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80 大怪我 ③

「ワガママ坊主はおとなしくしてるの?」


「う~ん…とりあえずする事無いからテレビ見るか寝るしかないんだけど、やっぱまだ相当痛いみたいであんま深くは寝れないみたいなんだよね」


「まだだいぶ腫れてんの?」

「腫れはそこそこひいてはきたけど色が気持ち悪いの。青黒いっていうか紫っていうか…それよりまぁとにかく機嫌の悪い事ったらもう。八つ当たりばっかされてる」


「優奈も可哀想に…(笑)けど本人も相当痛かったんだろうね」


「そうだと思うよ、あの究極の病院嫌いが自分から行くって言ったぐらいだもん」


「明日から入院?」

「うん、だから明日とあさってあたし休むね」


あれから数日後、勝也の手術が決まった。


木曜日に入院し金曜日に手術。

優奈はそのまま4連休する事にして日曜日の退院予定まで付き添うつもりだ。


翌朝早くから起こしに来ると勝也はすでにリビングにいて


「おはよー!寝れた?」

「…まったく寝れなかった」


相変わらず不機嫌な様子で、大して面白くもないニュース番組をボーっと見ていた。

昨日のうちに優奈が入院用の荷物をまとめていたため準備は着替えくらいのものだが


「そろそろ準備して?お父さんが車で送ってくれるって下で待ってるから」


「はぁぁ?!お、お前そういう事はもっと早く…っていうか迷惑かけすぎじゃねぇか!」

「だって頼んだわけじゃないもん、向こうから言ってくれただけだし」


「そんなの遠慮しろよ!ったく…服!」


「そこに出してありますけど」


急いで着替える…が、片手ではモタモタしてしまい結局優奈に着せてもらった。

家を出ると優奈の父が車で待っている。

何度も頭を下げ恐縮しながら病院まで送ってもらい


「お前ももういいよ、このまま乗せて帰ってもら…」


「じゃあありがとね、お父さん」

「…まったく聞いてねぇし」


受付へ行って診察券を出すとそのまま病室のある階へ上がるように言われる。

エレベーターに乗ってナースステーションに行くと


「あ、松下さんね。…え~っと…あ!あのね、実は昨日退院予定だった人がちょっと延期になっちゃって…申し訳ないんだけど個室に入ってもらっていい?個室料金はかからないようにするから」


