぃの言葉に黙って同意すると、また8人で入れる店を探し始める。
ちょうど入れ替わりで運よく団体客が帰った居酒屋を見つけ、その個室に通された。
いつもの配置でそれぞれカップルが交互に座り、そしていつものように色々注文するのは彼女たちの役目だった。
いつもの飲み会と同じような雰囲気のはずだが、そこにJunはいない。
たった一人減っただけでこれほど風景が違って見えるのかと、優奈もJunの存在の大きさを改めて実感していた。
飲み物や食べ物が続々届き始める。
彼女達はいつもの空気に戻そうといつも通りに盛り上げていくが…男達は笑顔は見せるものの自分達からはほぼ話さない状況だった。
「ねぇ……何が気に入らなかったの?」
この雰囲気に耐えられず切り出したのは涼子だった。
彼女達も会話をやめて同じように問いかける目つきで男達を見る。
「あたしには凄くカッコよく見えたよ、やっぱりさすがJunだなって思った。…曲がダメだった?Junの選んだメンバーがダメだった?そんなにみんなが話さなくなっちゃう程…ダメなライブだった?」
沈黙が走る。
涼子の言葉に彼女達は同意するように見つめる。
彼女達から見ても今日のライブは相当カッコいいものだっただけに、この男達が黙ってしまう意味が分からなかったのだ。
すると
「クックックックックック……」
なんと男達がニヤッと口元を震わせ、そして一斉に笑い始めた。
「なにがおかしいの?」
「Junクンって…あんなにカッコいいギタリストだったんだね」
「………えっ?!」
勝也の言葉を皮切りにようやく次々に口を開き始めた。
「俺あんな凄ぇヤツとツイン組んでたんだな~」
「アイツってステージですっげぇ映えるよなぁ」
「びっくりしたわ」
「……え?」
「な、なんか気にいらなくて怒ってたんじゃ…」
「なんで怒らなきゃいけないんだ?」
「あんなライブ見せられて怒る意味がわかんねぇ」
「だって終わってから全然話さなくなったし…」
「そりゃ客席から見たの初めてだもん」
「…あっ…」
そうだ。
彼女達が今までずっと客席から見ていたブランカのライブ。それはもちろんJunのカッコよさも当たり前に見て来たという事だ。
だが彼らは同じステージ上のJunしか知らない。
客席から見たJunのあまりのカッコよさに度肝を抜かれていたのだった。
彼女達は急に恥ずかしくなった。
よく考えれば、この男達がJunの選んだ道に対して怒るどころか文句を言うはずもない。
それを一番わかっているのは自分達だったはずなのに…
「知らなかったでしょ、あの人あんなに凄い人だったんだよ」
「あぁ、想像以上だったわ」
やはりブランカはブランカのままだった。
そして優奈が
「この前たまたま街でJunさんに会ったの。ちょっと時間あったから喫茶店に連れてってくれて、その時はまだメンバー集めの段階だったんだけど『Junさんならすぐにメンバー集まるんじゃないですか?』って聞いたら『それは俺があんなに凄いバンドに入れてもらってたからだ』って。『自分が一番ヘタクソなのに』って(笑)」
「そりゃ俺の事だよ」
同時に同じ言葉を発した4人。
言った本人達が一番キョトンとしている。
「い…いやいや…Junがいたから好き勝手出来たけど、俺が一番中身薄いだろ」
「は?だって俺が入った時にはもうみんな完成してたじゃん」
「お前らのノリに乗っかってたから叩けてたけど…普通ドラムって逆なんだぞ?」
「結局お前らの演奏でごまかせてただけなんだよ、俺なんかの歌でも」
言い合いが始まる。
どうやらブランカのメンバーは全員『自分が一番ヘタクソでついていけてない』と思っていたようだ。
「…プッ…クックック…あっはっはっはっは!!」
今度は彼女達が大爆笑してしまった。
ケタ違いの実力を持った超一流のミュージシャンの集まりだったブランカ。
だがその本人達は未だにバンドを組んだばかりの初心者のような気持ちのままだった。
そしてそれぞれがみんなに追いつくようにと必死で努力を重ねていた結果が、あの類いまれなるクオリティの演奏だったのだ。
「そりゃあ人気出るはずだわ、アンタたち♪」




