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78 大怪我 ①

『キャアアアアァァァァッッ!!!!!』


階段の方から複数の女子の叫び声が聞こえた。


「なんだ?」


「ったく…うっせぇな…」

「女子に厳しいじゃん陽平。そんなんだから彼女出来ないんじゃない?」


蘭に突っ込まれる陽平。

そんな身内話をしている中、バァン!と大きな音を立てて扉が開き


「優奈ぁっ!勝也が階段から…」


「…え?!」


さっきの叫び声とみさの慌て様にイヤな予感が走る。


 ガタアアァァァァァン!!!!


椅子を倒しながら勢いよく立ち上がると廊下へ飛び出し階段の方へ猛ダッシュで向かう。


踊り場を回って下の階へと視界が開けた途端、階段の下に人垣が見えた。

その人混みを弾き飛ばすように突っ込んでいくと、その中央に勝也が横たわっていた。


「勝也ぁぁっ!!」


すぐ脇に両膝をついて抱き起こし、腕に頭を乗せてユサユサと揺らしてみるが


「動かすなっ!頭打ってるから!!」


勝也の目は閉じたままで意識は無い。


その横で体を震わせ青ざめた顔の芽衣が立っている。

涙をこぼしながら勝也を見つめる芽衣に気付くと、隣にいた康太に


「何があったのっ?!」


「上からふざけながら降りてきた奴らがいてそこの踊り場で出会い頭に芽衣ちゃんにぶつかったんだ。それで芽衣ちゃんが落ちそうになった時ちょうど勝也がいて、咄嗟に腕掴んで助けたんだけど…」