「あ、別にドコでも…」


予定外に個室に入ることになってしまった。

案内された部屋へ行くと


「へー、やっぱ個室って広いんだねぇ」

「どうせ2~3日だろうからドコでもいーんだけどな」


荷物を下ろしテキパキと配置する優奈。


「歯ブラシとタオルはここに入れとくね?あとお箸とコップはここ。スマホの充電器だけ枕元に…」

「いっぺんに言うなってば。覚えらんねぇ」


そういうとベッドにゴロンと仰向けになり


「色々悪いな、優奈」


「またキレられたいの?」

「あ…ごめん…」


勝也が礼を言うと優奈は怒る。


「なんか飲むモノとか買ってこようか」

「ん~?歩くのは問題ないから自分で行けるよ。それよりここにいてくれ」


「…え?」


「さすがに麻酔とか手術とか初めてだからよ」


「…え?…え?…ひょっとしてちょっとビビっちゃったりしてんの?」

「べ…別に…ビビってるわけじゃ」


「勝也にも怖いモノってあるんだぁ?なんか意外~」


そういうと勝也の隣に添い寝の様に横になる。


「うるせぇな…やっぱいいや、もう帰れ」


子供の様にへそを曲げた。

するとスッと勝也の頭を手で引き寄せて自分の胸に押し当てて抱きしめ


「大丈夫。今日も面会時間終わるまでいるし明日も来ていい時間はずっといる。勝也の手術が終わるのもここで待ってる。ずっと一緒にいるよ」


そう言われるとおとなしくなり、黙って優奈に抱きしめられていた。


「松下さーん、一応時間の説明だけ…」


突然入ってきた看護師。

大慌てでベッドから飛び降りた優奈だったが


「いってええええ!!!!」


「ごっ…ごめぇん!」


はずみで勝也の右手を踏んづけてしまったのだった。


検温と時間説明だけして看護師が出ていくと


「そういえば怪我して以来なんにもしてないねぇ」

「……は?」


「その前もちょっと空いてたし」


「ちょっと待て…お前なんか企んでる顔して…」


「個室だし大丈夫じゃない?」


「バカかお前はぁ!」

「だぁってぇぇ…」


そんな時優奈のスマホが鳴った。


「ほら!電話だって!」

「もぉぉ~……あれ?お母さんだ」


『母』からの電話に嬉しそうに出る優奈。


「もしもーし!はい…あ、はい。…えー!!すぐ迎えに行きまーす!」


「………?」


「お母さん来たっていうから迎えに行ってくる」

「は?お母さんまで…ホントに迷惑ばっかかけちゃってるな」


「え?ちが…まぁいいや、じゃーね」


そういうと病室を出ていった。


しばらくしてまたドアが開くと


「お母さん来てくれたよー」


そういう優奈の後に入ってきたのは…


「…ホントにすいま……え?…えええええ???な、なんで??」


「なんでって事ないでしょ!アンタが入院するっていうから来たんじゃないの」


優奈の母ではなく勝也の母親だった。


「はぁ?だ、誰に…あ!お前か!」


「だってお母さんとはよくLINEもしてるし電話もしてるもん」

「な…知らない間に何してんだよっ!!」


「別に私と優奈ちゃんが仲良くするのにアンタに許可貰う必要はないでしょ?」


「いや…っていうか…」

「なんならお姉さんともLINEしてるよ」


「…最悪だ…」


驚きの連続で手術に対する恐怖など忘れてしまっていた。


「店は?」

「開けてるよ、今日私が帰るまではお父さん一人だけど」


「えー!今日帰るんですかぁ??」

「そりゃ帰りますよ。お父さんに様子見て来いって言われてきただけだもん」


「泊まってほしかったのにぃ~…」

「まー嬉しい事言ってくれる『娘』だこと。また今度ゆっくり来るからね」


「…なんか怖い展開に…」


「元気そうだから安心したよ。考えたら病気じゃないもんね(笑)じゃ私は支払いの事とか話したら帰るから。優奈ちゃん、後はよろしくね~」


「え?…おいちょっと!支払いって…」


だが聞く耳も持たずに母は病室から出ていった。


「優奈!」

「わかった!」


優奈が母の後を追う。


「ちょ、ちょっと…お母さん!」


「どうしたの?」

「あの…支払いって…」


「入院費とか手術費の事に決まってるでしょ」


「あの…それなんですけど、勝也さんは自分で払うからって…」

「何バカな事言ってるの(笑)」


「いえ…でも…」


すると母の視線が真面目なモノに変わる。


「ちょっとおいで」


「はい…」


ナースセンター近くの談話室に2人で座る。


「どうせまたアルバイトして払うとか言ってるんでしょ?」

「はい…ケガしたのは自分のせいだからって」


「あの子が学費以外は自分で稼ぐって言って家を飛び出したのは知ってるよね」


「…はい」

「でもそれを聞いて『それなら助かるわ』っていう親がいると思う?」


「…………」


「あの子は家を出てから本当に1度たりとも私たちを頼ってきた事はない。でもそれって親としてどれだけ寂しい事かわかる?」


「…え?」


「普通の高校生ぐらいなら実家で暮らしてお小遣い貰って、それでも足りなくて『ちょっと前借り』とか『臨時小遣い』とか言ってくる年頃でしょ?…でもあの子はそれをしないどころか何もかも自分でしようとしてる。…私だって本当ならお父さんに内緒でちょっとお小遣いあげたりとかもっと母として頼られたりとか、そういう普通の親子でいたかった…」


「…おかあ…さん…」


母の声はどんどん涙声に変わっていく。


「早く自立しようとしてるのかもしれないけど、たった15歳で私たちの元を離れておまけに頼られることもないなんて…あの子がどんどん遠くにいこうとしてるみたいで…」


優奈の目からも涙が溢れだした。

こうして言われるまで勝也の両親の気持ちを考えていなかった事に気付いた。


全てを自分でやろうとしている勝也の事は尊敬している。

だがそれをやればやるほど両親は寂しい思いをしていたのだ。


「年に1回しか顔も見せてくれないのに…毎日毎日『ちゃんと生活出来てるのかな』『ちゃんとご飯は食べてるのかな』とか、そんな事ばっかり考えて生きてるんだよ?これで入院費まで拒否されたら、なんか他人みたいじゃない…」


「…ごめんなさい…本当にごめんなさい…」


「あなたが謝ることじゃ…」


「いえ…何もかも自分でやろうとしている勝也さんをただ凄いと思って尊敬していました。許されるならそのお手伝いをしたいとも思っていました。でも私もお父さんやお母さんの気持ちを考えてませんでした…だからごめんなさい…」

「……………」


「勝也さんには私から話します。今回の入院費、よろしくお願いします」


「…あなたはホントに私の娘になってくれたんだね」


勝也以外に肩を抱かれてこれほど嬉しかったことは無い。

玄関口まで母を見送るとまた病室に戻った。


「おう、ちゃんと阻止してきたか?」


「ん…今回はお母さんに甘えることにした」


「はぁ?!…お前何言って…」

「ちょっと聞いて」


それから勝也の隣に座り、必死に涙をこらえながら母の想いを伝えた。


そのまま沈黙が続き


「それでも甘えたらダメだった?」


するとしばらく黙っていた勝也が


「…優奈ぁ」

「ん?」


「この手が治ったら親父とお袋の顔見に行こっか」


「うん!」


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