「…ま…松下クンが身代わりに……あたしのせいで…」


ガタガタと唇を震わせて必死に説明する芽衣。


「大丈夫、芽衣ちゃんのせいじゃない…」


必死に落ち着こうとする優奈だが、目の前で意識を失っている勝也を目の当たりにして何をどうしていいか分からずにいた。


すぐに教師達が数人駆け付ける。

そしてその状況をみて


「まずいな、とりあえずタンカで…」

「いや、救急車呼びましょう。ヘタに動かさないほうが」


「とりあえずみんな教室へ戻りなさい!」


遠巻きに見ていた生徒達もクラスメイト達もその場を動かない。


「ほら安東。あとは先生たちが」


「ヤだ…この人は絶対あたしが守るの!」


勝也の上半身を自分の太ももに乗せ、頭を腕に乗せて抱きかかえている優奈。


「動かさない方がいい。とにかく保健室へ行って先生を…」

「お…俺が呼んでくるっ!!」


康太が駆け出したものの周りはまだ騒然としている中で


「お願い勝也ぁ…目ぇ開けてよ…」


勝也の頬に手を当てて必死に呼びかける。

だが頭を打って意識を失っているため


「安東、とにかく松下を寝かせないと」


「イヤだぁぁっ!!!」


大きな声で叫びながら優奈の腕を掴んできた教師の手を振り払う。

すると


「うるせぇな…声デケぇよお前…」


「あっ!」

「…耳元で叫ぶなバカ」


まだ目は開いていないものの意識は戻ったようだ。


「おい松下!大丈夫か?どこか痛いところは」

「…大丈夫だよ…ちょっと…フラフラし…て…」


また意識が朦朧とし始めた様子の勝也。

そこへ康太が呼びに行った保健室の先生が来る。


保健室のベッドにあった枕を持って来て、優奈の足元にそれを置くと


「安東さん、ゆっくりここに頭を乗せて」

「ヤだ…あたしが…」


「言う事聞きなさい!彼が大変な事になってもいいの?!」


大きな声で怒られ、渋々勝也の頭を自分の腕から枕へと移す。

それから声を掛けたり脈をみたり指で目を開いて瞳孔を確認すると


「誰かタンカ持って来て。救急車までは必要ないと思うけどとにかく保健室に運びます」


教師や康太たちがタンカを取りに行き、勝也の横に広げ4~5人がかりでタンカに乗せる。


今朝も歩いて一緒に登校した勝也がタンカに横たわり運ばれる姿を見て優奈は涙をこぼしながら、隣に寄り添い保健室へと向かった。


ベッドに寝かされる勝也。

白い枕に血がついていなかった事から出血はないと見える。


「とにかく私がついてるからみんなは教室に戻りなさい」

「あたしもここに…」


「もしなにかあったらすぐに知らせてあげるから。あなたは授業があるでしょ?しっかりしないと」


「でも…」


「優奈、ウチらがいたって何にも出来ないよ。とにかく先生にまかせて一旦戻ろ」

「勝也は絶対ちゃんと目覚めるから。大丈夫だよ」


友人たちに肩を抱かれ、何度も振り返りながら渋々教室へと戻る。



授業の合間の休み時間になる度に保健室を訪れる優奈。


「まーよく毎時間来るねぇ。大丈夫、さっき目は覚めたよ。今はただの睡眠」


「はぁぁ~…良かったぁ」


「松下君と付き合ってんだよね?」

「え…あ、うん」


「こんな人気者の心を独り占めするなんて幸せ者だね、松下君って」


「違うよ、幸せ者なのはあたしの方」


歳も若く明るいキャラの保健室の先生。

校内の女子とも仲が良く話の通じる先生として人気もあった。


かたや自分のせいで勝也が落ちたのだと一心に責任を感じドン底まで落ち込んでいる芽衣。休み時間終わりに優奈が保健室から戻ってくると


「ど…どうだった?松下クン」


「うん、さっき目は覚ましたって。今度はしっかり『熟睡』してた」


「はぁぁぁぁ~……良かった……」


「ねぇ、何度も言ってるけど芽衣ちゃんのせいじゃないからね」

「そうだよ。その階段でふざけてたってヤローが悪いんだから」


「でも…松下クンあたしの身代わりに落ちたんだもん」

「大丈夫だよ。逆に芽衣ちゃんがそれを気にしてる方があいつイヤがるって」


 授業が始まり、その後の休み時間のチャイムが鳴る。

また勝也の様子を見に行こうと優奈が立ち上がった途端


 ガラッ!


扉が開き、そこに勝也が立っていた。


「あ!!」

「おおおぉぉぉぉ~~っ!」


「なんだよ、人をバケモンみたいに」


普通に冗談っぽく返してきた勝也に全員安堵の表情を浮かべる。


「だ…大丈夫?歩いたりして平気なの?」


「あんまり寝てばっかいるモンだからもう帰れって言われた」

「はぁぁぁ~~…良かった…」


優奈も一安心したところへ今度は芽衣が駆け寄ってくる。


「あ、あの!ご、ごめんなさい…あたしのせいで…あの…」


声を震わせて頭を下げ続ける芽衣に


「おぉ芽衣ちゃん!怪我なくて良かったな」


明るい表情で返す勝也。


だが優奈は少し違和感を感じていた。


いつも勝也がポケットに入れているのは弦を押さえる左手のはず。

しかし今の勝也はずっと右手を隠している。


短い休み時間の為あっという間に次の授業が始まる時間となるのだが…スッと優奈の耳元に顔を近づけ小さな声で


「今日は家帰って休んどけって言われたから帰るわ」


「え…じゃああたしも」

「保護者かお前は。大丈夫だよ、ちゃんと真っ直ぐ帰る」


するとその顔をジッと見つめ


「ねぇ…ホントにどこもケガしてない?」


「してないよ、ちゃんと歩いて帰ってきたろ」


「じゃあ右手出して」

「…え?」


言われても勝也は右手を出そうとしない。


「どうしたの?…み・ぎ・て!」


「………………」


「やっぱりなんかケガしてるんでしょ」

「…今は聞くな。芽衣ちゃんに聞こえる」


「わかった、じゃああたしも一緒に帰る」


ボソボソと会話する2人に周りが気づき始めた。


「どーしたのー?」


「なんでもないよ、勝也帰らなきゃいけないみたいだから連れて帰るね」

「だからお前まで帰らなくていいって…」


「あたしの言う事が聞けないの?」


いつも勝也に言われている言葉。

それが優奈の口から出てくるとは周りの友人達も驚いた表情でいるものの、同時に『それは通用しないだろ…』と勝也がキレる事を予感した。


だが


「…チッ…わかったよ」


「えっ?」


驚いた表情の友人達をよそに自分の荷物と勝也の荷物をまとめ帰り支度を始める。

そこへ次の授業の科目でもある担任が入ってきた。


「おぉ松下、大丈夫か?今日はもう帰るようにって…あれ…安東?」


「あ、先生。今日は生理痛がヒドいんで早退しまーす」

「え?おいおい、そんな急に…君まで帰る必要は…」


するとギロッと鋭く突き刺さるような視線を向け


「へ~、女子が苦しんでるのに信用出来ないって言うんだ。なんなら今ここで生理だって証拠見せてあげようか?」


「いや、あの…気をつけて帰りなさいね」


「は~い♪」


そのやり取りからクラス全員の頭には同じ言葉が浮かんだ。


(…優奈って怖ぇぇ~…)


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